大型木造建築 施工にあたっての注意点とは|木の達人集めました~木造業界インタビュー第4回
設計者が作成した設計図書をもとに、それを建物として形にするのが施工管理の仕事。一口に「施工」と言っても、現場の施工管理はもちろんのこと、実際に建物を建てる立場から施主や設計者への提案や、図面をもとにした具体的な工事手順の計画など幅広い役割が求められます。また大型木造建築の施工にあたっては、鉄骨造や鉄筋コンクリート造などとは違った工夫が必要です。 今回は前田建設で施工管理を担当している須崎さん、北川さん、施工管理の経験もある設計者の瀧田さんにインタビューを行いました。紙に描かれた設計図書から、実際に建物をつくり上げる過程にはどんな苦労があるのか。施工現場に立つ際は、何を考えて指揮をとっているのか。大型木造建築の現場、最前線の事情を捉えるインタビューとなりました。 北川 佳史(きたがわ よしひと)さん 写真左 須崎 太朗(すざき たろう)さん 写真中央 瀧田 亮輔(たきだ りょうすけ)さん 写真右 ―施工管理という観点で木造と鉄筋コンクリート造(RC)、鉄骨造(S)に違いはあるのでしょうか? 須崎:そもそも材料が異なるので調達方法から違います。一般的に丸太伐採から乾燥、ラミナ加工まで3か月、集成材接着加工1か月、本加工2か月の6か月を要し納期を踏まえた工程管理。又、大断面、寸法の長いものは製作工場が限られているので取引先及び、大型木造建て方の経験がある職人さんの確保、建て方計画、仮設計画を踏まえた工場ユニットによる省力化の検討、産地指定の有無等、最初はここが大変でした。しかし、ある程度物件を手掛けることによって知識や経験が広がり施工体制も整いやりやすくはなってきました。木造は構造体が「現し」になるところが良いですよね。 北川:ただ、構造体を現しにするのは施工中の養生が大変です。木軸建方時には当然雨が降れば仕上げとなる「木」が雨ざらしになるため、工事序盤から仕上げまでのことを考えなくてはいけないです。そのため、どこまで養生しなくてはならないか考える必要があります。 ―木造のほうが施工に気を使うものでしょうか? 北川:鉄筋コンクリートも鉄骨もこれまでの歴史、それぞれの経験がある中で培ってきましたが、業界として木造に本格的に取り掛かり始めたのは最近の話です。木材の表面は柔らかいのでちょっと物をぶつけるだけで傷が付いてしまいます。仮設や安全設備なども専用の冶具等が確立されているわけではないので、そこについても頭を悩ませています。 瀧田:施工中の管理方法を考えると、やはり雨が大変です。木造の場合はシミになって現し部分に出てきたりするので、仕上げに直接かかわる部分の管理が難しいです。 ―天気予報のチェックが欠かせませんね。 瀧田:そうですね。実際、現場勤務時は1年半欠かさずに天気予報を見ていました。 ―雨への対処という点で、特に防ぎにくいところや木を使う際のポイントはありますか? 須崎:雨が降った後のシミなどの事象に対してどう対処するかの方が重要です。 ―コンクリートにもそのような違いはあるんでしょうか? 須崎:コンクリートはセメントや骨材の産地によって色が違うので、塗装などもサンプルを作ります。木の場合も同じで数種類もの塗装材や調色を施し、サンプルをたくさん作ります。 ―木造の施工ならではの苦労も多そうですね。 須崎:施工精度で言えば特にアンカーボルトの施工管理が大変です。住田庁舎ではアンカーボルトが1900本弱あり、固定方法の検討、コンクリート打設前・中・後の精度の確認に労力を費やします。木造はアンカーボルトの精度がしっかりしていれば、集成材のプレカットの精度が高いので建方はスムーズに進みます。 ―施工管理の立場から、木造の設計に対して要望はありますか? 瀧田:せっかく木で作りますので、木の良さが伝わりやすい建築が良いな、と思います。 ―現しにすることで構造的に問題はないのですか? 瀧田:基本的には集成材を使うので、問題ないように設計している建物がほとんどです。設計段階で決まった材料を使いますから、現場で構造的な問題が出てくることもないですし。適材適所で使い分けをしています。 設計段階の結構早い時期から所長たちがプロジェクトに参画することも多くて、さらに木造のワーキンググループを作って蓄積された技術をアウトプットするプロジェクト会議を実施しています。木造は構造体を現しにすることによりデザインと密接な関係にあるのかなと思っています。だからこそ知見を集めることが重要になってきます。 ―お三方とも、様々な現場を経験されてきていると思います。現場で関わる人たちの印象はどうですか? 須崎:地域にもよりますが大型木造の施工ができる大工さんはそんなに多くはいません。大工さんでありながら鳶(とび)っ気がないといけませんから。 ―若い人からすると大工さんと付き合うのは難しいですか? 瀧田:私はたくさん怒られながらも、勉強になりました。「こういう図面になっているけどなぜこうなっているの」とか、「これって無駄じゃないの」とか、「次の段取りをわかっているのだろうか?」