おしゃっち 地域産木材でつくられた大槌町復興の象徴
「おしゃっち」は岩手県大槌町の御社地エリアに建つ大槌町文化交流センターの愛称です。
延べ床面積2,216m2の木造3階建て、1階には定員約140人の多目的ホール、3階には町立図書館も新たに開設されます。東日本大震災の被災地でもある大槌町。おしゃっちは震災伝承展示の機能を備え、震災後の町の状況や復興の様子を伝えていくという役割も担っていきます。
2018年6月10日に正式オープンを迎えるおしゃっち。今回は木で建ててみよう編集チームが大槌町に赴き、おしゃっち3階にある図書館の中で、建築に携わった皆さまにお話を聞きました。
■インタビューにご協力いただいた方々
北田竹美(きただ たけみ)さん
大槌町文化交流センター 館長
おしゃっち内の震災伝承展示の仕事を中心的に携わり、おしゃっちの運営について中心となって取り仕切る。大槌町出身。
臼澤洋喜(うすざわ ひろき)さん
大槌町文化交流センター 文化交流施設 文化交流班 班長
おしゃっちの設計~施工までの全ての協議に参加、プロジェクトの進行を務める。
岡野治子(おかの はるこ)さん
大槌町 教育委員会生涯学習課 図書班 班長
おしゃっち3階の図書館の計画について大槌町出身者として主導。
疋田雅也(ひきた まさや)さん
大阪府箕面市役所勤務。昨年4月から応援職員として大槌町へ。
杭工事の基礎工事段階から参加。一級建築士の資格があり、技師として技術的な面でも貢献。
(左から)疋田さん、臼澤さん、北田さん、岡野さん(以下敬称略)
大槌町文化交流センター おしゃっち
大槌町が図書館、ホール、生涯学習施設、会議・交流・町民活動拠点など複合的な目的で事業を計画。公募型プロポーザル方式で設計施工企業を募集しました。前田・近代・中居・TOC異業種特定建設共同企業体(代表:前田建設工業株式会社東北支店)が提案を採択いただき、設計から工事まで一貫して携わりました。
2018年3月、大槌町復興の象徴「おしゃっち」完成
―完成したおしゃっちの印象を率直に教えてください。
北田:第一印象は温かい感じがしますね。ここへ来た人全員が口をそろえておっしゃいます。古くから木造の家に住んできた日本人独特の感覚なのかもしれませんが、どなたも入りやすく、受け入れられている感覚がするとおっしゃいますね。木の香りがとてもよく、好印象です。
北田:木材を使うというのは、業者だけが決めて作るものではなく、建てた地域やみなさんと一緒にwin-winで建築物が使われていくのを目指すとのことで提案頂きました。町産材や県産材を使うという提案を頂いたことが非常に大きかったですね。
疋田:多目的ホールの構造が、おしゃっちの象徴になっているのではないでしょうか。図書館の構造も木造では見たこともないような、よく構造設計できたな、という空間をしています。
―疋田さんは箕面市からの第9代応援職員で、一級建築士の資格をお持ちと伺いました。
疋田:柱がない空間は、狭いながらも広く見えて、技術的観点から見てもすごいと思っています。木造建築の迫力を町の方々にも見てもらいたくて、建築の過程も外から見えるように、メッシュシートにしました。いきなり三層の通し柱が出来上がって、クレーンで木材をつっている作業も全て見えるので、町民の方が見ても迫力があってよかったのではないでしょうか。
臼澤:ガラス張りで中が見えるというのが良いと思います。以前の役場で勤務していた際も、中が見えるように戸を開けて勤務していたんです。中が見えることで、入りやすい雰囲気を作っていきたかったので。おしゃっちはまさにその思いを、そのまま実現できていると感じています。
―岡野さんは震災以前から図書館に勤務されていたと伺いました。リニューアル以前の図書館との違いをどう感じていらっしゃいますか。
岡野:全てにおいて違います。以前は銀行の建物を改修した重厚な建物でした。目も行き届きにくく、使い勝手もあまり良くなく、圧迫感がありました。おしゃっち3階の今の図書館は、明るくて広くて開放感があって、毎日来ても楽しいです。早く町民の方にたくさん来て、体験してほしいですね。
―町の方々からの評判はいかがでしょうか。
