今なぜ木造?SDGsとESG投資|シリーズ第5回

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©SAKAMOTO IKUKO


◆第五世代(2000年代)
 シリーズ第5回となる今回は前回の第四世代(1990年代)に引き続き、下表の第五世代(2000年代)について振り返っていきたいと思います。


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 前回のシリーズ第4回で1992年の建築基準法改正により「準耐火構造」が新たに定義されたことをご紹介しました。その後、2000年施行の建築基準法改正で木造建築の範囲が広げられたのは以下のとおりです。
 ・大規模建築物に係る規制として、高さ13m超え、軒高9m超え又は延べ面積3,000㎡超えの建築物でも
  主要構造部を耐火構造とすれば木造でも建築可能になった。
 ・防火地域・準防火地域外で建築可能であった1時間準耐火構造の木造3階建て共同住宅が、
  準防火地域でも建築可能に適用地域が拡大された。
さらに2002年の建築基準法改正では伝統的構法で用いられる木造の外壁・軒裏が防火構造の告示仕様として追加されました。
(木造建築物の法改正の過去記事はこちら → 建築基準法再発見!第8回 「木造建築物の法改正は?」

 また、材料の分野に目を向けると建築基準法上では、構造計算を必要とする場合であっても、実は木材の品質は規定されていません。つまり、日本農林規格に適合しない無等級材でも、ある一定の制限の元であれば構造計算ができるということです。このような状況の中、2000年の国土交通省告示第1452号により枠組壁工法構造用製材の強度表示がなされたことで、日本農林規格に適合する規格材を使った方がより高い許容応力度を設定できるようになり、構造設計者が強度選択に迷うことなく木造の設計がしやすくなりました。

 以上のように2000年代は法改正により木造建築への更なる追い風が吹いた年代となりました。


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 一方、地球温暖化問題に関する世界の動きについては前回のシリーズ第4回でご紹介した1997年のCOP3と呼ばれる地球温暖化防止会議における「(※1)京都議定書の採択」の後、2001年にはアメリカ合衆国が離脱するなど大きな出来事があった中で、2005年のカナダ・モントリオールで行われたCOP11と呼ばれる京都議定書第1回締約国会議により京都議定書が完全実施されることになりました。
 その後2015年にはCOP21で(※2)パリ協定が締結され、地球温暖化問題とCO2削減に貢献出来る「手段」の一つとしての「木造建築」はますます切り離せない関係となっていきます。パリ協定については次回のシリーズ第6回の第六世代(2010年代)で取り上げたいと思います。

 また、現在では連日メディアで取り上げられている2015年の国連サミットで加盟国の全会一致で決まった、2030年までに持続可能でより良い世界を目指すための国際目標であるSDGsですが、実はこの前身としてMDGsという開発目標があったことをご存じでしょうか?これは、2000年9月に189ヵ国が参加のもと、ニューヨークで開催された国連ミレニアム・サミットにおいて、21世紀の国際社会の目標として採択された国連ミレニアム宣言と1990年代に開催された主要な国際会議やサミットで採択された国際開発目標を統合し、一つの共通の枠組みとしてまとめたもので、ミレニアム開発目標と訳されます。なお、MDGsはその対象を開発途上国の政府などとしていましたが、SDGsではその対象が全世界の政府のみならず民間企業や個人となった為、地球温暖化問題防止の一手として木造建築を推進しようとする動きがさらに強まっています。SDGsに関しても次回のシリーズ第6回の第六世代(2010年代)で取り上げたいと思います。


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 このSDGsとともによく出てくる言葉としてESGがあります。ESGとは「環境(Environment)」「社会(Social)」「企業統治(Governance)」の各頭文字をとった略語で、企業が持続的な成長を目指すためには、ESGの観点が重要であるという考え方で、売上高や利益、保有財産などの財務情報だけではなく、ESGへの取組状況という非財務情報にも考慮した経営を行う企業に対して行う投資がESG投資です。このESG投資という考えに至るまでには大きく以下の流れがありました。
 ・財務情報だけでなく、社会・倫理的側面から社会的責任を果たしているかどうかも考慮し、投資先を選ぶ
  SRI(社会的責任投資)という考え方があり、古くは1920年代頃から欧米を中心に世界に広まる。
 ・1990年代後半には環境・経済・社会の側面を考慮した経営を行う必要があるという考えが広まり、
  これらに配慮している企業に投資する形のSRIがスタート。
 ・2005年には国連がSRIにおけるESG課題への世界共通のガイドラインを公表。
 ・2006年には当時の国連事務総長アナン氏により金融業界に対してESGが広く提唱される。
 ・2015年パリ協定と国連SDGsをトリガーとして、ESGに対する社会的な関心が高まる。
このように投資対象が企業の環境への取組にも拡大されていく中で、木造建築を建てることは例えば以下の環境的側面に繋がると考えられます。
 ・炭素を貯蓄できる木材を活用することでカーボンニュートラルへの貢献
 ・健全な森林循環を保つことで土砂災害などの自然災害を抑制
このように木造建築を建てることは環境に配慮した経営に繋がり、ESG投資判断を行う上では重要な要素になりえると考えられます。

 以上のようにSDGs、ESG投資は木造建築と密接な関係があることがお分かりいただけたかと思います。また、木造建築はこのような環境面、経営面だけでなく、利用する人の健康面や精神面にも良い影響が期待できるとして、2000年代から民間企業も自社の施設を「木造建築」とする動きが出てきており、この後の中高層木造建築物へと繋がっていきます。本シリーズも残すところあと2回となりましたが、今回の記事で木造建築がより我々の身近なところまで来ていることを感じていただけたのではないでしょうか。

次回は第六世代(2010年代)以降を一緒に振り返っていきたいと思います。

(※1)京都議定書
 1997年に京都で開催された温室効果ガス削減に関する国際的取り決めを話し合う「国連気候変動枠組条約締約国会議(通称COP)」で採択された国際条約で「1990年の6種類の温室効果ガス総排出量を基準として、2008年~2012年の5年間に、先進国全体で少なくとも5%の削減を目指すこと」とされた。

(※2)パリ協定
 2015年にパリで開催された温室効果ガス削減に関する国際的取り決めを話し合う「国連気候変動枠組条約締約国会議(通称COP)」で採択された2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組みで「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」とされた。



■イラスト協力
さかもといくこ

絵本作家・イラストレーター・看護師
青森県八戸市生まれ。絵本創作を中心に、イラスト、アクセサリー制作も行っている。
代表作品に、「タベールだんしゃく」シリーズ4作品(ひさかたチャイルド、チャイルド本社)がある。
弊社のサイトに込めた想いにご賛同いただき、今回のシリーズ『今なぜ木造建築なのか?』のイラストの作成にご協力いただいています。
http://ikuko.sakamoto.mobi