今なぜ木造?京都議定書がもたらしたもの|シリーズ第4回

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◆第四世代(1990年代)
 シリーズ第4回となる今回は前回の第三世代(1980年代)に引き続き、下表の第四世代(1990年代)について振り返っていきたいと思います。


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 当時の建築基準法には耐火建築物とは別に現在の準耐火建築物の前身である「簡易耐火建築物」といわれる建築物がありました。「簡易耐火建築物」はもともと建築基準法上、一定の耐火性があると認められる建築物として扱われていました。1992年の建築基準法改正ではこの「簡易耐火建築物」に代わり、木造であっても、防火被覆などによって耐火構造に準ずる性能を実現できることが1991年の実大火災実験等の知見に基づき、検証できたことを踏まえて、「火災による延焼を抑制する性能」を有するものを「準耐火構造」とし定義し、新たに「準耐火建築物」が誕生しました。これにより準耐火建築物である木造3階共同住宅を防火・準防火地域外で建築することが可能となり、前回の1980年代でご紹介した「燃えしろ設計」に引き続き、木材利用の可能性がさらに広がったのが1990年代の特徴です。その後2000年代になると更なる性能規定化が進んでいきますが、このお話は次回第5回の第五世代(2000年代)で取り上げたいと思います。

 また、木質材料の分野に目を向けるとLVL(単板を繊維方向を揃えて積層、接着した軸材料の木質材料)は1988年に「構造用単板積層材の日本農林規格(JAS)」が制定されることで、構造材として使用できるようになりました。さらに1990年代にはJASの改定や許容応力度設定がなされ、益々LVLが注目されました。構造材としてのLVLの特徴は,線材として柱や梁として使用できること、厚板面材として壁や床としても使用できることであり,都市木造においても線材と面材を用いた多層の建築と考えることができ、今でも開発が続いています。現在では、都市木造の普及に欠かすことのできないLVLですが、30年以上も前から存在していたことに驚いた方もいるのではないでしょうか。
 LVLを含むマスティンバーについてもっと知りたい方は過去記事もご覧ください(→木の特性を建築に活かすには。主要な木材の種類と特徴まとめ


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 一方、1990年代の地球温暖化問題の一大トピックスといえば1997年の「京都議定書の採択」ではないでしょうか?「京都議定書」の名の通り、COP3と呼ばれる地球温暖化防止会議が京都で開催されるということで、連日メディアで取り上げられ、日本人にとっては地球温暖化問題への関心を一層深める機会になったのではないかと考えています。COP3で採択された京都議定書とは国際条約であり、その内容は「1990年の6種類の温室効果ガス総排出量を基準として、2008年~2012年の5年間に、先進国全体で少なくとも5%の削減を目指すこと」とされていましたが、EUは8%、アメリカ合衆国は7%、日本は6%削減する目標を掲げ、その後アメリカ合衆国が離脱する中、日本は見事に目標を達成します。「京都議定書」とは地球温暖化防止に対して世界が初めて交わした具体的な策をもった約束であり、その後の地球温暖化防止に向けた大きな一歩となりました。
 その後2015年にはCOP21でパリ協定が締結されますが、COP21の21という数字は国際会議の開催数を表し、その数字からも国際的な合意を取るための難しさを感じさせます。パリ協定に関しては第6回の第六世代(2010年代)でまた取り上げたいと思います。
 また、「京都議定書」では温室効果ガスの「吸収源」として森林や農地で吸収される炭素をカウントすることが認められていましたが、今では認められている「樹木が炭素を固定する」という「貯蔵庫」としての考え方は当時は認められていませんでした。この「貯蔵庫」という考え方を利用して我々がCO2削減に貢献出来る「手段」の一つとして考えられているのが炭素を固定した樹木で「木造建築を建てる」ことです。当時この考え方が認められていれば、木造建築がもっと早くに注目され、街で中高層木造建築物を見かけることが当たり前の世界が、今現在訪れていたかもしれません。しかしながら「京都議定書」という世界的な大きな一歩をもとに地球温暖化防止への取組が一層加速していったことは間違いありません。「京都議定書」という地球温暖化防止に向けた具体的な策、考え方の始まりを理解することで、この後に続く、MDGs、パリ協定、SDGs、ESG投資、カーボンニュートラルなどに対する見方も変わってくるものと思います。

 今回の記事でちょうどシリーズの折り返しになりますが、今回までの記事を通して、皆さんも「木造建築に向かっていく世界の流れ」を感じることができたのではないでしょうか。

次回は第五世代(2000年代)以降を一緒に振り返っていきたいと思います。



■イラスト協力
さかもといくこ

絵本作家・イラストレーター・看護師
青森県八戸市生まれ。絵本創作を中心に、イラスト、アクセサリー制作も行っている。
代表作品に、「タベールだんしゃく」シリーズ4作品(ひさかたチャイルド、チャイルド本社)がある。
弊社のサイトに込めた想いにご賛同いただき、今回のシリーズ『今なぜ木造建築なのか?』のイラストの作成にご協力いただいています。
http://ikuko.sakamoto.mobi