北田:大槌町は震災に遭い、復興途上にあります。町産材が使われたということは、復興のシンボルにもなりうると考えています。町産材が使われているという事実が町民の方の自信や勇気にも繋がるのではないでしょうか。
おしゃっちのコンセプト|手をつなぎみんなで支える大槌町
―おしゃっちの企画をするに当たって込めた思いなどあれば、教えてください。
北田:木造だということに加えて、構造が独特なんです。もともとのコンセプトは町のシンボル的な位置付け。みんなで町を支えようというメッセージを込めました。
手を広げたような構造で屋根を支える。お互いが手で結び合っている、それを具現化してくれたデザインだと思っています。
このデザインを見て、「手をつなぎ、みんなで支える大槌町」というキーフレーズを作りました。シンボルマークも、構造をヒントに手をつないで支えている様子を表現しています。手をつなぎ、支えるという二つの意味合いを持たせています。
―おしゃっちの中でも多目的ホールの構造が特徴的に見えました。
北田:音楽だけでなく様々な役割を持ったホールです。天井のデザインには構造力学的にも理由があると聞きました。音の反響にもいい影響があるし、デザインも面白いし、構造的にもしっかりしている。見学者からも好評です。
フラットではなく立体感があって迫力があります。最初の設計の段階では、全然想像していなかったものでした。木でこれだけのデザインと構造性が保てるということそのものが、訴求点になっている。コンセプトである「支える、繋ぐ」を表現したいという思いに、見事に合致していました。
―震災伝承室の役割はどういったものでしょうか。
北田:震災伝承室は3つの機能でできています。ホワイエに復興の過程をパネルで展示する。多目的ホールでは映像によって震災を伝える。2階の震災伝承室ではもう少し突っ込んだ、震災の時に何があったかに真に向き合う部屋としての役割を持たせています。
あえて、震災の遺物は置きません。われわれとしては、写真と映像、言葉で震災を伝えていくという方針に決めました。遺物、遺構などはモノでしかない。意味を与えているのは人間です。言葉と映像でイメージを想起させることで震災を伝えていけるのではないかと。
できるだけ継続性を持たせたい。毎月毎年情報がアップデートされていくものにしたいんです。パネルと映像によって更新が簡単にできるので、何度も訪れてもらえます。パネルは磁石で貼り付けているので、簡単に交換できます。
情報は行政が更新するのではなく中高生や町民が展示を新しくして、震災を伝承していこうという思いがあります。行政がやるだけでなく町民の皆さんが自分たちで震災を捉え、伝えていくための場所にしたい。
―図書館のリニューアルについては、どういう思いがあったのでしょうか。
岡野:面積は決まっていたんです。元の面積を超えない面積で、本はたくさん入れつつ、圧迫感はだしたくないという...いろいろ要望を聞き入れて設計してもらいました。
棚の高さも、視線を遮らず、奥まで見えて圧迫感がないようにしたいと思っていました。プロポーザルの時点で柱を使わない設計をご提案頂き、これなら狭い空間でも有効活用できると感じました。この提案に決まれば良いなぁと心の中で祈りながら、プロポーザルを見守っていました。
もし津波が来た時に資料が守られるように、ということで図書館は3階にもっていきたかったんです。プロポーザルの段階から3階に決めていて、そういう条件で設計をお願いしました。設計上は本来荷重のかかる図書館は下層の階に置くべきところだそうですが、3階だからこその設計ということで、柱をなくす構造を実現してくださいました。
臼澤:3階から景色を見ながら本を読むというのはなかなかない光景ですよね。
おしゃっち完成までのプロセス|町民と大槌町の協働でつくり上げた
―おしゃっちには県産木材が50%使われていると伺いました。大槌町の方々は、やはりもともと木に親しみを感じてらっしゃったんでしょうか。
北田:木に囲まれていますからね。町の面積の98%が森林で、2%の所に8割の人が住んでいる状態です。
木造に対する反対意見もなく、最初のデザイン案を見て、皆さんからは「こんなのができるの!」という驚きとか物珍しさでポジティブな意見がほとんど。木は駄目だという意見は一つもなかったですね。