とか。現場に出ていた1年半は一番つらかったけれど、得るものは非常に多く、会社に入って一番楽しかったです。 ―大工さんたちとは仲良くなれましたか? 瀧田:設計に戻った今でも連絡を取っているぐらいには信頼関係が築けました。 須崎:大工さんは若い職員に教えてやるという職人気質のような面倒見の良い方が多くいます。 ―木造の面白さはどういう所にあると思いますか? 須崎:木造にもいろいろな構造、工法がありますが住田町庁舎では燃え代設計を採用し、可能な限り木構造体を現しにすることにより特徴のある建物が実現できました。開庁以来、「木の香りがする」「癒される」「こういうところで働けるのはうらやましい」など好評です。新たな庁舎は「木材活用コンクール」で農林水産大臣賞、「木材利用優良施設表彰」で林野庁長官賞をはじめ数々の賞を受賞しております。「森林・林業日本一のまちづくり」をめざすシンボルになるとともに、木造公共建築物のモデル、木材のショールームにもなっています。 北川:今担当している旅館の物件でも木造の建屋があり、屋外の露天風呂につながる温浴施設や、本体の建物をつなぐ渡り廊下の施工ではクレーンが届かないのですが、小断面の木軸のため人力で木軸を建てるという計画をしています。このように木造は施工計画の可能性が広がります。中断面、大断面の場合、手運びは難しいですが、それでも鉄骨に比べると軽量ですので省力化ができるなど幅広い運用が期待できます。 瀧田:現場で勤務したのは新鮮で面白かったです。"かたち"になっていく過程を肌で感じられることがすごく楽しく設計業務の中では味わえない面白さが現場ではありました。 ―現場で心掛けていることはありますか? 瀧田:現場の所長によってやり方が違いますが、須崎所長の現場は特にコミュニケーションに気をつけています。ゼネコンだからといって上から目線ではなく、職人さんに対してもきちんと敬意をもって接していて、夜も繰り返しコミュニケーション。敬語とあいさつは絶対に欠かさないですし、職人さんがなるべく働きやすい環境を作り上げる。それに職人さんはしっかりと応えてくれます。 ―今後、前田建設が木造により関わっていくためのアイデアはありますか? 須崎:当然、仕事を継続していかなくてはなりません。これから木造は増えていきますから、少しは先行しているところがありますので長い目で見て続けていくべきです。 瀧田:私の世代は、オリンピックの後の時代を読んでいく必要があります。 北川:会社として木造を積極的に取り組んでいるので、いろいろなデータが蓄積でき設計、施工力の向上に繋がっています。木造の経験者として全国の現場に呼ばれるのも楽しそうです。 ―前田建設の他の現場で木造案件があったら、その人たちに何かアドバイスはありますか? 瀧田:木造は耐力壁工法やブレース構造など構造上必要な部分を考えながら、ダクトルートやスイッチコンセントの位置などを事前に決定しておく必要があるので、総合図の大切さをまずは伝えます。現場レベルの細かい納まりなどは様々なところで伝えてきています。 北川:全国の木造経験者や本店建築部で構成されている木造ワーキンググループでまとめた資料には、どこの本屋さんを探しても、どの仕様書を見ても載っていない、色んな工夫や苦労したことの実体験が記載されているので、木造の工事に携わる際はその資料を参考にしてほしいです。 須崎:継続していますが経験者参加による着手前検討会が重要だと思います。 ―これからやりたいことはありますか? 瀧田:いろんな人に愛されるような建築に携わりたいです。 須崎:技術者として施工管理に末永く携わりたいです。 北川:その地域の象徴となるような、迫力のある大断面の木造を建ててみたいです。 須崎:瀧田さんは施工の方が向いているような気がします。 ―他社はそれぞれの構造の特徴を活かしたハイブリッド工法が多いのですが、前田建設は純木造の実績が多い印象です。このことに関してどう思いますか? 須崎:地産地消を考えた場合、特殊な工法や大断面では製作工場が限られます。中断面以下、金物は汎用品を採用することにより地元でも製作が可能になります。 ―建設業界に興味を持ったきっかけはなんですか? 瀧田:物を作るのが好きだったので、中学生から建物を建てたいとは思っていました。明確に建築の道に進みたいと思ったのは高校の時ですね。 ―入る前と入った後でイメージに違いはありましたか? 瀧田:設業はお酒を飲まされる印象があったんですが、設計部はそんなことはありませんでした。須崎さんの現場は概ねイメージしていた通りの雰囲気でした。 北川:私の建設業界に興味を持ったきっかけは、図工とか夏休みのモノ作りが好きでしたので、小学生の時に大工さんが近所の家を作っているのを見て興味を持っていました。親戚のおじさんが施工管理をしていたこともあり、その話を聞きながら将来は大工さんになろうと思いました。大学生になったらちょっと道が違うことに気づきました。