木でホテルを建ててみよう ~中規模ホテル木造化モデル案~
令和4~5年度の農林水産省ウッドチェンジ協議会において前田建設が提案した『中規模ホテル木造化モデル案』。汎用性の高い国産木材と一般的な技術を活かして、環境共生経済(カーボンニュートラル、ネイチャーポジティブ。サーキュラーエコノミー)の実現に寄与する、木造ホテルの提案です。2024年5月の非住宅木造建築フェア2024に出展した際には、この木造ホテルを、令和6年3月に林野庁により発表された『建築物への木材利用に係る評価ガイダンス』に沿って、環境への配慮や地域との連携について評価しました。
■WOOD CHANGE HOTEL “FEATURE”
本計画は木を使って建てることで景観を損なうことなく周辺環境との調和を目指したリゾートホテルです。2階以上の木造部の構造体には国産杉のCLTを採用。使用する主要部材の最大寸法を6mにとどめた計画とすることで、国内各所のCLT工場から調達可能となります。また、内装仕上げ材には地域の木を活かしその味わいを魅せる計画としました。
基準階中央部に耐力要素を集中させ、CLTパネル工法による柱梁型の無いフルワイド・フルハイト開口により開放感を演出します。
■BASIC DATA
主要構造:木造、RC造
耐火性能:耐火建築物
規模:地上6階建て
建築面積:約2,750㎡
延床面積:約6,800㎡
最高高さ:23.20m
階高:3.35m
天井高:2.4m
■宿泊者が求める“心地よい空間”
1.快適な温熱環境
木造の建物の室内では、一年を通して室温全体の温度環境が均一で高さによる温度差が少ないため快適※に過ごすことが出来ます。
※ISO7730(適度な温熱環境:温度差3℃以内)
2.リラックスできる個のスペース
静かでリラックスできる遮音環境を木造の床・壁で実現することができます。界壁は空気層の確保、断熱材の充てんにより流通している戸境遮音壁と同等の遮音性能を目標としています。界床は防振束や防振ゴム天井、遮音マットの敷設等により遮音性を確保します。
■事業者が求める“環境への配慮”
1.CO2排出量・CO2固定量
製造時CO2排出量の多いS造で建てた場合と、木造で建てた場合を比較し、地球環境への負荷を数値化しました。S造から木造・木質化することにより、この計画では建設時のCO2排出量は約20%低減することができます。さらに、木材にCO2を固定することができるので、木造・木質化による環境負荷低減効果は大きいと言えるでしょう。
2.サーキュラーエコノミー
森林から調達された木材は再生可能な循環資源です。製造時にCO2が多く排出される鉄で建てるよりも環境負荷が小さく、また、CLTを使うことで建物の解体時に躯体や接合部も分別、回収および再利用ができ、廃棄物の発生量を抑制することができます。
■事業者が求める“地域との連携”
1.森林資源活用による地域貢献
今回の提案では、木材利用促進の観点から再現性の高さをコンセプトに、独自技術を用いることなく告示のCLTパネル工法告示に準拠した構造計画を行いました。内装木質化には、積極的に地域の木材を使用することで訪れた人に木の温かみや味わいを感じてもらうことも狙いのひとつです。
構造材:
3,250㎥ 100%国産材
スギCLT、スギ集成材(クリーンウッド法登録業者より調達)
仕上材:
204㎥ 100%国産材
各種広葉樹(FSC®認証を受けた森林の認証木材を調達)
2.地域産材の使用による経済波及効果
地域の木材を使用することで経済波及効果が生まれます。経済波及効果とは、新たに需要が発生したときに、その需要を満たすために次々と新たな生産が誘発されていくことを指します。
- 直接効果…新たな需要によって発生した生産分のこと
- 第一次波及効果…直接効果による生産誘発のこと
- 第二次波及効果…直接及び第一次波及効果で増加した雇用所得のうち消費に回された分が新たに生み出す効果のこと
■まとめ
木促法が2010年に施行されて以降、前田建設では2014年竣工の住田町役場調査を皮切りに中大規模木造建築の実績を積み重ねてきました。2021年の木促法の改正や国際的な環境問題の注目度の高さにも後押しされ、最近では、木造・木質建築における木材利用がESG投資とも親和性が高いことから、収益を伴うオフィスやマンション、ホテルなどにまで活用領域が広がり始めています。
2030年のネイチャーポジティブ、そして、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた木材利用について考えるきっかけのひとつになれば幸いです。
≪参考≫
中規模ホテルの木造化モデル案
https://www.howtec.or.jp/files/libs/5251/202405161139326426.pdf
建築物への木材利用に係る評価ガイダンス
https://www.rinya.maff.go.jp/j/mokusan/esg_architecture.html