「非住宅木造建築フェア 2026」 特別公演 木で建ててみようで森も建物もサステナブルに②
前回は、木材利用の促進が森林の健全な循環を促し、森林の多面的機能が発揮されることをご説明しました。
この循環が“サステナブル”になるための課題として、ここまでの流れを踏まえて二つのことをお話しします。
1.木造建築推進に潜む心配事
まずは木造建築推進に潜む心配事です。
木造木質建築を計画・設計する際、特に気を付けなければならないことは以下の4つです。

木造建築黎明期の頃は、携わる人全員がこれらに注意しながら設計、施工し問題を解決してきました。その結果、特に火災や地震への対応については、建築基準法の整備・合理化に加え、多くの技術者や研究者による創意工夫と技術開発によって、耐火・耐震技術が確立されてきています。そのため、これらのリスクは大幅に低減されており、一定程度克服されていると考えられます。また、初めて設計する人でも、確認申請というチェック機能があるため、不十分な設計がそのまま認められることはありません。
騒音への対応についても、技術開発の進展により様々な対策手法が確立されています。中大規模建築物ではコンクリート床を併用することが多く、遮音性能の確保が比較的容易です。また、仮に課題が生じた場合でも、竣工前の確認段階で発見されることが多く、その都度適切な対策を講じることで、高い水準で対応できるようになっています。
しかし、劣化への対応については少し状況が異なります。火災や地震、騒音のように完成時や竣工前に性能を確認できるものと違い、劣化は長い時間をかけて進行するため、竣工直後には問題として現れません。
さらに、この問題は建物の安全性や維持管理、ひいては建築の持続可能性そのものにも関わる重要な課題です。いま私たちは、まさにこの劣化と正面から向き合わなければならない段階に来ています。
特に木材を外部に用いた建築は、竣工時には非常に美しく仕上がる一方で、将来生じる劣化のリスクが見えにくいことがあります。また、設計者は建築材料の性能を信頼するあまり、その耐久性を過信してしまうことも少なくありません。
実際、日本の建材は非常に高性能で、メンテナンスの負担が少ない製品も数多く存在します。そのため、木材についても同じような感覚で捉えてしまい、設計や施工に注力する一方で、10年後、20年後の姿まで十分に想像が及ばないことがあります。
加えて、大学における建築教育では、木材の劣化や維持管理について体系的に学ぶ機会は決して多くありませんでした。
本来であればそれではいけないのですが、そのようなイメージのまま木材を使うと、どのようなことが起きてしまうのでしょうか。


竣工後、数年で美観が損なわれたり、腐朽が発生したりする。これが木造建築への不安、不満、不信につながることは想像に難くありません。事業主からは、「コンクリート造や鉄骨造にすればよかった」と言われるでしょう。
このような建物が増えてしまえば、循環のエンジンとなるはずの木造建築は支持を失い、木材利用の拡大も止まってしまいます。せっかく生まれ始めた森と木材利用の循環は、一過性のブームとして終わりを迎え、その先にはRC造やS造への回帰さえ見えてきます。
2.山にお金が還らない
では、もう一つの課題、山にお金が還らないについて考えたいと思います。
2001年の森林・林業基本法から、森林所有者や林業従事者の方が、林産業だけでなく森林の多面的機能を発揮するための担い手となったのは前述の通りです。しかし、林業に携わっている人は減少し、高齢化も進んでいます。理由はいくつかあると思いますが、やはり経済的な要因もその一つに挙げられるのではないでしょうか。

それを検証するため、数年前にある森林組合の方と意見交換をした際の話をもとに整理してみました。数年前の話なので現状とは異なる部分もあるかもしれませんが、構造的な課題や関係性については、現在も大きくは変わっていないと考えています。
前提条件として1haあたり主伐の搬出量は、250㎥そのうちA材が75㎥、B材が175㎥。㎥単価はA材が14,000円、B材が10,000円とします。

植林から主伐までの期間を50年とし、赤字を支出、青字を収入として整理しました。
間伐については具体的なデータを入手できませんでしたが、主伐の収支と比較すると、伐採・搬出・運搬にかかる経費が立木価格を上回る可能性も十分に考えられます。
この試算では、収入が280万円であるのに対し、支出は447万円となっており、結果として赤字となります。
これをグラフで表すと、次のようになります。

2001年の森林・林業基本法以降、多面的機能の発揮に必要な森林管理の担い手となっている林業従事者や森林所有者には、その役割に見合った対価が十分には支払われていない構造になっていることがお分かりいただけるのではないでしょうか。
現在、この不足分は補助金や森林環境譲与税によって一定程度補われているようです。しかし、私たちが森林から受けている恩恵の大きさを考えると、その対価として十分であるかについては議論の余地があります。
このまま山にお金が戻らない構造が続けば、多面的機能の維持・発揮が難しくなっていくおそれがあります。そうなれば、たとえ木材利用が推進されたとしても、資源の枯渇、土砂災害リスクの増大、地球温暖化の進行、資材不足、水資源への影響、生態系や文化の喪失、大気環境の悪化、さらには人々が森林から得てきた癒やしの喪失など、さまざまな問題が連鎖的に発生し、私たちの暮らしを脅かすことになりかねません。
つまり、せっかく生まれ始めた森林と木材利用の循環も、持続的に回り続けることができなくなってしまいます。
では、この課題をどのように解決し、サステナブルな未来につなげていけばよいのでしょうか。次回は、そのために私たちが考えた方策をご紹介します。
