生物多様性/失われゆく多様性 ~私たちにできること~
最近、一生懸命自転車に乗る練習をしていたたてきくん。やっと補助輪なしで乗れるようになりました。そこでおばあちゃんに頼んで商店街の自転車屋さんに行くことにしました。 おばあちゃん、ぼく自転車に乗れるようになったから、補助輪はずしたいんだけど自転車屋さん連れて行ってくれる? お、すごいなたてき。コマなしで乗れるようになったんやな。よっしゃ、八百屋行くつもりやったから、ついでに行こか。 やった!ありがとう。 こんにちは。おっちゃん、コマはずしたって。 お、もうコマいらんのんか?よっしゃ、ちょっと待っとり。そこにカメがおるやろ、その子でもみてて。 うわー!かわいいね。なんていう名前? その子はミドリガメのカメキチ。おっちゃんが小学生の時からずーっと飼ってんねんで。 へー、カメって長生きなんだね。 ホンマの名前は、ミシシッピアカミミガメっていって外国から来たカメらしくてな。家で飼ってるぶんには問題ないんやけど、その辺の川に放したらあかんらしいねん。まあ、カメキチはずっとここにおるから大丈夫やけどな。 ありがとう、おじちゃん。なんかドキドキしてきた。だいじょうぶかなあ・・・ さあ、すぐそこやから八百屋さんまでのっていきや。 やったー!のれた。もう八百屋さんまでついちゃった! たてき、やったなぁ。上手に乗れてるで。おっちゃん、ご褒美にたべさしてやりたいんやけど今年はどうや? ほんまや。すぐ乗れるやなんてすごいやないか。残念やけど今年、ほとんど入らんかったな。ご褒美はほかのもんにしてや。 そーか、庶民には、たかねのはなやなあ。 タカネノハナってなあに? 手が届かへんぐらい高級ってことやな。昔はマツタケもぎょうさんあったんやけどなあ。 マツタケってなあに? 秋に採れるきのこやな。すごいええ香りで、秋の味覚の王様や。 おばあちゃんが小さい頃はよう食べたんやけど、最近はほとんど見かけへんわ。あんまり採れへんのやろうな。 なんで採れなくなったの?いっぱい採りすぎちゃった? まあ、それもあるやろうけどマツタケが育ちやすい環境が減っていってるからかなあ。マツタケはアカマツがいっぱい生えてる足元の光がよう入る山が好きらしいんやけどな。そのアカマツが減っていったり、山にたきぎ拾いに行く人が減ってしもたりして足元に光が入りにくくなって、育ちにくなったんかなあ。 昭和30年代ぐらいまでは台所とかお風呂でたきぎ使っとったよな。段々とガスとか電気を普通に使うようになってきて、燃料が変わってきたんや。今思たら、それであんまりたきぎを使わんようになって、山がほったらかしになってしもたんや。 手入れしていたものをほったらかしたらそこでできてた恵みが減ってしまうんやな、やっぱり。 感謝していないわけじゃなくてもしっぺ返しがあることもあるんだね。 せやな。何気なくやってたことも自然にとっては大事なことやったんやな。 マツタケもシメジとかシイタケみたいに人工的に栽培できたらいいんやけどな。むずかしいらしいで。 それが今年の5月にマツタケの遺伝子の並び順が解明されたって記事を見ましたよ。なんでもえらい大学や研究所の先生たちが頑張って2万を超えるマツタケの遺伝子の謎を解き明かしたとか。 遺伝子の謎がわかったら何がすごいの? マツタケを人工的につくれる可能性があるってことや。すぐにはむずかしいやろけど、たてきが大人になる頃にはできるかもなあ。そのときは、いっぱい食べてみてや。マツタケご飯に、土瓶蒸しにすき焼き、てんぷらなんかもおすすめやで。 おばあちゃんつくってくれるんでしょ。一緒に食べよ! キャラクター紹介 小学校2年生の男の子。最近他県からおばあちゃんの家の近くに引っ越してきた。 生まれも育ちも大阪の還暦を迎えた、たてきくんのおばあちゃん。「しっぺ返しくんで」が口癖。 自転車屋さん カメキチと一緒に商店街で、町の人たちの自転車ライフを見守っている。 帽子はオリジナル。代々続く八百屋の3代目。 ヒノキの山を持っている。