植物界のダイバーシティ ~アルビノレッドウッドの隠れた貢献~
今回は、厄介者だと思われていた森の中の不思議な木に関する記事です。 体が真っ白の動物のことを「アルビノ」と呼びますが、植物にも「アルビノ」が存在します。 動物の場合は、メラミンが欠乏して体が白くなりますが、植物の場合は光合成色素がたりません。 カルフォルニア州のレッドウッド国立/州立公園では、ごくまれにアルビノのレッドウッド*の個体が確認されています。不思議なくらい白く、神秘的ですらあります。 レッドウッドとはセコイアのことで、高さ100m以上に成長することもあるとても大きな木です。ハイペリオンという名前が付いたセコイアは約116mもあり、現在世界で最も高い木です。樹皮がとても厚く、山火事に強いことも特徴で、セコイアの球果(まつぼっくりのようなもの)は山火事の熱で球果がひらき、種子が地面に落ちて発芽します。つまり、火事がないと発芽できないのです。 セコイアは、根っこで周囲の木とつながっておりネットワークを形成しています。この根のネットワークを使って、厳しい冬や早春の時期は周りのセコイアと養分を分けあっています。 この謎に取り掛かったのが、幼少のころからレッドウッド州立公園に通っていたカルフォルニア大学デイビス校の大学院生のMoore氏。彼の研究によると、アルビノのセコイアから、健康なセコイアに比べて倍以上のカドミウム、銅、ニッケルといった有害な重金属が検出されました。中には、健康なセコイアの致死量の10倍もの金属を含んでいる個体もありました。つまり、アルビノのセコイアは有害である重金属を自分の体に蓄積させていたのです。 アルビノのセコイアの葉にある気孔はうまく機能しておらず、気孔から水分がどんどん蒸発していきます。そのため、健康なセコイアより多くの水分を吸い上げ、水分に溶けている重金属がアルビノのセコイアに蓄積されているようです。 コミュニティに貢献しておらず、養分だけを吸い取っていたと思われていたアルビノのセコイアですが、実はほかの個体に有害な重金属を自分の体にため込んでおり、それによってコミュニティに貢献しているのかもしれません。 参考文献 Kaplan, S. (2016, October 7). The mystery of the 'ghost trees' may be solved. The Washington Post *集成材に使われることが多いオウシュウアカマツのこともレッドウッドやRWと呼ぶことがありますが、全く別の樹種です。
そのため、光合成が行えず成長できずに枯れてしまいます。自然界では、白い植物は光合成ができず自分だけでは生きていくことができないからです。
レッドウッド公園では、大きなセコイアがたくさん育っている光景を見ることができますが、セコイア以外の木は山火事で淘汰され、セコイアのみ生き残ってきた、ということかもしれません。また、かつてはは地球のいろいろな所で繁栄していたこともあり、その亡骸は石炭として現代に残っています。セコイア(や近種のメタセコイア)はとても興味深い木です。
自分で光合成ができないアルビノのセコイアが生きていけるのは、他のセコイアから栄養をもらっているためであり、他のセコイアから見たら寄生されているようなもの、と考えられていました。そのため、アルビノのセコイアをバンパイアツリー(吸血鬼の木)と呼ぶ人もいたそうです。ですが、そもそもなぜアルビノのセコイアが存在しているかわかりませんでした。
もちろん、人間の目から見たらそう見える、というだけですが、森林の生態に関する話のなかで、個人的にとても好きなストーリーです。
アルビノのセコイアは約400本程度確認されているそうですが、保護のためその場所は公開されていません。レッドウッド国立/州立公園に行って探してみたいですね。
https://www.washingtonpost.com/news/speaking-of-science/wp/2016/10/07/the-mystery-of-the-ghost-trees-may-be-solved/