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「適材適所」国産木材の特徴と使い分け

2018-05-14

「適材適所」いう四字熟語は、もともと伝統的な日本家屋や寺社などの建築現場での木材の使い分けを表した言葉だそうです。

一口に木材と言っても、素材となっている木によって性質は多種多様。今でこそエンジニアリングウッドなど加工することで品質を一定に保つ技術が普及していますが、日本人は昔から木の性質を理解し活かしてきました。

「適材適所」をテーマに国産木材の種類と性質に応じた使い分けをご紹介します。

木の使い分け方。木材に適している木とは?

カラマツ、という木をご存知でしょうか。

カラマツは日本の固有種で唯一の落葉する針葉樹。「やに」と呼ばれる粘性の高い樹脂を分泌するため建築用の木材としては避けられてきました。しかし、この「やに」が木材の表面をコーティングするため腐敗や虫食いに強く、地中に埋める杭や土台のような土木用材や電信柱などに使われてきました。「やに」はもともとカラマツが昆虫や菌などの外敵から身を守るために備えている特徴ですが、それが木材として利用する際にもうまく活かされているのがわかります。
また近年、「やに」を処理する加工技術が開発され大型木造建築の構造材としての利用も増えています。


スギは高くまっすぐに育ち木目が直線的なため、加工がしやすく建具や構造材に多用されます。また、その柾目は通気性の高さから寿司桶に、板目は防水性の高さから酒樽や船としても使われてきました。ヒバは独特の強い香りを持ち、防菌効果が高く水にぬれても腐りにくい風呂桶やまな板として。キリは成長が早く材の密度が低いため吸湿性が高く、タンスに使われてきました。街路樹に多いケヤキは、材が固く狂いが少ないため昔から最高級の樹種とされ古くから寺社の建築に欠かせないものとされています。


日本で一番植えられている木、スギ

日本の人工林のおよそ半分弱をスギが占めています。多様な樹種があるにも関わらずスギが多く植えられてきた理由は、育てやすさだと言われています。成長が早く、直線的に育つので狭い土地にもたくさん植えることができ、生産性が高いというわけです。
第二次世界大戦後、高度経済成長期の建築需要の高まりを受け、補助金など国の政策の後押しもあり杉の人工林が急増しました。


しかし、同じ杉でも古くから杉を植えている地域では、地域ごとに地方品種がありそれぞれに特徴を持っています。

例えば宮崎の飫肥杉は、軽くて油脂が多く耐久性に優れるため、船の材料として使われてきました。南国の温暖な気候で低い密度で植えられるために成長が早く、目が詰まっていないため、軽い木材になると言われています。逆に奈良の吉野杉は、高い密度で植えられるためゆっくりと時間をかけて育ち、固く丈夫な材料になります。

他にも秋田杉、道南杉、北山杉、長良杉などその土地ごとに特徴を持った杉が植えられています

代表的な国産材

スギ

日本で一番多く植えられている木。日本の固有種で、縄文時代から利用されてきた歴史があります。日本人と共に歩んできた木と言えます。

主な使用箇所:柱、母屋、天井板、床板、造作、樹皮は屋根葺き材

スギ画像

ヒノキ

国内の針葉樹の中で最も良い木材とされています。耐久性に優れるだけでなく、特有の芳香や、表面を仕上げた場合の光沢など優れた性質を持っています。

主な使用箇所:柱、土台、天井板、造作、樹皮は屋根葺き材

ヒノキ画像

カラマツ

国内唯一の落葉針葉樹として有名。秋の黄葉が美しい。「やに」をうまく処理する加工技術や狂いを防ぐ集成材の技術により、近年大型木造建築にも使われ始めています。

主な使用箇所:梁、土台、杭

ヒバ

別名、アスナロ(明日桧)。独特の強い香りを持ち、腐食に対して非常に強いとされ建築では雨水に晒される箇所や土台など利用します。香りの正体はヒノキチオール。ヒバにはヒノキチオールがヒノキの10倍も含まれています。

主な使用箇所:土台、軒回り、ぬれ縁

サワラ

ヒノキにかなり近い分類の樹種。見た目や特徴も似ており、ヒノキの代用としても用いられます。

主な使用箇所:外壁材、屋根葺き材、造作

イヌマキ

暖かい地域によくみられる樹種。シロアリに強く沖縄では一級の建材として用いられてきました。

主な使用箇所:沖縄では柱、梁、土台

イヌマキ画像

ケヤキ

ケヤキ並木、という言葉がある通り街路樹として親しまれている木。耐久性が高く、古くから神社や和太鼓、お神輿、和たんすなどに使われています。

主な使用箇所:寺社建築、和家具、太鼓

ケヤキ画像

クリ

食用になる実がなじみ深いクリ。木材としての歴史も古く縄文時代から建材として利用されていたという説もあります。

主な使用箇所:土台、家具、造作、内装材

クリ画像

クスノキ

「トトロの木」や神社仏閣のご神木のイメージが強いクスノキ。木材に「樟脳」を含んでおり、耐久性と保存性に優れています。柔らかく加工しやすいため、古くから家具や彫刻の材料になってきました。

主な使用箇所:内装材

クスノキ画像

1000年以上の耐久性。木造の歴史的建造物

最古の木造建築である法隆寺をはじめ、今も国内に残る何百年も前に創建された木造建築の数々。日本では古くから、木を建材として利用し木への理解を深めてきました。そういった建物が長く残っていることは、建材としての木の耐久性を証明していると言うこともできるのではないでしょうか。

法隆寺

法隆寺西院伽藍を支える木材には、ヒノキが使われています。一説によると、ヒノキは伐採してから200年間はだんだん強度が増し、その後1000年以上も使い続けられるとされています。ヒノキは、木材としての耐久性や保存性が世界最高レベルといわれるほどの優良材です。

白川郷

白川郷の合掌造りの主要部材はクリ。クリは水や湿気に非常に強く、防虫・防腐処理を行わなくても長期間の使用に耐えます。

清水寺

清水の舞台はケヤキの木でできています。ケヤキの耐用年数は800年~1000年ともいわれ、神社仏閣の柱として不可欠な木材。清水の舞台を支えるケヤキの木は樹齢およそ400年の大木です。そんな巨木は早々手に入らないため、清水寺は今後の修復を見据え京都府内の山を購入、ケヤキを6000本植林したそうです。

それぞれの木の特徴を知ると、木造建築や木製の家具を見る目が変わるのではないでしょうか。身近な地域のお寺など古くから残っている建築物や昔から使われている伝統的な家具に、どんな木がどういった背景で使われているのか、考えてみるのも面白いかもしれません。