もうすぐたてきくんがお世話になる? ―用語解説― 生物多様性の4つの危機: Think global, act local!: 今回、たてきくんは、「感謝してないわけじゃないけどしっぺ返しがある。」と言っていました。人間としては、良かれと思ってやっていることも、もしかしたら自然にとっては思わぬ変化になってしまうこともしばしば起こっています。たとえば、地球温暖化防止策として二酸化炭素を減らす施設をつくっても、それが生態系の破壊につながってしまうのであれば見直す必要がありそうです。開発の陰でいつの間にかいなくなっているそれまで普通に存在していた生き物などもそうですね。原因は一つではないのですがいろいろなことが絡み合って、メダカなどのどこにでもいた生き物が絶滅危惧種になることも多いようです。私たちも何かをするとき、ただ人にとって便利だから、という理由だけで行動するのではなく、一歩止まってまわりとの調和を考える、このひと手間を惜しまないことも今後のネイチャーポジティブな社会の実現に向けて取り入れていきたいですね。 ※社会変革: ■イラスト協力 座二郎(ざじろう)
よっしゃ、できたで。これで、またしっかり練習しいや。こけんようにな。
自転車屋さんが飼っているミシシッピアカミミガメ、通称ミドリガメは昭和生まれの方なら懐かしいカメではないでしょうか。お祭りの露店などでヒヨコなんかと一緒によく売っていましたよね。当時は、その後どうなるかがあまりわかっていなく、大きくなってしまったミドリガメを育てられなくなった人が、近所の川などに放流してしまい、食欲も繁殖力も旺盛なミドリガメがその地域の生態系を壊してしまっている例は今も後を絶ちません。生物多様性は、このような「外来種」により破壊されることがあります。また、八百屋さんでみんなが懐かしんでいたマツタケの減少などは、里山と呼ばれるような人の手が入っていたところが放置されることでそれまでの生態系が崩れ生物多様性が喪失する危機の一つです。日本ではその他に、開発による危機や地球環境の変化による危機が見られ、生物多様性は数十年もの間損失し続けており、それに伴い生態系サービスは劣化傾向にあります。
いま、これらの生物多様性の危機を乗り越えて、2030年までに生態系の30%を回復させる世界的な動き、30by30(サーティ バイ サーティ)があることは以前お伝えしたかと思います。それを実現するためには、今まで通りのシナリオではなく社会変革※(tranceformative change)が必要といわれています。そこでその考え方につながる「グローカル」という造語があります。意味は、Think global, act local. <地球規模で考え、足元から行動せよ>。この言葉にあるように、地球規模の問題ではありますが、自分たちにできることを、地元や地域に寄り添って行動してみることこれがいま、私たちにできることではないでしょうか。自転車屋さんのおじさんがカメキチを大きくなっても川に放さず、自分で育てていることもまさにグローカルな行動だと思います。ぜひ、みなさんも世界を思いながら身近にあることから行動を始めてみませんか。
さて、次回はいよいよ最終回。これまで出てこなかったあの人たちが出てきます。お楽しみに。
2030年ネイチャーポジティブにつなげるために、生態系の保全・回復や汚染・外来種・乱獲対策といったこれまでの自然環境保全の取り組みに、気候変動対策、持続可能な生産、消費と廃棄物の削減などといった様々な分野を連携させて活動することにより地球規模で持続可能性を実現する経路に向けて変革していくこと。このグラフを見ると生物多様性の損失を減らし回復させるためには、国や企業を主体とした活動だけでなく、消費と廃棄物の削減といった私たち個人でもできることがあるのではと気づかされます。国、企業、地域、個人といったそれぞれの主体がそれぞれにできることを進めていくことが何より大切なのです。
2000年 早稲田大学理工学研究科建築学専攻修士課程修了
2000年~21年 前田建設設計部。通勤電車の中で漫画を描き始める。
2021年 独立。描く建築家。