「木」が建物になるまで~国産材の流通構造 第4回「川下」 集成材工場とプレカット工場の現場より
製材工場で作られた木材も、そのままでは建物に利用できません。建物に合わせた寸法に調整するのはもちろん、木材を組み合わせるために「継手」や「仕口」といった加工を施す必要があります。そこで木材を建物に合わせて加工していくのが、「川下」である集成材工場やプレカット工場などの加工段階。木材流通の最後を担う、最も建設現場に近い工程です。 栃木県の事例をもとに日本の木材流通の現場を知る、シリーズ【「木」が建物になるまで~国産材の流通構造】。今回は「川中」で加工された無垢材を、実際に建設現場で使える建材へと加工する「川下」の集成材工場とプレカット工場についてご紹介します。 木造住宅に広く使用されている集成材。集成材とは、丸太から切り出されたラミナを繊維方向を揃えて接着したエンジニアリングウッドです。なんとなくのイメージはあっても、実際どのようなメリットがあるのか、どのように作られているのかをご存知の方は少ないのではないでしょうか。ここでは集成材の持つメリット、またどのように製造されていくのかを見ていきましょう。 「集成材」とは、切り分けた木材を乾燥させ、接着剤で組み合わせた加工木材を指します。無垢のままでは利用しにくい木材も利用できるため、素材を無駄にせず品質や強度を安定させることができ、大量生産できるメリットがあります。また、無垢材ではつくることが難しい形状をつくりだせることも大きな特徴です。 通常の木材から集成材ができるまで、大きく分けて3つの工程が存在します。 製材工場から仕入れた木材を乾燥させます。何十年もかけて育った木には一本一本それぞれに異なる特徴があり、しっかりと乾燥させることでその特徴が露(あら)わになります。人工的にあらかじめ乾燥させておくことで、製造後の反りや歪みを抑えることができるうえ、腐敗を予防できます。 曲りや反り、節といった欠点があると、まっすぐで丈夫な材にはなりません。これらの欠点をクロスカットソーと呼ばれる機械で切り飛ばし、長さ方向に合わせて接着剤で繋ぎなおします。縦継ぎ接着部分の加工は「フィンガージョイント」と呼ばれ、接触面積を大幅に広げることでより強力な接着を可能にします。接着剤は「レゾルシノール」や「水性ビニールウレタン」などが広く使われており、どちらも固まることで木材そのものよりも強くなり、水にも溶けません。 フィンガージョイント 「欠点除去」の工程で作った板の表面を、プレーナーで平滑りに切削します。これらの処理を施した板に接着剤を塗布して張り合わせ、高周波加熱で接着剤を乾かします。その後、油圧機で圧縮しながら養生することでさらなる曲がりを抑え、より頑強な集成材を作り上げます。 今回の取材では、栃木県集成材協業組合を訪れました。同社は栃木県を代表する集成材メーカーで、公共物件から住宅部材まで幅広い建物に使われる集成材を製造しています。栃木県集成材協業組合の落合さんにお話を伺いました。 ― ― 栃木県集成材協業組合について教えていただけますか? 落合:昭和50年ごろ、化粧貼りをメインとする業者が4社集まってできたのが栃木県集成材協業組合です。集成材工場は大規模な設備と広さが必要なので工場を共同運営したほうが効率的ということですね。その頃は心材の表面に薄い板を貼って、長押(なげし)、鴨居、畳よせなど「造作」と呼ばれる内装材を作っていました。 和室の衰退とともに内装材の注文は減っていき、今は8割が柱や梁などの構造材になっています。材料となる丸太は輸入が7割、国産のものが3割という状況ですね。 ― ― 栃木県集成材協業組合の事業の特徴や強みについて聞かせてください。 落合:ハウスメーカー向けの木材から、大断面の木材まで幅広く扱えるところです。木材1本からご要望を聞きながら仕上げていきます。少量多品種の生産に対応できるのが我々の強みです。 ― ― 集成材の特徴について教えていただけますでしょうか。 