コンフォリア芝浦MOKU 「コンフォリアシリーズ」の最新作
東急不動産株式会社(以降「東急不動産」)が手掛ける賃貸レジデンス「コンフォリア芝浦MOKU」が2024年10月に竣工しました。コンフォリアシリーズで初となる木造+RC混構造建築の賃貸レジデンスです。
木の特徴を活かした使い方や、賃貸では珍しい空調システムの採用など東急不動産の環境先進の想いにぴったりの物件です。
今回は東急不動産の辻さんと前田建設の設計者にお話を伺いました。
■インタビューにご協力いただいた方々
辻 香帆(つじ かほ)さん 写真右(以降敬称略)
東急不動産 住宅事業ユニット 首都圏住宅事業本部 投資アセット計画部に所属。
趣味はモーニング娘のライブ鑑賞、本物件を機にフラワーアレンジメントを始めました。
髙野 貴美子(たかの きみこ)さん 写真左(以降敬称略)
前田建設 建築設計第2部設計第3グループ アーキテクト
集合住宅を筆頭に、病院や学校などの設計を手がけるオールラウンダーの意匠設計者。
趣味は低山ハイキング。
①物件のコンセプト
―まずは、物件のコンセプトについて教えてください。
辻:当社は、全社的に「環境先進」に取り組んでおり、環境を起点とした取り組みを通して、サステナブルな社会の実現を目指しています。本物件コンフォリア芝浦MOKUも、当社の在り方である環境先進を積極的に体現する存在として、計画してきました。
昨今、サステナブルな社会の実現に対する重要度・緊急度は、国際的に高まっています。一方で、個人レベルで考えてみると、「環境に優しいから選ぶ」エシカル消費の考え方は、日本では十分に浸透しきってはいません。そこで、まずは、環境に優しいライフスタイルの価値を、住まいで感じていただくことができないかと思い、前田建設様にご相談しました。
高野:前田建設としては、提案書の段階で環境先進の想いを受けて、具体的な提案として木造・内装・外装・外構の緑化の4つの手法で木を取り入れた建物の提案をしました。併せて、省エネルギーかつ、居住空間全体が年間を通して快適に安定する空調システムである、床チャンバーシステムも提案し、採用されました。
―竣工して、東急不動産の社内の方々の反応はいかがでしたか?
辻:「環境に優しい」取り組みの伝わりやすさが社内にも大変好評でした。以前、木造を組み込んだ学生レジデンスの計画を少し担当しておりました。とても好きな物件なのですが、木が構造体の中に隠れて、入居者に伝わりにくい事を勿体なくも感じておりました。
本物件は、木質化も追加して、外壁やマリオン、軒天、専有部の壁等、目に見えるところにふんだんに木を使用しているので、入居者様に木との暮らし心地を感じていただきやすいと思います。もちろん、伝わりやすくするためには、表面に本物の木を持ってくる必要があるため、難しい事も多くあると思いますが、前田建設様だからこそ実現できたと思います。
②木造・木質化
―木造・木質化の賃貸マンションをつくるということはいかがでしたか?
辻:木は自然の個性によるばらつきが心配でしたが、美しく仕上げていただきました。また、自然のものだからこそ、経年劣化ではなく「経年美化」を楽しむことで、建物に愛着を持ち、長く住みたいと思っていただけるのではないかと考えています。
高野:(監理者の立場で)計画当初より、東急不動産様はばらつきを味として、受け入れていただいていたので安心感がありました。
―外部の木の使い方ですが、劣化に配慮しつつ、視認性が高いところに効果的に配置されていると感じます。具体的にどのような工夫をしましたか。
高野:前田建設は10年以上前から木造に取り組んでおり、社内に木造・木質化に関する知見があります。それらを活かし、外装材は一般の方からよく見える部分で、かつ直射日光が当たりにくい場所(=木が劣化しにくい)に配置したり、水の跳ね返りを避けられる高さまで下端をあげたり、木の劣化を避ける工夫をしました。
③木造賃貸マンション
―賃貸マンションで住居者が物件を選ぶ決め手は何でしょうか。
辻:お客様が住む場所を決める際の決定要因は、価格と立地が大部分を占めますが、最後に後押しできるのは空間づくりだと考えています。 居住者様からも、コンフォリア芝浦MOKUは共用部の魅力が評価されています。
―賃貸にしては1階・2階の共用部が広く、分譲マンションのようですが、設計者としてどのような提案をしたのでしょうか。
高野:初期から2階に広い共用スペースを確保していたので、事業性を損なうことなく共用部を作り込むことができました。2階は屋内外ともに、木や緑をふんだんに使って、魅力的な空間になったと感じています。
―賃貸で共用部を使うのは無料ですか?
辻:一部有料の個室(防音仕様なのでテレワークに最適)もありますが、基本的には無料です。本物件のルーツは、環境に優しいライフスタイルの価値を、住まいで感じていただくことにあるので、多くの方に利用いただきたいと思っています。勿論、2階フロアの事業性のみを考えると、有料化や貸床化の選択肢もありますが、2階の共用部をコンセプトに基づいて豊かに作り込むことで、本物件に住まうことの価値を感じていただけると思います。
④特徴あるデザイン
―どの住戸も木をあしらった空間が印象的ですが、特に最上階と2階が個性的ですね。
辻:最上階の一部は構造体が木のため、木の存在が伝わるように、柱の仕上げにも天然の木を使用しています。また、2階は共用部がある関係で階高が3.5mと住宅としては十分すぎる高さがあるため、その階高を生かす方法を前田建設様にご提案いただきました。


高野:設計部で検討した際に、まずは振り切った提案をしよう!ということになり、ロフトタイプや床下収納タイプなど、かなり個性的な案を提案したところ、なんとそれが採用されました。
辻:ご提案には驚きましたが、社内外の内覧でも好評で、他の物件にはない強い特徴を持たせることができました。下層階にここにしかない魅力的な住戸をつくることで、事業性の向上も図れます。
⑤木材供給について
―木材の供給方法はどのようにされましたか。
高野:国産材を中心に手配しました。最上階の構造材はカラマツやスギを使っています。
辻:2階ラウンジは、東京都檜原村の木を使っています。東京に住まう人に、日常的に同じ東京の山で育った木材を感じて、建物に愛着をもってほしいという想いがあります。
⑥今後の展望について
―東急不動産は今後どの様に環境先進を進めていきますか。
辻:本物件では、木を起点とした環境への取り組みのみならず、新芝南運河沿いに位置するという立地特性を活かし、「運河」を巻き込んだ環境への取り組みにも注力しております。 国際的に活躍する日本の海洋リテラシーの普及・教育の第一人者である東京海洋大学の佐々木剛教授を招き、居住者向けのイベントを実施するなど、住まう物件に隣接する身近な運河を起点に、生物多様性等の海洋リテラシーを育みながら、地域貢献にもつながる体験を提供してまいります。
―お話しを伺っていると、東急不動産の事業は不動産屋の枠を超え、地域や街をつくるエリアマネジメントですね。
辻:街の十年後、百年後を見据えて事業を考える時代になっています。本物件のような木の取り組みや、隣接運河を起点としたイベントは、短期的な住まいである賃貸物件では難しかった、物件や地域への愛着の醸成にも繋がると考えています。入居者の方が、物件と地域に愛着を持って住んでくださり、経年美化を楽しんでいただくことを期待しています。
―辻さん、髙野さん、この度はありがとうございました。