森林のライフサイクル~遷移と更新~
森林は見た目には静かに見えますが、実は数年から数10年の単位で変化し続けています。木は無意識に「ずっとここにあるもの」として捉えられがちですが、長い目で見ると環境の変化や種間の競争 に影響を受けて入れ替わっているのです。こういった植生の変化を、「遷移(せんい)」と呼びます。 ①裸地(らち)にコケ類や地衣類(ちいるい)が入り込む 草木が何もないところのことを「裸地」と言います。裸地は、溶岩の流出や土砂崩れ等によってできます。裸地には土壌がなく、雨水を地表に保つことができません。そのため、もし草の種子が飛んできても、発芽し成長することができないのです。そんな裸地に最初に入り込んでくるのが、コケ類や地衣類です。コケ類や地衣類はアスファルトや街路樹の表面にも生えていることからわかるように、少しの雨水があれば光合成をして生きていくことができます。このコケ類や地衣類が死んで地表に積もり、ゆっくりと分解されていくことから、土壌の形成が始まります。 ②1年生植物~多年生植物 コケ類や地衣類によって薄い土壌がつくられると、そこに1年生草本(そうほん:1年のうちに種をつくり枯れる植物)が生えることができるようになります。ブタクサ、ヒメシバ、ヒメジョオンなどの草の種がどこからともなく飛んできて、草原が形作られます。土壌が厚くなるにしたがって、多年生草本も増えてきます。多年生草本は年中枯れないか、冬場に枯れても根を残して生きています。常に植物の根が張っていることで地表の岩石の風化が促進され、砂や泥が増えることで、さらに深くまで土壌が発達していきます。 ③森林の発達 陽樹(ようじゅ)と陰樹(いんじゅ) 土壌が厚くなってくると、ついに森林ができる準備が整います。はじめに、陽樹と呼ばれる 強い光を好み乾燥に強い樹木が現れます。陽樹には、シラカバやマツ、ハンノキなどがあります。陽樹の林が形成されてくると、林床には光が届きにくくなり、草原の植物は勢いを失っていきます。次第に、陽樹の成木(大人の木)が光をさえぎるために、陽樹の幼木も成長しにくくなります。 裸地にはじめに根付くのは、強い光を好み乾燥に強い陽樹 森林が形成された後に勢力を強める、暗い林床でも成長できる陰樹 ④極相林(きょくそうりん) 陰樹の林になると、植生は安定し、入れ替わりが少なくなります。このような遷移の最終到達地点を極相林と言います。どの地域でも古くからある原生林は、その多くが陰樹の極相林となっています。極相林を構成する木の種類は、地域の環境によって違っています。極相林になると、数十年~数百年経過しても植生の構成に大きな変化が見られなくなります。 極相林に至った森林には、変化は何も起こらないかというと、そんなことはありません。 二次遷移に対して、記事前半でご紹介したような、土壌のない土地から始まる遷移を「一次遷移」と言います。 これまで見てきた遷移は、自然環境下での植生変化についての考え方でした。それでは、人の手が入った森林の場合、どのように遷移が進んでいくのでしょうか。 雑木林は、人の手が入ることで維持されているため、管理されなくなるとだんだんと植生が変わり、鬱蒼(うっそう)とした極相林(原生林)へと姿を変えていきます。 ⇒雑木林についてはこちら 「人の森林利用の形~雑木林とはなにか~」 日本の森林の約40%を占めているスギやヒノキの人工林は、林業生産の停滞により維持管理が難しくなっている地域が増えつつあります。 その一つの解決策として提示されているのが、「天然更新」という考え方です。林野庁発行の「天然力を活用した施業実行マニュアル」(https://www.rinya.maff.go.jp/tohoku/keikaku/attach/pdf/210203-3.pdf)によると、「天然更新とは、森林の伐採後、植栽を行わずに、前生稚樹や自然に落下した種子等から樹木を定着させることで、 まさに天然力を活用して森林の再生(更新)を図る方法のことです。 」とあります。人工的な更新(伐採や間伐、植林による木の入れ替え)ができなくなった林を、自然に更新される林へと徐々に戻していこうという考え方が天然更新なのです。 この記事では、「森林の遷移」をテーマにしました。止まって見えますが、入れ替わり続けている木々。多種多様な植物や動物、自然環境が影響しあって、姿を変えています。一度人の手を入れると、人の手を入れ続けな ければ同じ状態を維持し続けることは難しくなります。放置される人工林や雑木林が増えている今、人と森林の関係を見直して、人が利用する森林は適切に管理する一方で、利用をやめた森林は「天然更新」のように徐々に自然の循環に戻していくような取り組みが広がるといいですね。 用語解説 地衣類 植生森は変わり続けている