落合:長さや幅、断面の自由度が高いのが特徴です。無垢材は、原木を伐った時点で素材の長さが決まってしまいますからね。集成材は原木の大きさによらず、求めるサイズの木材をつくることができます。 ― ― 最近の業界としての傾向、流行のようなものはありますか? 落合:最近はそこまで大断面の注文というのは少なくなってきているように感じます。幼稚園や保育園、小学校のように2~3階建ての建物を木造で、というケースが増えているように思いますね。 ― ― 集成材業界の課題や現状について伺ってもよろしいでしょうか。 落合:大断面の集成材の欠点として、オーダーメイドのため価格がわかりづらいというポイントがあります。見積もりの立てやすい一般流通材が好まれる傾向がありますね。 ― ― 栃木県集成材組合の将来像、今後の構想などはありますでしょうか。 落合:今後、国産材の比率を半々くらいに持っていきたいなと考えています。輸入材はどうしても原価が為替動向に左右されてしまいますので。今、アメリカ産やカナダ産などの輸入材も価格が高騰してきており、国産ヒノキの方が安いというケースも多いです。プレカットに使う木もヒノキにシフトしていっているようです。国産材が輸入材と勝負できるくらいの価格になってきている。選択肢が増えた分、使い分けをどうするかなどマネジメントが難しくなってくるなと感じています。 技術的にも、今までゴミとして捨てていた素材を価値に変えるシステムが少しずつ出来上がってきています。それが実現できれば、今まで切り捨てていた木を里に返し、お金に変わる。技術革新によって、業界全体の経営効率が高まっていくといいですね。 プレカットとは、専用の機械を使って柱や梁の継手、仕口の加工を行う技術です。従来は建設現場で、職人さんが墨付けに従って手工具で加工していた工程です。今まで現場で行っていた木材の長さの調整、木材同士を組み合わせる継手や仕口を工場であらかじめ行うことで、大幅な工期の短縮を実現することができます。 どのようにプレカット加工を施しているのか、その工程をご紹介します。 設計図に従ってプレカットに必要な一本一本の部材加工について、綿密な打ち合わせを行います。 打合せ内容をもとにコンピュータでデータ処理を行い、組立図、各部品リストを正確に作成します。これらの図面が承認され次第、プレカットの工程へと進みます。 メーカー品質保証の材料を仕入れ、資材の傷や不良箇所の有無も入念にチェックします。その後、材種や寸法別に仕分けし、資材倉庫に保管します。 CAD入力で作成したデータは連動したプレカット機械に接続され、それぞれの機械によって精度の高い加工部材に仕上がります。最新のプレカット機械は木造住宅の平面図や立体図を基に、CAD/CAMを全自動入力する機能が備わっています。これにより精度の高い柱や梁、羽板材、パネル等を生産することが可能になり、品質の均一化や工期短縮、住宅のコストダウンを実現しました。 仕上がった加工部材は厳しいチェック検査を経て、構造部材が出荷倉庫に保管されます。その後、指定期日に資材を搬入します。 栃木県に本社を置く「テクノウッドワークス株式会社」。業界随一の高精度・高強度のプレカット加工を実現し、海外への事業展開や建て方事業、県産材の活用など、様々な取り組みを精力的に行っています。テクノウッドワークス株式会社の松山さんに、お話を伺いました。 ― ― プレカットについてお話を伺ってもよろしいでしょうか。 松山:プレカットといいますと、以前は建築に使う木材を大工さんがノコギリやノミを使って手作業で加工していたんですね。ですが高齢化により職人さんの減少が深刻になっていて、機械によるプレカット加工が普及してきている、という背景があります。現在のプレカット普及率は90%以上と言われています。工場数は900社をピークに現在は600社まで減少しています。 ― ― かなり競争率の高い業界なんですね。 松山:ええ、その中でも私たちは材木店様と良好な関係を保つことを大切にしてきました。