生物多様性/調整サービス ~私たちにできること~
昨日、一日中降り続いた雨のおかげで庭には水たまりが。でも、窓の外に晴れ渡った青空を見たたてきくんはとっても嬉しそう。今日は待ちに待った遠足です!2年生のみんなで山登りに出かけます。 皆さん、おはようございます。さあ、これからぽんぽこ山に登るよー。すっかり雨が上がってよかったね。でも、落ち葉が濡れていて滑るので十分気をつけて登りましょうね。 お世話になってるものって何だろう?おばあちゃんがいつも言ってる自然の恵みと一緒かなあ? たてきくん、こっちにたくさんどんぐりあるで。一緒に拾おうや。まんまるのや細長いのやいろんなんがいっぱいあるで! ほんとだ、いろんなどんぐりがあるね。僕たちは食べないけど、山で生きる動物たちはきっとどんぐりにお世話になってるよね。 そうか。お世話になってるってそういうことか。ほんだら、おれらがお世話になってるものってなんなんやろな。 えーっと・・・ あっ!こっちに落ちてる栗にはお世話になってんじゃない?ぼく、大好きだよ。 せや!食べモンか。キノコとかもそうやんな。 ぼうや、久しぶりだね。こんにちは。今日は遠足なんだってね。山にお世話になっているものを探しているのかい? あ、おじさん。こんにちは。そうなんだ。いま山でできる食べ物がお世話になってるものだって見つけたんだけど。ほかになんかあるかなあ? 例えば、ここは日が当たってまぶしいけど、あそこの平らなところは影になってるよね。そういうのも山にお世話になってることの一つじゃないかな。 あー!確かに。ヒントをくれてありがとう。おじさんも今日は山登りなの? ああ、実はこの隣の山が、おじさんの山なんだよ。それで様子を見に来たんだ。 えー、すごい!おじさんの山なの? そうなんだ、この山と違って同じ木ばかりだけどね。 山ってどこでもいろんな木があるんじゃないの? おじさんの山は、おじさんのお父さんが何十年も前に植えたヒノキの山なんだよ。 お世話になってるものはみつかったかな?そろそろお楽しみのお弁当の時間ですよ。このあたりにシートを敷いてお友達と一緒に食べましょう。 あ、お弁当の時間だ!おじさん、じゃあまたね。 しっかり食べておいで。 よっしゃ、メシや!たてきくん、一緒に食べよ。 うん、このあたりでいいかな。大きな木があってここだとまぶしくないし。 せやな、涼しそうやな。 シートここでいいかな。この辺りは水たまりないし。よかった。おうちの庭には結構あったんだけど。 まだちょっとぬれてっけど座っても痛くなさそうだからまあ、えっか。あれ?たてきくんのお箸、割りばしなん?割りばしは木切ってつくるから、環境にようないって母ちゃんがゆうとったで。 え?そうなの?僕よく知らない。かえっておばあちゃんに聞いてみるね。 家に帰ってきたたてきくんは、早速おばあちゃんに楽しかった遠足の話をしました。 おばあちゃん、ただいま。はい、おみやげのどんぐり。 ほー、いろんなんあるなあ。おおきに。いろんな木が生えてたんやな。 そうだよ。いろんな形のどんぐりや栗もあったよ。 山も雨は上がってたか? うん、お天気も良かったし、それにうちの庭みたいな水たまりもなくてたくさん遊べたよ。 落ち葉がいっぱい落ちてて、地面がちょっとやわらかかったんちゃうか。だから雨の水がたまらずにすーっとしみこむんやな。 そうなんだ、もしかしてそれも自然の恵み? そうやな、山の土の中に住んでるいろんな微生物なんかが落ち葉を食べたりして栄養たっぷりのフカフカな土を作ってるんや。せやから、木も元気に育つし水もしみこみやすい。まさしく自然の恵みやな。 それは、僕たちが普段お世話になってること? もちろんや。もし土がカチカチで水がしみこまへんのに大雨が降ったらどうなると思う?すぐに洪水になったりするで。それに山にしみ込んだ水はゆっくりと土の中を通って地下できれいな水になって川に流れ出たりするんや。 すごいね。じゃあ、山はぼくたちの守り神だね。 お、ええこと言うなあ、たてき。そっか守り神か。 でもおばあちゃん、友達に割りばしは木を切って作るから環境に良くないって言われたんだけどそうなの?守り神の木を切るからよくないのかなあ? 今日たてきが持って行った割りばしのことか?あれは、逆に山の環境をよくするために大きくなる前に切った木を使ってるから大丈夫やで。それに、例えば使った割りばしを集めてきれいに洗って紙の材料にすることもあるし、自然の恵みを十分に生かした工夫がいろんなとこにあるんやで。 そっかー。よかった。