人が手入れをしているスギやヒノキの林や雑木林では、下草刈りや間伐などによって人工的に森林の遷移をコントロールしているため、長い間同じ植生 が保たれているのです。今回は人と森林の関りにとって重要なテーマである、遷移についてご紹介します。
やがて、暗い林床でも成長できる陰樹が幅を利かせ始めます。陰樹には、ブナ、シイ、カシなどがあります。陰樹の幼木は光が乏しいなかでも成長でき、やがて陽樹と陰樹の混ざった混交林となっていきます。しかし、陽樹は暗い林床からは新しい幼木が成長できないため、だんだんと陰樹だけの林へと変わっていきます。
陰樹の林になると、植生は安定し、入れ替わりが少なくなります。このような遷移の最終到達地点を極相林と言います。どの地域でも古くからある原生林は、その多くが陰樹の極相林となっています。極相林を構成する木の種類は、地域の環境によって違っています。極相林になると、数十年~数百年経過しても植生の構成に大きな変化が見られなくなります。一次遷移と、二次遷移
伐採や山火事、土砂崩れなどで陰樹の高木が倒れると、暗い林に部分的に光が差し込むようになり、草や陽樹が育ちます。このように、極相林に至った森林に部分的に日が差して遷移が再開されることを「二次遷移」と呼びます。二次遷移は、土壌がある状態から開始されるのが特徴で、一次遷移に比べても早く進みます。土壌には水や栄養だけでなく、植物の種子や地下茎、切り株などが残っているため、高い木が倒れて地面が明るくなったすきをついて、光を求めていた植物が一気に芽吹きます。雑木林の管理と遷移
二次遷移によってできた森林は「二次林」と呼ばれます。雑木林も、一度伐採したあとに維持管理している林なので、二次林に含まれます。
雑木林は、人の手を入れて間伐や定期的な伐採、下草刈りをすることで極相に至るのを止めて、遷移の途中段階を保っている林と言うことができます。高木が高い密度で生えることがなく、林の中にところどころ明るい空間があるので、様々な草木が成長のチャンスを得られるため、生物多様性豊かな空間になります。人工林の天然更新と遷移
人工林は年齢の近い1種類の木で構成されているため、間伐など人の手をいれないと木が入れ替わらず、細い木が高い密度で生えている状態になります。そうなると、根が深く張られずに土砂崩れが起こりやすくなるというリスクもあります。木が高く、太く育たないため適切に管理された林と比べて二酸化炭素吸収量も低いと言われています。
天然更新は、人工林に明るい空間を作りだし、そこから自然の遷移を再開させる試みなので、まさに「二次遷移」そのもの。ただし、目標とする自然更新される森林に早く到達するためには、自然に行われる二次遷移の力に任せながらも、計画的に遷移を促す必要があります。一気に皆伐することはせず、もともとあるスギやヒノキを少しずつ間伐し、 植栽を行わず、森林の外から入ってくる種からの広葉樹の成長を待ちます。人の手を入れないと適切に更新されない林から、徐々に自然に更新される林へと変わるのを 根気良く見守り続けることが大事なのです。まとめ
菌類の仲間で、藻類と共生することで光合成による栄養摂取ができるもの。菌類は藻類に定着できる住処と水分を提供し、藻類が光合成産物である栄養を提供するという共生関係をつくっている。
https://www.kahaku.go.jp/research/db/botany/chii/01/index.html
ある特定の場所に生育している植物の集団。植生は緯度や高度、気候条件によって形作られ、地域によって集団を構成する植物の種類や占める割合が変わる。