「非住宅木造建築フェア 2026」 特別公演 木で建ててみようで森も建物もサステナブルに①
ここ何年かでいろいろな場所で耳にするようになった“サステナブルにしよう“というワード。
サステナブルはSustainに可能のableをつなげた言葉で、直訳すると維持することができるという意味。つまり“サステナブルにしよう”ということは、持続可能にしようということを意味します。
サステナブルにしようということは、現状はサステナブルではないということ。
では、何がサステナブルではないのでしょうか。自然環境や地球が、と思う方が多いかと思いますが、実はこれは今の人間の暮らしが、このままだと維持できないということを指します。
つまり、未来の世代に今の暮らしを残せないということです。
ですので、今回のタイトルを最後まで書くとこうなります。
『木で建ててみようで森も建物もサステナブルにして私たちの暮らしをサステナブルにしよう』
私たちの暮らしをサステナブルにするために、何ができるのかを考えていきたいと思います。

まずは戦後の拡大造林が最盛期を迎えた1950年代終わりごろから話を始めます。
1950年ごろから始まった戦後の拡大造林がピークを迎えた1965年、林業基本法が制定されます。当時は国産材自給率も70%以上あり、林業の主な役割は木材生産と考えられていたようです。 実際にこの法律の中でも、林業生産の拡大と林業従事者の所得を拡大してその経済的社会的地位の向上を図ることが目標とされています。山を森林としてではなく、木の生産場所として捉えていることが伝わってきます。
しかし、拡大造林の木材がまだ十分に育っていないこの時期、1959年議員立法、公共のRC化、ツーバイフォーの台頭といった木材産業にとっていくつかの逆風が吹き、国産材の自給率がどんどん下がっていきます。

国産材自給率の低下が止まらない中、一見大きな関わりがないと思われるかもしれませんが、1985年のオーストリア・フィラハ会議で国際会議としては初めて地球温暖化に対する警鐘が鳴らされ、 つづく1992年の気候変動並びに生物多様性の双子の条約から近年の環境問題意識の広がりが本格化します。
そして、1997年に京都で開かれたCOP3では京都議定書が採択され、世界で初めて、国際的に温室効果ガスの排出を国別で管理、削減していく仕組みを作っていくことを促しました。
日本は削減目標の1990年度比CO2排出6%のうち半分以上の3.8%を森林吸収で確保しました。その時に、森林の木材生産だけではない機能つまり二酸化炭素の吸収源が注目を集めたのです。 その後4年後の2001年に林業基本法が森林・林業基本法に改正されます。そこには、国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展を図ることを目的とすると書かれており、森林の有する多面的機能の発揮と林産物の利用の促進による林業の持続的健全な発展の2つを基本理念として掲げています。
森林の多面的機能については、ここに書かれている通りなのですが、皆さんお気づきでしょうか。新しく追加されたこの多面的機能の発揮について、特に新しい就業者が増えるという話ではなく、森林所有者の方や林業従事者の方が、 従来の林産物の供給に加え、急に広範囲な役割を担うことになったのです。
さて、森林林業基本法のもう一方、林産物の利用の促進、特に木材について先ほどの国産材自給率の低下のあたりに戻りたいと思います。先ほどの逆風を受け続け、2000年には国産材自給率は20%を下回ります。実際に森林・林業基本法の翌年、2002年の国産材利用率は過去最低の18.8%まで下がっています。
この後徐々に上がり始めましたが、戦後の拡大造林で植えた木が育っていく中、森林の多面的機能を存分に発揮させるためには、更なる国産材の利用を促進することが不可欠でした。

そのためには、木を何に使うのが良いのでしょうか?
それまでも木材の利用の多くは建築土木と紙でした。ただ建築についてはそのほとんどが戸建て住宅。そこで中大規模木造建築にターゲットが絞られました。
ただし、そこにはいくつかの壁がありました、木造建築を避けていた過去と、木造建築を大規模化するには厳しい基準法の壁です。
これらの逆風を押し返すかのように、2010年公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律いわゆる木促法が制定され、この法律の冒頭、木材の利用の促進の意義には、「森林の多面的な機能の発揮及び山村の活性化」が明記されています。
そして利用促進の方法として、まずは公共建築物から建てることで一般への波及効果を期待し、そのために建築基準法の規制の在り方について撤廃または緩和のための必要な措置を講ずると書かれており、目標、今でいうKPIとして低層の公共建築部物の木造化率30%を目指すとされていました。

こちらは、2010年からの11年間の公共建築物の木造化率のグラフです。2010年当時、20%にもみたなかった低層公共建築物の木造化率が、2020年には当初の目標に近く29.7%までが上昇しました。
また、その間、2015年のSGD、パリ協定、ESG投資の本格化、TCFDのフレームワークの公表そして、2020年当時の菅首相のカーボンニュートラル宣言など、環境問題が社会の表舞台に本格的に出てくるようになりました。
そして、各社の研究開発、実績の蓄積もあり、2021年、この法律が低層・公共建築物だけではなく、高層や民間建築にも言及するようになり、中大規模建築物への木材利用は増加していきます。
全国的に中大規模木造建築は広がりを見せています。2010年の木促法以降、木材利用の促進が進んでいることがお分かりいただけるかと思います。肌感としては、中大規模木造建築は、黎明期からすでに成長期、もしくは普及期に入ってきたのではないかと感じるほどです。
このように森林・林業基本法の基本理念、多面的機能の発揮と木材の利用促進は、中大規模木造建築物への木材利用をエンジンとし、森林を使い守り健全にすることで相互の循環が生まれて実現し始めていると言えるのではないでしょうか。
では、この循環は“サステナブル”なのでしょうか?
次回は、木材利用の推進、森林の多面的機能の発揮がサステナブルではなくなってしまうかもしれない課題について、紐解いてみたいと思います。