教えてくれてありがとう。友達にも言ってみるね。 せやけど、外国の木で作った割りばしの場合は、切ったらあかん木を使ってるときがあるからそれは気をつけなあかん。どんな木を使ってるかは、割りばしの袋に書いてあるからそれを見たほうがええよ。 そうなんだね。これから気にしてみよっと。おばあちゃん、いろいろ教えてくれてありがとう。あした学校で僕たちが山にお世話になっていることを発表するんだけど、たくさん話せそう。 へー、今は遠足でも勉強なんやな。感心、感心。 そういえば、山でいつものおじちゃんに会ったよ。なんか隣の山に行くんだって言ってた。 そうやな、ぽんぽこ山の隣の山はあのおっちゃんの山やからなあ。あのおっちゃんは、おじいちゃんのお友達なんやで。もうすぐたてきがお世話になるんやけどな。 え?そうなの?またなんか教えてくれるのかなあ? まあ、楽しみにしとき。 キャラクター紹介 小学校2年生の男の子。最近他県からおばあちゃんの家の近くに引っ越してきた。 生まれも育ちも大阪の還暦を迎えた、たてきくんのおばあちゃん。「しっぺ返しくんで」が口癖。 ヒノキの山を持っている。もうすぐたてきくんがお世話になる? 担任の先生 去年赴任してきた女性の先生。子供と一緒に身体を動かすのが大好き。 たてきくんのともだち。生まれも育ちも大阪の小学校2年生。いろいろな形のどんぐりで工作するのにはまっている。 ―用語解説― 調整サービス: 木材利用推進月間: これまでの、4回のお話で生物が多様だからこそ生まれる自然の恵みをご紹介しました。まずは様々な材料やアイデアをくれる「資源供給サービス」。次に人と自然のつながりの中で育まれてきた「文化的サービス」、今回ご紹介した二酸化炭素を減らしたり、水をきれいにして私たちの暮しを整えてくれる「調整サービス」。そしてすべての生き物が生きるために必要な酸素を供給し、それらの「遺伝子」や「種」を守る暮らしそのものを支える「基盤サービス」といった恵みです。私たちはこれらの恵みを当たり前のものと考え、無意識にぜいたくに消費してはいないでしょうか?一説によれば、これらの恵みを貨幣換算したデータ※によると年間70兆円にも上るそうです。これらの恵みへの感謝が足りていないとどんなことになるのか。たてきくんのおばあちゃんがいつも言っていることを私たちも考えたほうが良さそうです。 次回は、おばあちゃんが子供のころよく食べていたあの食べ物のお話です。 ■イラスト協力 座二郎(ざじろう)
さて、今日の遠足ではみんなに探してもらいたいものがあります。実は、山にはみんなが普段お世話になっているものがめっちゃあるんですよ。それを見つけて明日、みんなの前で何を見つけたか発表してもらいますね。
たてきくんが遠足のお弁当で使った割りばしのような木は、きゅうりのお話でご紹介した「資源供給サービス」にあげられます。また、たてきくんと友達が見つけたどんぐり、くり、きのこといった山でお世話になっているものも「資源供給サービス」の一つですね。そして、今回たてきくんのおうちのお庭には、水たまりがあったのに山には既に水たまりがなかったこと、そしておばあちゃんが教えてくれたように、山のふかふかな土は雨水がしみこみ地中でろ過されきれいな水となり私たちの暮しを助けてくれることを「調整サービス」とよんでいます。また、ご存じのように木は光合成する際に二酸化炭素を吸収しますが、その働きもこの「調整サービス」に含まれます。今、世の中ではカーボンニュートラルが重要な課題になっていますが、光合成を増やす、つまり木を植え育てることはこの課題の解決に一歩近づくのではないでしょうか。
十月八日は木材利用推進の日です。確かに十と八を重ねると木という字になりますよね。これは2年前の2021年10月に「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(通称:都市(まち)の木造化推進法)が施行されたときに、国民に広く木材利用への関心と理解を深めてもらおうと定められたものです。
10月は気候も穏やかなので山や森に行ったり、文化祭や作品展で木やドングリで工作をしたりする機会も増えそうです。ぜひ、日々の暮らしに木を取り入れることで自然の恵みに思いをはせてみてはいかがでしょうか。
(※)森林・農地の有する多面的機能の発揮による国土強靭化の取組
2000年 早稲田大学理工学研究科建築学専攻修士課程修了
2000年~21年 前田建設設計部。通勤電車の中で漫画を描き始める。
2021年 独立。描く建築家。