第三話:自然共生社会の実現に向けて/炭素中立 ~私たちにできること

ひやま先生は、今度学校で学芸会をすることになりました。子どもたちと『桃太郎』を読んでいく中で、「おじいさんは、山へしばかりに・・・」という一文で、??となってしまいました。あれ、しばかりってなんだっけ?



ひやま先生


ひやま先生

お父さん、教えてほしいことがあるんだけど。桃太郎に出てくるおじいさんは、山へ「しばかり」に行くでしょ?あれってなにをするの?芝生を刈る芝刈りじゃないよね?

桧山さん

あはは、芝生じゃないよ。それは、「柴刈り」だね。柴犬の柴っていう字。山に落ちている小枝なんかを拾うことで、それを燃料にして使うんだよ。

ひやま先生

あ、そういうことなんだ。燃料っていうことは、かまどでご飯を炊いたりするのに使うの?

桧山さん

そうだね、かまどもあったし、私の子供のころはお風呂も火を焚いて沸かしていたんだよ。小学生ぐらいまでかな。でもそのあとはガスや電気がどんどん普及して、柴刈りをしなくなった記憶があるな。

ひやま先生

私は子供のころから今のように電気やガスを使っていたから改めて考えたことはなかったけど電気やガスって何を使ってつくってるの?

桧山さん

電気は火力発電や水力発電、例えば火力発電なら石油や石炭を燃やして、水力発電なら水を使ってタービンを回して発電をしているし、都市ガスはメタン、LPガスならブタンやプロパンを使ってる。どの燃料もその大半を外国からの輸入に頼っているけどね。

ひやま先生

そうなんだね。柴刈りを自分でするよりは生活は楽になってるんだろうけど、輸入中心ならちょっと心配ね。

桧山さん

そうなんだよ。私が小学生のころ、あと50年ぐらいしたら石油も石炭も使い尽くしてなくなってしまうとか、オイルショックで輸入できなくなるかもしれないから別の燃料を開発しなきゃいけないって話を聞いたことがあるよ。隣のおじさんの家は、屋根にパネルを載せて太陽の熱でお風呂のお湯が沸かせるって言ってたな。今の太陽光発電のはしりだね。

ひやま先生

でもそれからたぶん50年ぐらいたってるけど、石油も石炭もガスもなくならないよね。こないだ石油はあと50年ってニュースで言ってたし。

桧山さん

技術の進歩で、昔は掘り出すことができなかった石油なんかが見つかったり、掘り出せるようになってきているからだろうね。でも、これからは油田があっても使えない時代になってくると思うよ。

ひやま先生

え?どうして?

桧山さん

先週、たまきも学校でエコ生活チェックしてただろう?地球温暖化を防ごうっていって、使わない電気を消したり、シャワーの出しっぱなしをやめたりして二酸化炭素の排出を減らそうって。

ひやま先生

そうか、石油や石炭を燃やすと二酸化炭素を出しちゃうからあっても使えなくなるんだ。

桧山さん

そう、昔は石油がなくなったら仕方なく太陽光発電になると思っていたけど、今は二酸化炭素を出さないから太陽光や風力などの自然エネルギーが注目され期待が寄せられているんだよ。

ひやま先生

エコ生活チェックの時にクラスのこどもたちと勉強したんだけど、地球温暖化を防ぐために脱炭素社会の実現っていうでしょ?それでたてきくんに聞かれたんだけど。

たてき

脱炭素ってことは炭素をなくさなきゃらならないの?それなら鉛筆の芯とかダイヤモンドとかもなくさないといけないの?

ひやま先生

この質問にうまく答えられなくて。

桧山さん

なるほど、さすがたてきくんだね。おばあちゃんにいろいろと教えてもらってるから面白い質問が飛んできたね。確かに脱炭素っていう言葉は少しわかりにくいよね。鉛筆の芯やダイヤモンドだけでなく、人や植物などすべての生き物も炭素を含んでるので、それをなくしてしまうと地球上からほとんどのものがなくなってしまうよね。

ひやま先生

そうなのよそれで困っちゃって。

桧山さん

今、社会で求められている脱炭素は、二酸化炭素の排出をゼロにすることなんだ。二酸化炭素は炭素の気体のカタチで、これが増えると地球の表面の大気が太陽の熱を吸収しやすくなって、結果的に地球温暖化が進むからなんだよ。

ひやま先生

そっか、炭素の気体のカタチなんだね。固体の鉛筆やダイヤモンド、それに石炭や液体の石油も燃やさなければ温暖化の原因にはならないってことなのね。でも2050年までに二酸化炭素排出をゼロにするのは難しいんじゃないの?