木の場合は機能以前に、ぬくもりを感じさせるという良さがありますよね。大槌の皆さんは震災でつらい思いをされているので、温かいとか、広いとか、光が入ってくるという空間に敏感に反応されます。
―おしゃっちの計画、設計の過程で工夫されたところなど教えてください。
北田:町民の皆さんと4回、5回とワークショップを重ねて意見を聞きながらつくり上げていきました。1階とか2階は情報交換をする場を多くして欲しいとか、高校生の発表をする場が欲しいとか。小学生から中高生、派遣職員として大槌に来ている方など、あらゆる方の意見を聞きました。
公園に面した側がガラスになっているのは、夜暗くなると建物の明かりが公園を美しく照らすことを狙っているそうです。その目論見が当たって、夜になってもとてもいい雰囲気の場所になっています。
岡野:夜間の開館を望む声が多くあったんです。震災前の図書館は10時から18時までのオープン。仕事帰りによりたい、震災前の図書館だと静かな雰囲気だったので、もうすこしゆったり過ごせるといいなという声が多く、おしゃっち自体の閉館時間を22時にすることにしました。図書館も金曜日のみ19時まで1時間延長して開館。図書館が閉まった後の時間も、おしゃっちの開館中であれば予約された本の受け取りやリクエストの受付などは対応できるようにしました。飲み物を飲みながら読みたいという声もありましたので、リラックスできる空間づくりを心掛けています。
―ワークショップを通じて、町民と町が一緒に作っていくという意識は高まりましたか。
臼澤:それはかなりあると思います。ワークショップもいろんな団体に声を掛けて、いろんな人に意見を聞きながらやりました。建物を作って「はい、使ってください」では受け入れてもらいづらい。可能な限り皆さんのご意見を組み入れながら実現していきました。
―ほかの自治体へのアドバイスがあれば教えてください。
臼澤:公民連携でやることです。公民連携の部署がやったということが大切だと思います。むしろそうでないと、使われる施設はできません。継続的に使うことを考えると、使う前から一緒に参画してもらうのが基本だと思います。
おしゃっちのこれから|町のコミュニケーション拠点としての成長に期待
―今後のおしゃっちの運営や、どう使っていきたいかなどについて、教えてください。
北田:職員も22時まで常駐する体制にしています。コンビニがあって郵便局があって、図書館があってとそろっていると絶対来たくなりますよね。町の中で一番良い条件の場所ですから。おしゃっちは中で働くメンバーだけでつくっていくものではなく、町民参加でコラボレーションしながらつくっていく、行政がやるのではなく、町民主体での街づくりの中心になれればというのが我々の願いです。その思いとマッチしている施設だと思います。
あまりかしこまらずに使ってほしいですね。当初のコンセプトとしてジャージでも入っていける雰囲気というのもありました。散歩がてらふらっと寄れる場所。その雰囲気づくりに木造の良さも活かされているのではないかと思います。
―今後おしゃっちから発信していきたいこと、伝えていきたいところはありますでしょうか
北田:今まで大槌町は町の魅力の発信を全然できてなかったんです。役場しかなかったので、広報かHPくらいしか発信の場が無くて。今は情報発信機能がおしゃっちとして役場の外に出ている状態。おしゃっちは発信拠点として、様々な大槌町の情報を発信していくという使命があると思います。さらには、町内の方がここで情報交換をしたり、町内の人と町外の人がコミュニケーションをしていけるような場所にしたいと考えています。
木造を選んだ背景や実際に建ててみての思い、町民を巻き込んでのプロジェクト推進や、震災伝承についての考え方までおしゃっちを巡る物語を様々な側面から伺うことができました。町民の方々と大槌町が一体となってつくり上げたおしゃっち。
建物の完成後、おしゃっちがどのように町の生活に浸透し活用されていくのか。アップデートされていくおしゃっちの今後が楽しみです。
ー関連リンクー
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