それによって安定生産が可能になり、今もなお着実に成長しています。現在、年間1万トン以上の加工実績を記録していて、これは全国でも第二位の数値なんですよ。 ― ― 貴社の強みはどういったところでしょうか。 松山:まず最初に挙げられるのは、最大誤差0.5mmという高い精度を誇る加工製法と、従来の手加工材比1.5倍を実現したラウンドカットによる抜群の強度。次に挙げられるのが万全のCAD業務体制ですね。国内各CADセンターと中国大連のCADセンターで協働していて、大連ではデータ作成を担当。国内では最終的なチェック作業を行っています。分業体制を敷くことで迅速な対応を実現しています。これらの強みを実現することにより、木造住宅の高品質化とコストダウンに大きく貢献しているんですよ。 ― ― 建築業界の現状についてはどのようにお考えですか? 松山:ご存知のように住宅施工件数は、少子化による人口減少で年々低下しています。そこで私たちはメインの戸建て住宅だけでなく、住宅以外の木造建築にも進出しました。そこにプレカット工場の未来があるんじゃないかなと。 ― ― 地域の貢献活動にも取り組まれているとお聞きしました。 松山:松山:そうですね。栃木県は優れた杉やヒノキに恵まれているのですが、それを活用しきれていない現状があります。その環境の中で2013年に子会社である「テクノONE」を設立しました。テクノONEは原木からのウッドカットまでのワンストップを実現し、コスト削減を目指しています。これからも地域社会に貢献できる会社として発展していけるよう、尽力していきますよ。 木材をそれぞれの現場に合わせて加工していく「建材加工業」。今回は現場で広く利用されている集成材や、それらを実際に現場で使える形に仕上げるプレカット工場を、特徴から工程までご紹介しました。 日本建築で、柱から柱へ渡すことで壁に取り付ける横木のこと。集成材とは何か
集成材の特徴とメリット
集成材ができるまで
1.乾燥
2.欠点除去
3.接着
【集成材工場】栃木県の事例、栃木県集成材協業組合の取組み
使い分けの基準としては高さが30cm以下の物は無垢材、それ以上なら集成材というのが一つの基準。長さで言えば4m以上必要であれば集成材を使用することが多いですね。
小さいサイズの場合、無垢材の方が丸太から削った時の歩留まりがいいので安く抑えられますが、材のサイズが大きくなるにつれ集成材を使った方が安く上がります。
同じ建物のなかでもうまく使い分けることで全体のコストを抑えることができます。
できるだけ費用対効果の高い一般流通材を使って建てる提案をすることが多いです。
だから今、大断面の木材でも価格帯がわかるような仕組みづくりを行っています。弊社だけでなく大断面をやっている業者が集まって検討を重ねています。大断面の場合、接合部の設計方法が確立されていないため、設計者の方は毎回メーカーに見積もりを依頼する必要があるんです。我々メーカー側もこれからは技術を自社で囲わずに、オープンにしていかないといけません。設計者が集成材メーカーに頼らなくても、ワンストップで予算を組めるという状況が理想ですね。プレカットとは何か
プレカット工場の工程
1.打合せ
2.CAD入力
3.資材品質チェック
4.プレカット加工
5.製品管理と出荷
【プレカット工場】栃木県の事例、テクノウッドワークスの取組み
「テクノウッドワークス株式会社」への取材では、技術的な強みを最大限に活かしながら、地域とのつながりを大切にしていく企業のあり方を知ることができました。全4回に渡って木材流通の現場を紹介してきた、シリーズ【「木」が建物になるまで~国産材の流通構造】。川上・川中・川下、それぞれの役割を改めて考え直すことで、木造建築業界が抱える課題や目指すべき未来が見えてくるのではないでしょうか。ー用語解説ー
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