桧山さん

そうだね。排出をゼロにはできないだろうから、二酸化炭素の排出と吸収の差し引きをゼロにすることを目指していて、それをカーボンニュートラルとか炭素中立って言っているんだよ。これはつまり出した分はどこかで吸収するっていうことだね。それじゃ、たまき、どこで吸収するんだと思う?

ひやま先生

うーん・・・ あ!それってもしかしてお父さんの山のチカラの続き?

桧山さん

その通り。小学生の時、理科の授業で習ったと思うけど、植物は人と同じように呼吸もするけど、そこで吐き出す以上に光合成で二酸化炭素を吸収するんだ。その時に酸素を吐き出して成長に必要な炭素を体にため込む。植物が育つのはこのおかげなんだ。

ひやま先生

そっか、じゃあ森が光合成をすれば木も成長するし、二酸化炭素も減っていくっていうことなのね。

桧山さん

さっきの桃太郎のお話のころなら、木は光合成に加えて燃料としても活躍していたから、人の暮らしと山の関係でよい循環ができたってことなんだろうね。

ひやま先生

山ってほんとにいろんなチカラがあるのね。もっと山のこと知りたくなってきたわ。

桧山さん

じゃあつづきはまた明日話そうか。

炭素中立/カーボンニュートラルって何?

ひやま先生が話していたように二酸化炭素排出量をゼロにすることは難しく、実際は排出量と同じ量の二酸化炭素を吸収できるようにする、つまり大気中の二酸化炭素の量をこれ以上増やさないというのが、カーボンニュートラルや炭素中立の概念です。そしてそれは、地球温暖化を防ぐための手段と考えられます。では、なぜ二酸化炭素を増やさないことが地球温暖化を防ぐ手段となるのでしょうか。太陽の熱は大気を通って地球に到達します。そして、その熱の一部は大気に残り、それ以外は大気圏外に放出されます。ここで大気に残る熱が問題です。この大気の二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの濃度が高ければ高いほど熱が逃げにくく、まさに大きな温室のようにしてしまう働きがあります。これが温室効果ガスと呼ばれるゆえんです。200年前に比べ大気中の二酸化炭素量はすでに1.4倍ぐらいに増えているので、本当はカーボンニュートラルといわず、将来的にはもう少し減らせると自然の回復力にも期待できるのではないでしょうか。



地球温暖化の仕組み

地球における炭素の流れ

大気を含む地球に存在する炭素の総量は、基本的には一定で、二酸化炭素は、その炭素と酸素が結びついてできる気体のカタチです。では、なぜその二酸化炭素が増えたり減ったりするのでしょうか。お話の中で石炭や石油の話が出てきましたよね。石炭は固体、石油は液体のカタチで地中に炭素が存在してる状態です。これを掘削して燃やすということは、地中の炭素を空気中の酸素と結びつけて二酸化炭素にするということになり、つまりは大気中の二酸化炭素は増えるのです。この200年ぐらいに二酸化炭素が急激に増えたのは、産業革命以降、このように地中の固体や液体の炭素が空気中に二酸化炭素として放たれたからと考えられるでしょう。一方、桧山さんが説明してくれたように植物は光合成をするときに二酸化炭素を吸い込んで炭素を体に蓄積していきます。つまり大気中の二酸化炭素を直接的に減らす働きがあるのです。木は自らが成長するために二酸化炭素を吸収して不要な酸素を吐き出しているだけなのですが、今の私たちの暮しを守るためにはとてもありがたい働きだとは思いませんか?

ここまで三回のお話で、山や森の働きが私たちの生活に欠かせないものであることを少しは気づいていただけたでしょうか。次回は、桧山さんが感じる山や森そして林業の重要性についてもう少し詳しくうかがえるようです。どうぞ、お楽しみに。

■イラスト協力


座二郎(ざじろう)

座二郎(ざじろう)

1974年 東京都生まれ
2000年 早稲田大学理工学研究科建築学専攻修士課程修了
2000年~21年 前田建設設計部。通勤電車の中で漫画を描き始める。
2021年 独立。描く建築家。

https://zajirogh.wixsite.com/zajirogh