今からでも間に合う「私たちにできること~生物多様性~」
前回の「今からでも間に合う」では、おばあちゃんのいう「自然の恵み」についてこれまでの記事を振り返りながら考えてみました。今回はその自然の恵み、つまり生態系サービスを生み出すもととなる生物多様性について、これまでの記事を振り返りながらあらためて考えていきましょう。 ■生態系の多様性: なんかぐるぐるまわってるみたいでおもしろいね。ぼくはおいしいお芋さんを食べて、微生物さんは大好きなお芋の皮を食べて、野菜は栄養たっぷりの土と太陽の光で元気に育って、また僕はおいしい野菜が食べられる。これは、誰が何を好きかわかりやすいね。 せやな。そのぐるぐる回ってる関わり合いを生態系っていうんや。生き物の種類が多ければそのぐるぐるはいっぱいできて自然の恵みも増えるんやで。 関連記事はこちら→ 生態系は生物同士の様々な関係性と周辺環境の組み合わせによって育まれます。食物連鎖に見られる食べる、食べられるの関係性もそうですが、それだけでなく、例えば花とハチのようにえさを与えて受粉を助けてもらうことや、鳥が木の実を食べて樹木はその種を運んでもらうなどの資源やサービスを交換するという共生関係も見られます。そしてこのような生物同士の関係性に加え、光や水、化学物質などの環境と生物の関係性も加わった関係性の集合体が生態系なのです。たてきくんが川原で見た生き物の種類が多くて「ぐるぐるがいっぱいできる状態」は、その関係性の中で様々な資源やサービスが生まれており、生態系が豊かな状態といえるでしょう。 ■種の多様性: おばあちゃん、名前はわかんないけどすごくいろんな虫がいて、飛んだりじっとしたりしてるよ。でも多すぎて何が何を好きなのかはよくわかんない。 そうやな。こんな何でもない草むらなんかは植物の種類も多くて、その場所が好きないきものが暮らしやすいんやな。地面の中もちょっと掘ったりしてよーく見てごらん。 関連記事はこちら→ 地球上にはなぜ、様々な生物がいるのでしょうか?それは、お互いが支えあいバランスをとっているからです。たとえば、たてきくんがおばあちゃんと訪れた川原には、いろんな種類の生き物がいましたね。そのようなさまざまな生き物がいることを「種の多様性」といいます。 ■遺伝子の多様性: 時にぼうや、遺伝子が多様じゃないとどうなると思う? みんなおんなじ味? そうやな。いいとこついてる。おんなじ味やろうし、なんか病気が出たりしたらおんなじ病気に弱いから全滅してしまうんや。困るやろ。ほんだら、それが人間やったらどうなると思う? 関連記事はこちら→ おばあちゃんが話している、おんなじ病気に弱いと全滅するという話を想像してみてください。次の世代につないでいくことこそが生き物の最重要課題です。だからこそ、全滅は最悪の結果です。なぜならその種の生き物がすべていなくなってしまうと、再生することができなくなるからです。そこでそれを回避するために同じ種の生き物でも個体によって暮らしやすい環境などが違うという個性を持つことで、様々な環境の変化があっても、その種のうちのどれかの遺伝子が生き延びられるようになっているのです。一見するといくら遺伝子が異なっていても、あまり見分けがつかない生き物が多いのですが、お話の中で出てきたナミテントウやアサリなんかは遺伝子の多様性が見た目にはっきりと違いとなって表れています。春になったら潮干狩りでチェックしてみてください。 ■生物多様性が失われたら 生物多様性が失われたらどうなるかを見ることで、生物多様性を守る必要性を考えてみましょう。 ■まとめ 生物多様性を守るために私たちにできること。それはまずは「知ること」ではないでしょうか。
生物多様性/生態系の多様性 ~私たちにできること~
生物多様性/種の多様性 ~私たちにできること~
絶滅危惧種という言葉をよく耳にしますが、それはこれまではたくさんいたのに何らかの原因でその数が減っていて、このままでは種そのものが絶滅してしまう恐れがある種のことです。その原因が、以前お話でも登場した開発、手入れ不足、外来種や気候変動といった人間起因のものの場合が多いのは残念なことですね。ホッキョクグマやシロサイ、ホモサピエンスなどの哺乳類をはじめとした脊椎動物や、昆虫、甲殻類などの無脊椎動物、植物そして菌類・原生生物など、地球上には確認されているだけで200万種を超える生物種が存在しています。未知のものを含めると一説では3000万種もの生物種がいるといわれています。
生物多様性/遺伝子の多様性 ~私たちにできること~
かつて、北アメリカ大陸の西側周辺のアラスカから南カリフォルニアのあたりにはかつてケルプ(大型の海草の総称)を中心とした生態系が広がっていてそこにラッコが数多く生息していました。しかし、18世紀から19世紀にかけてラッコの毛皮が高値で取引されたため乱獲の憂き目にあい、19世紀末にはラッコは2000頭以下にまで減少、絶滅寸前にまで追い込まれました。すると、ケルプの海草林が姿を消し始め、そこに暮らしていた魚やエビ、カニ、貝などの無脊椎動物も姿を消していきました。なぜでしょう?
理由は、ラッコの主食であるウニの大量発生でした。ラッコがウニを食べることでその増加を抑えていたのですが、ラッコがいなくなり植物食のウニが増加することでケルプが食べつくされてしまい、絶滅の連鎖が起こってしまったのです。
このラッコのように生態系存続のカギになる種をキーストーン種といいます。キーストーンは、アーチの頂上にはめられる石のことで、これを外すとアーチは崩れてしまうというものです。ただし、ラッコの例がこうなるまで気づけなかったように生物種間の関係は複雑に絡み合っておりキーストーン種がどの種なのかは、非常にわかりづらいようです。
私たちは、自分の生活の利便性を優先させて環境を壊す行為を是認してしまうことが残念ながらあります。しかし、その行為がまわりまわってどこかで生物多様性の喪失につながりひいてはキーストーン種の絶滅につながってしまうかもしれないのです。そこで私たちにできることは、私たちの生活を支えてくれている自然の恵みについて思いを巡らせるチカラをつけることではないでしょうか。そのチカラで考え判断することができれば人間起因の多様性の喪失を減らすきっかけになります。これは、私たち個人であっても、企業であっても、自治体であっても、国であっても同じことです。環境を壊す行為を安易に是認しない、まず一度立ち止まって広い視野で是非を考えてみる。その判断力をつけることがとても大切なのでしょう。ぜひ、何かの判断をするとき、このラッコの話を思い出してもらえればと思います。