生物多様性/種の多様性 ~私たちにできること~


今日から夏休み。 たてきくんは、たくさんある宿題の中で一番楽しそうな「身近にいるいきものを描いてみよう」にさっそく取りかかることにしました。



たてき

おばあちゃん、近くに虫とかいろんないきものを見つけられるところってある?宿題で絵を描くんだけど。

おばあちゃん

せやな、おばあちゃんの畑とか、その先の広い川原とかあるから、そのへん行ってみるか?

たてき

うん、行きたい! つれていってくれる?

おばあちゃん

えーよー。ほな、ちゃんと帽子かぶって、紙と鉛筆もって行こか。あ、そうや、それと...シュッシュッ。

たてき

これなあに? おくすり? シップみたいなにおいするけど...

おばあちゃん

これか?これは昨日家で取れたミントでおばあちゃんがつくった虫よけ。夏は虫が多いからな。さあ、行こか。

たてき

おばあちゃん、この畑でたくさんできてるのはなあに?おまめ?どっかで見たような・・・

おばあちゃん

そうそう、エンドウ豆を植えてるんや、きのうのばんごはんで食べたやろ。たてき、なんか見つけたか?

たてき

なんか長いのといろんな模様のテントウムシがいっぱいいる。それとよく見るとめっちゃ小さい虫がいっぱいいる。

おばあちゃん

すっごく小さいのはアブラムシやな。エンドウの茎の汁が好きなんやって。それとテントウムシはいろんな模様があるけど、これはみんなおんなじナミテントウ。ほんでこの長いのはその幼虫やな。ナミテントウがいろんな模様なんは、遺伝子の多様性のおかげ。

たてき

八百屋のおじちゃんのところで話してたこと?

おばあちゃん

そうそう。ようおぼえてるな。えらいえらい。

たてき

でもほかの虫いないね。なんでかな?

謎の男

好きなものしか食べない虫は意外と多いんだよ。君は、何でも食べられるかい?

たてき

うーん、ピーマンはあんまり好きじゃないけど。だいたいなんでも食べられるよ。

謎の男

ほー。それは感心、感心。

おばあちゃん

テントウムシはアブラムシが大好物。だからエンドウ豆の汁好きのアブラムシを食べに来たってわけ。逆に他の虫は好きなもんがないからここにはおらんのやな。

たてき

そっかー。じゃあ、川原に行ったらほかの虫が好きなものあるかなあ?

謎の男

あるかもしれないよ。ぼうや。見に行っておいで。

たてき

うん。おばあちゃん、行こう!

たてき

うわー広いね! いろんな草がはえてるね!

おばあちゃん

草の間とか地面の近くとか、よう見てみ。

たてき

おばあちゃん、名前はわかんないけどすごくいろんな虫がいて、飛んだりじっとしたりしてるよ。でも多すぎて何が何を好きなのかはよくわかんない。

おばあちゃん

そうやな。こんな何でもない草むらなんかは植物の種類も多くて、その場所が好きないきものが暮らしやすいんやな。地面の中もちょっと掘ったりしてよーく見てごらん。

たてき

うわー! 土の中からミミズが出てきた! あれ? こっちには土が盛り上がってる穴がある。

おばあちゃん

ここの土の中はいろんな栄養があるからミミズなんかも元気やろ。その穴はモグラやと思うよ。おばあちゃんも姿は見たことないけど。どうや、宿題はすすんだか?

たてき

うん、たくさん描けたよ。おばあちゃん、連れてきてくれてありがとう。

おばあちゃん

どういたしまして。どれどれ、おばあちゃんにも見せて。

たてき

おこらない?

おばあちゃん

たてき

おばあちゃんも身近にいるいきものに入れちゃった。

おばあちゃん



キャラクター紹介

たてきくん

小学校2年生の男の子。最近他県からおばあちゃんの家の近くに引っ越してきた。

おばあちゃん

生まれも育ちも大阪の還暦を迎えた、たてきくんのおばあちゃん。「しっぺ返しくんで」が口癖。

謎の男

どこからともなく現れてキーワードをつぶやく謎の男。

八百屋の大将(回想)

帽子はオリジナル。代々続く八百屋の3代目。


―用語解説―

種の多様性:
今回、たてきくんが訪れた畑には、エンドウ豆という単一の植生が、そして川原にはいろんな草という多様な植生が広がっていました。その場の環境をつくる植物が多様であればそこに生きる動物や微生物といった生きものの種類も多様になることがお判りいただけたかと思います。私たちの周りで残念ながら失われていく種があるのは、その場の環境をつくる植生の多様性を奪っていることも一つの原因かもしれません。

文化的サービス:
おばあちゃんがたてきくんにシュッシュしてくれた虫よけのような薬などは、前回ご紹介した「資源供給サービス」の一つ。実は世の中にある全処方薬の半分以上の主成分が樹木や草木などの薬用植物からの恵みでつくられているのです。粗末にすると大変なしっぺ返しがありそうですね。そして今回、たてきくんがおばあちゃんとのお散歩で楽しんだような自然とのふれあい、癒しや学び、日本各地で見られる素晴らしい自然の景色などを「文化的サービス」と呼んでいます。小さいながらも南北に長い日本には、その土地ごとに異なる気候や地形などの自然によって形づくられた様々な特徴があり、それらを活かした風習や郷土料理、お祭りなど、非常に豊かな自然の恵みが生活のそこここに息づいているのです。

30 by 30目標:
サーティ・バイ・サーティ目標とは、2030年までに生物多様性の損失を食い止め、回復させる(ネイチャーポジティブ)というゴールに向け、2030年までに陸と海の30%を健全な生態系として効果的に保全しようとする目標で、G7各国がそれぞれの国において少なくとも同じ割合を保全・保護することについて約束しています。
30by30|環境省 (env.go.jp)

たてきくんが言った「多すぎて何が何を好きかわからない」という状態は、実は生態系がとても安定した状態をあらわしています。一見、私たちから見るとどの種がどの種の役に立っていて、依存しているのかわからないけれど、その状態が長く続いているということは、その場所の自然の生態系が安定して循環している証拠なのです。規模の大小はありますが、様々な生態系がそんな状態になれば、現在世界が目指している、「30 by 30目標」の達成に貢献できるのではないでしょうか。是非この夏、自然の中に身を置いてそんな循環を探してみてください。次回は、たてきくんのおばあちゃんの愛用品のおはなしです。おたのしみに。

■イラスト協力


座二郎(ざじろう)

座二郎(ざじろう)

1974年 東京都生まれ
2000年 早稲田大学理工学研究科建築学専攻修士課程修了
2000年~21年 前田建設設計部。通勤電車の中で漫画を描き始める。
2021年 独立。描く建築家。

https://zajirogh.wixsite.com/zajirogh