甚吉邸特別講演会「今和次郎を語る」を開催
2023年11月2日、ICI STUDIOにおいて、甚吉邸特別講演会「今和次郎を語る」が開催されました。2022年3月にICI総合センター内に移築・復原した「甚吉邸」の横に建設した「W-ANNEX」※にて、対面とオンラインを併用し行われました。 本イベントは2部構成となっており、第Ⅰ部は甚吉邸のオンライン見学会、第Ⅱ部は甚吉邸で細部装飾を担当された今和次郎について、甚吉邸名誉館長の藤森照信先生、早稲田大学教授の中谷礼仁先生、神奈川大学准教授の須崎文代先生に鼎談いただきました。 第Ⅰ部のオンライン見学会では、甚吉邸学芸員水野僚子と設計部員の齊藤文加の案内で、"学芸員水野僚子と行く「甚吉邸を巡る」"と称して、対話形式で建物内を紹介する動画を放映しました。移築・復原後の甚吉邸の部屋を巡りながら、各部屋それぞれのコンセプトの違いと各所に残る細部装飾をご紹介しました。また、食堂の天井レリーフや泰山タイル※などの復原工事の様子を交えることで、工事に関わった職人の美しい手仕事とその技術をお伝えしました。 第Ⅱ部では、先生方それぞれの研究をもとに今和次郎についてのご説明の後、鼎談いただきました。 冒頭に藤森照信先生から、甚吉邸が残ることで同じ場所に一同に集えたことをめでたく思うと、ご来場された甚吉邸関係者・ご親族の皆様にお言葉をいただきました。また都市における人々の日常を記録し研究する考現学についてや、民家と生活学の研究者である今和次郎が、震災復興時にバラックに注目し研究したことなど、藤森先生が思う今和次郎の面白く驚いた点をご紹介いただきました。 中谷礼仁先生からは、ご自身が今和次郎の足跡をたどって全国の民家を探された記録や、ご自身の考現学に対する考えをお話しいただきました。「今和次郎の美」とは、「建築家の美(抽象された美)」と「雑草の美(素朴な機能主義)」を繋ぐことで、考現学や室内装飾にその美を見出していた、という中谷先生のお考えを聞き、その作品の1つである甚吉邸の貴重さを改めて実感いたしました。 須崎先生からは、今和次郎の民家へのまなざしと民への着目という2つの視点からお話しいただきました。今和次郎が割れた茶碗の欠け方や、銀座を街行く女性の帯の締め方、労働者が昼寝をする様子などをひたすらスケッチしていたというエピソードから、様々な角度から庶民のくらしを研究されていた記録とその面白さを感じました。 鼎談では今和次郎の建築家以外の側面についても話が盛り上がり、幻のデザイナー今和次郎の人間的な一面も垣間見ることができました。参加者からは「先生方の世代間での考え方の違いが興味深かった」「今和次郎の功績だけでなく、人間性や背景についても知れて良かった」「先生方の今和次郎愛がとても印象的だった」などの感想をいただきました。 Ⅰ部、Ⅱ部ともに多くの方にご参加いただき、盛況のうちに終了することができました。ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。今後もICI STUDIOでは、様々なイベント開催を予定しております。また定期的に甚吉邸の一般公開も行っておりますので、この機会にぜひ一度足をお運びください。 ※「W-ANNEX」とは昭和初期の住宅建築の最高傑作「甚吉邸」の移築復原に伴い併設された多目的ホールです。雑木林の中に国産木材によるトラス架構を浮かび上がらせることで、訪れた人を木で優しく包み込む空間を実現しました。甚吉邸にまつわる講演会や勉強会のほか、教育機関や自治体との各種ワークショップ、懇親会の場として利用されています。 W-ANNEX設計者 ※泰山タイルとは、1917年に京都で創立した泰山製陶所(たいざんせいとうじょ)によって焼成されたタイルのことです。甚吉邸では手洗いや浴室、玄関の床などに泰山タイルが使用され、それぞれ色合いや質感が異なります。