現場監督は自分で直接作るわけではないですが、現場運営においてQCDSMEを1つも欠くことなく管理することが仕事で、長い年月をかけ、無事に竣工を迎えられたときは、言い表すことのできない感動や達成感を味わえ、幸せだなと思います。竣工前に家族を連れて建物見学をすること(父ちゃんの仕事を見せる)も楽しみです。 ―イメージしていた現場と同じでしたか? 北川:大学生の最初は設計をしたいと思っていましたが、大学でゼミや設計製図の授業を受けていくなかで、やりたいのは設計ではないなと気づきました。親水工学研究室というところで、竹やアルミで作る海の家の設計図を描いて、実際に施工してみるということを経験していたので、仕事の内容も大体イメージ通りでした。 ―やはり現場は規模の大きいほうが楽しいですか? 北川:規模に関わらず楽しいです。小規模はそれなりに全部できる楽しさがあります。 須崎:私の建設業界に興味を持ったきっかけは、小学生の時に自宅の改修をした時に日々出来上がっていくモノ作りに興味を持ったことです。 ―仕事をするうえで目標はありましたか? 須崎:先輩たちの姿を見て、若い時から早く所長になりたいと思っていました。 ―実際に所長になられてから、大変だと思ったことは何ですか? 須崎:無事故無災害で建物を引き渡す事は大前提ですのでその日々の安全管理が大変です。 インタビューを通して、普段目にすることのできない、建物が出来上がるまでの物語を垣間見ることができました。施工管理者の観点から見た木造の未来についても聞くことができ、改めて大型木造建築への注目度の高さと今後の可能性の広がりを実感できるインタビューとなりました。これからも継続的に木造に関わる現場に踏み込んで、新しい取り組みを取り上げていきたいと思います。 ふつうは仕上げ材によって隠ぺいしてしまう構造部分を、露出させる仕上げを「現し」や「現し仕上げ」という。 木材や鋼材といった構造部材などを固定するために、コンクリートに埋め込んで使用するボルトのこと。 意匠・構造・設備などの分野別に作成された設計図書を基に相互に関連する設計内容を1つに集約した図面。 Q:Quality(品質)、C:Cost(価格)、D:Delivery(納期)、S:Safety(安全)、M:Morale(モラル)、E:Environment(環境)を表す言葉。建築現場の品質管理に使用される。
1983年、千葉県出身。2006年 日本大学理工学部海洋建築工学科卒業。
同年 前田建設工業株式会社入社。現在 東北支店 板柳中学校改築作業所 所属。
保有資格:一級建築士、1級建築施工管理技士、コンクリート技士、鉄骨工事管理責任者、免震部建築施工管理技術者、小中高12か年皆勤賞、大型自動二輪運転免許、
直近の主な業務経歴: 仙台白百合女子大学キャンパス整備、仙台泉プレミアム・アウトレット、ヨークタウンあすと長町、東根市立大森小学校、釜石市立唐丹小中学校 など。
1968年、三重県出身。1990年 千葉工業大学工学部建築学科卒業。
同年 前田建設工業株式会社入社。現在 本店 成長戦略室兼建築事業本部 所属。
保有資格:一級建築士、1級建築施工管理技士、1級管工事施工管理技士
直近の主な業務経歴: 仙台白百合女子大学キャンパス整備、東根市立大森小学校、酒々井プレミアム・アウトレット、住田町新庁舎、盛岡中央消防署新庁舎及び山岸出張所庁舎整備、釜石市立唐丹小中学校 など。
1986年、静岡県出身。2011年芝浦工業大学大学院工学研究科建築工学専攻修了。
同年 前田建設工業株式会社入社。現在 同社設計部 所属木造と他の構造の施工の違い
建設が始まってから、完成するまで雨が降らないことはあり得ないので、屋根工事のシート張りを早めに行うなど工夫するようにしていました。
建て方完了工区より屋根・外壁工事を順次施工し木軸工事から次工程へつなげるタイミングや、協力会社同士の連携が大切です。
シミ抜き専用の塗装などをいくつか試して選びます。木の種類、産地によっても相性がありますので、現場でテストを実施して知見を蓄積しています。
設計者によっては各部材の接合部の納まりが違うので勝手が変わってきます。一般金物を代用できる場合もありますが、物件によっては特注金物ばかりでコストもかかるし、納まりが複雑になってしまう場合もあります。木造施工の現場
地産地消を前提に材料以外も地元協力会社の雇用を優先していますので、大型木造の施工実績がない場合は専門業者と協同で木軸の建て方、安全教育の支援をします。木造物件が増えていくなか、職人の育成も必要となります。
昔から付き合いのある大工さんや職人さんとは長年に渡って付き合っており、特に震災復興の労務不足の時は助けてもらいました。木造の面白さとこれから
建築業界という枠にとらわれず、他業種とのコラボレーションも考えていくべきだと考えています。
瀧田さん設計の木造物件なら特に建てたいです。
以前取組みをしたデザイン・ビルド方式では設計段階から現地の製作工場の調査を行い、製作可能な範囲で設計をし、地域密着型の事業として補うだけでなく、将来の維持管理においても地域で賄っていけます。建築や施工への思い
ー用語解説ー