建築史家 藤森 照信先生による特別講演会を開催



2022年9月28日、ICI STUDIOにおいて、建築史家の藤森照信先生による特別講演会を開催しました。
本講演会は2022年3月にICI総合センター内に移築・復原した「旧渡辺 甚吉邸」の横に建設した「W-ANNEX」を会場に対面とリモートを併用し行われました。「W-ANNEX」は様々な分野のパートナーとの創造性溢れる交流の場で、「甚吉邸」と2つの建物を合わせたエリアを技術・文化・芸術・ヒトの創造拠点として「ICI STUDIO」と位置付けています。今回の講演会はICI STUDIOのオープニングを記念し、甚吉邸の名誉館長である藤森先生にご講話いただきました。





最初に建築家としての藤森先生の代表作をご紹介いただきました。藤森先生は「自然の素材や植物をどう現代建築に生かすか」というテーマの追求を続けられています。「建築物には建物としての力をきちんと持たせ、その中に自然をどう上手く取り込むかが重要である」という信念は、ご紹介いただいた作品を通して随所に感じ取ることができました。
一つ目にご紹介いただいた藤森先生の処女作である「神長官守矢史料館(じんちょうかんもりやしりょうかん)」は、斜めに傾いた屋根が特徴的です。建物はRC造でありながら壁土や鉄平石などの自然素材を使用し、諏訪の自然と中世の信仰をモチーフに設計されたそうです。
続いてご紹介いただいた「ラコリーナ近江八幡」は近江八幡に本社を置くお菓子屋さんで、カフェ・レストラン・事務所などが入る複合施設です。構造体はRC造やS造でつくりながら、草屋根や栗の木の柱などの自然素材を意匠として仕上げ、建築物が自然に融和しています。
その他にも様々な作品をご紹介いただきましたが、どの作品も建築と自然との共存を意識した斬新かつどこか懐かしい空間造形であり、藤森先生の追求されているテーマへのこだわりを感じました。






その後、チューダー様式の建物に関する基礎知識からその変遷、国内の数少ない現存する事例である甚吉邸の細かなディテールについて、甚吉邸の写真を見ながら分かりやすくご説明をいただきました。



外観からはハーフティンバーを採用した垂直のデザインや出窓、内観からは柱や梁の彫刻や漆喰を用いた装飾など、随所に施されたチューダー様式の特徴について拝聴し、移築・復原された甚吉邸の価値の高さを再認識いたしました。またチューダー様式は長期にわたり日本人が好きなデザインであり続けていると伺い、甚吉邸の維持保全の重要性を実感いたしました。



今回の講演会では建築史家の視点から甚吉邸と日本の洋館についてご講和いただき、大変 貴重な時間を過ごすことができました。 今後もICI STUDIOでは、定期的なイベント開催を目指して様々な準備を行っています。甚吉邸を実際に見学していただける機会も増やしていきますので、どうぞご期待ください。