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「ホールそのものが楽器」ヤマハのつくった、音楽専用ホール 銀座ヤマハホール

2019-02-13
「ホールそのものが楽器」ヤマハのつくった、音楽専用ホール 銀座ヤマハホール

ヤマハ株式会社と前田建設。一見つながりがないように思える2社ですが、木と深く関係する事業を行っているという共通点があります。木はピアノやギターなど多くの楽器の材料となります。ヤマハ株式会社は、「木」との関わりをとても大切にしてきた企業なのです。

「ヤマハと木の関係について、聞いてみたい。」
業界は違えど長年木に真剣に向き合い続けてきたヤマハ株式会社に、企業と木の良い関わり方について聞いてみたい、という木で建ててみよう編集チームの思いが実を結び、今回の取材が実現しました。
木を使った音楽ホール、楽器の原材料となる木材の調達、CSR、木と音響設計の関わり...「ヤマハと木」というテーマを様々な角度から語っていただき、ヤマハ株式会社の木を活かす技術や、木に対する考えや熱量を知ることができました。

編集チームがはじめに取材へ赴いたのは、音楽関連の事業で有名なヤマハ株式会社の経営する「銀座ヤマハホール」。銀座ヤマハホールは、1953年のオープン以降、半世紀以上にわたって銀座を代表するホールとして親しまれてきた音楽ホールです。2010年にアコースティック専用ホールとしてリニューアルしたこの施設では、木と楽器が調和する新しい音響設計の工夫が施されています。

今回はそんな銀座ヤマハホールを実際に見学しながら、詳しいお話を伺いました。

「ホールそのものが楽器」ヤマハのつくった、音楽専用ホール 銀座ヤマハホール

株式会社ヤマハミュージックリテイリング ヤマハホール運営部 笹生さん(写真前列中央)
1988年入社、音楽教室、ピアノショールーム、店舗営業販売を経て、2012年よりヤマハホール運営部に所属し内部施設、およびヤマハホール、ヤマハ銀座スタジオの管理・運営、貸館業務を担当。

ヤマハ株式会社 コーポレート・コミュニケーション部 橋本 千恵子さん(写真前列右)
2008年入社。2010年より広報部(現コーポレート・コミュニケーション部)に所属し、現在は鍵盤楽器とヤマハ銀座ビルの広報を担当。

音を活かすための技術

――2010年にリニューアルして今の形になったと伺いました。

橋本:ヤマハホールは全体で333席という本当にコンパクトなホールで、基本的にはアコースティック楽器の専用ホールとして設計されています。1階が250席で2階が83席ですね。

笹生:かつての旧ホールが500以上の席数を誇っていて、映画の試写会などにもご利用いただいていたんですよ。ですが新しいホールになってからはコンサート専用ということで、講演会や映画の試写会などはお断りをさせていただいております。

音を活かすための技術

――具体的にどのような特徴があるのでしょうか?

笹生:ヤマハが作った音楽専用のホールということで、このホール自体が楽器であるというコンセプトをもとに設計されています。内装には楽器に使われている木材を使用していて、壁面ですとか、床やステージですとか隅々まで、ヤマハとしてのデザインコンセプト・意匠の両方が反映されています。とにかく音の質だけは保持しようという形で、そこが基本となっています。ステージの床も見て分る通り、無垢材なんですね。今年の1月にメンテナンスのため、2ミリ程度削っています。

――アコースティック楽器を活かすために、敢えてコーティングなど施してないのでしょうか?

橋本:ヤマハの特殊なA.R.E(Acoustic Resonance Enhancement)という木材改質技術による処理をしています。もともと木製の楽器というのは、弾き込んでいくと音がどんどん熟成されていくものです。ホールの床材も同様の考え方で、温度と湿度と気圧を高精度にコントロールすることによって、短時間で経年変化を重ねたような状態に加工しています。コーティングではなく、木を熟成させるイメージですね。

――それはヤマハさんのお持ちの技術なのでしょうか?

橋本:はい、弊社独自の技術です。バイオリンやアコースティックギターなど、一部の楽器ではA.R.E.処理を施した木材を使っています。長年大切に使い込まれた楽器の木材は深みのある豊かな音が出ますから、それを人工的に再現しているというわけです。

音を活かすための技術

――壁面のダイヤ柄も印象的ですよね。

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橋本:ビル自体の外壁もダイヤ柄になっているのですが、あれはビルの意匠ということでそこにホールのデザインも合わせています。この壁面も反射音が客席にうまく届くように設計されています。

音を活かすための技術

――壁のへこみ具合ですとか、柄のように見える縞模様も全部音響上の理由があってこういう風にしているのでしょうか?

笹生:全ての席にまんべんなく音が跳ね返ってくるように設計されています。楽器によっても違いますが、一番直接音を感じられるのは前方の席ですね。

――音響の設計も御社の技術者の方がご担当を?

橋本:はい、専門の音響設計担当者がおります。音響設計担当が要件を決めて、外部の設計会社と協力して設計を詰めていく、という体制になっています。

ホールそのものが楽器

ホールそのものが楽器

橋本:使用している木の種類は様々なのですが、大まかに言うと楽器と同じ種類の木材を使っています。

――楽器と同じ種類の木を使うということは、音響によい影響を及ぼすのでしょうか?

橋本:冒頭でもご説明しました通り、ホールを楽器として捉えるというコンセプトがありまして、楽器と同じ木材を使うことでそれを実現しようという試みです。

――やはり実際に演奏される方からすると違いを感じることができるのでしょうか?これだけ全部木で囲まれているホールはなかなかないと思います。

笹生:非常に好評ですね。降り注いでくる音に包まれているような状態で演奏が出来るので、非常に気持ちいいとおっしゃっていただけております。このホールの稼働率も80%以上で、多くの方にご好評をいただいております。最初はソロコンサートばかりでしたが、最近は室内楽の合奏や歌の方にも多くご利用いただいております。返しがないので生の音が聴けるんですよ。

ホールそのものが楽器

――講演や試写会をやらなくなったのには理由が?

笹生:一応アコースティック専用ホールなのですが、PA(マイクなどの拡声器のこと)ありのコンサートはやらないという訳ではありません。ただ、PAを使った場合は逆に響きすぎる傾向があります。以前著名なアーティストの方が下見にいらしたときは、「マイクなしで歌える」とおっしゃっていました。普段マイクを使っている方でも、マイクなしでもいけそうだと。

――そこまで音が響きやすいというのは、やはり様々な工夫があるのでしょうか。

笹生:「ねずみ口」と呼ばれる配線を出す穴のフタなども、ビビリ音のような異音が出ないようにかなり重量があります。女性だと持てないくらいの重さなんですよ。

降り注ぐ音

――この大きさで残響時間が1.6秒ですから、すごく響くホールということになりますよね。東京文化会館などと同じレベルですね。

笹生:その対策のために壁が上に行くにつれて広がっていまして、音が上から降り注ぐようになっています。上の方がわずかに空間が広いのです。

降り注ぐ音

――ホントだ。もともと壁に凹凸がついているので、よく見ないと気付かないですね。

笹生:空間を上空に広げることで反射音を滞留させ、そこから降り注がせる効果があるんです。

――すぼめる方は見たことがありますが、広げた設計は初めて見ました。客席に人がいっぱい入ると音の響きは変わるのでしょうか?

笹生:確かに変化はありますが、ヤマハ独自の技術によって空席と同じ音空間を実現できるように設計してあります。

降り注ぐ音

「ホールそのものが楽器」というコンセプトの下、楽器の音を最大限活かせるように設計されている銀座ヤマハホール。インタビューの最後に、実際にホールでのピアノの演奏を聴かせていただけることに。ビアノ自体の繊細で美しい音色はさることながら、ホール全体が共鳴しているかのような一体感、天井からやさしく降り注ぐ音を肌で感じることができました。続編では浜松のヤマハ株式会社本社で、ホールの音響設計について詳しいお話を伺いました。