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建築基準法の番人、建築確認審査機関とは?|木の達人集めました~木造業界インタビュー第5回

2019-08-20

木で建ててみようの記事の中でも、特に人気が高くアクセス数を集めている「建築基準法再発見シリーズ」。難解なイメージがある建築基準法を、独自の視点で噛み砕いて解説した記事が好評です。


建築基準法再発見!第3回 「木造建築物って、何階まで建てられるの?」


https://kidetatetemiyou.com/tateru/article20.html


建築基準法再発見!第8回 「木造建築物の法改正は?」


https://kidetatetemiyou.com/shiru/article41.html




今回、木で建ててみよう編集チームが伺ったのは、「建築基準法再発見シリーズ」を連載いただいている、株式会社確認サービス(以下、確認サービス)。建築基準法再発見シリーズを執筆していただいている佐藤様と鈴木様にお話を聞きました。

日々建築基準法と向き合っている会社ならではの、建築基準法や建築確認検査についての一歩踏み込んだ話題が満載です。建築基準法の専門家としての、基準法への情熱も垣間見ることができたインタビューとなりました。

建築基準法の番人、建築確認審査機関とは?|木の達人集めました~木造業界インタビュー第5回

佐藤 廣志(さとう ひろし)さん(右)
三重県桑名市出身。株式会社確認サービス 常務取締役 東京支社長。
前職は特定行政庁の公務員
一級建築士、建築基準適合判定資格者。

鈴木 浩之(すずき ひろゆき)さん(左)
静岡県三島市出身。株式会社確認サービス 東京支社副支社長。
前職はゼネコンの設計部。
一級建築士、建築基準適合判定資格者。

建築確認検査とは何か

―確認サービスがメインの事業としている、建築確認検査とはどういったお仕事なのでしょうか。普段建築の現場に関わりのない読者の方にもわかりやすく教えてください。



佐藤:一言でいうと、確認検査というのは、建物が建築基準法に適合しているかどうかを検査する仕事です。建物を建てるにあたって主人公である建築・設計・施工のサポート役ですね。
建築確認検査だけでなく、建築物の性能評価やフラット35など融資を受ける際の基準への適合性確認、法的手続きのサポートなど幅広く業務を行っています。



インタビューの画像


―確認サービスでは、年間何件くらいの建築確認検査を実施されているのでしょうか。

鈴木:全国で年間24,000件くらいです。
常に全国のどこかで確認検査をしているという状況です。東京から大阪まで11支店あり、全国対応しています。年末の12月や期末の3月は案件が多いので、人員のやりくりが大変ですね。


―確認サービスの特徴や得意分野などはあるのでしょうか。建物ごとの確認検査業務の違いについても聞かせてください。


鈴木:そうですね、戸建てが強い傾向の会社、超高層建築物だけ専門でやっている会社などありますが、弊社はまんべんなく、幅広く対応しています。

病院、福祉施設の確認検査は確認項目が多くて、大変ですね。使う方の安全を守る役割が大きい建物ですので、基準も厳しくなっています。用途上、部屋もたくさんあり、避難距離や間取りなどチェックポイントも多くて複雑です。

インタビューの画像


―年間24,000件対応されているということですが、社員は何名くらいいるのでしょうか。



佐藤:240名です。そのうち1級建築士が164名おり、職員に対する一級建築士の割合では業界随一なのではないでしょうか。
建築確認検査特有の資格で言うと、建物の書類の審査・検査ができる建築基準適合判定資格という有資格者も140名ほどいます。第三者機関の立場で、建築確認検査を実施するための専門資格です。


―実際の建築確認検査業務は、どういった流れで進むのですか?



佐藤:建築の工程の中で、私たちが関わる場面は大きく2つあります。1つ目は着工前の「確認申請」、2つ目が工事完了後の「完了検査申請」です。確認申請は書類審査、完了検査申請は現場での検査になります。設計、施工の流れの中の節目節目で関わっていくイメージです。


建築物の設計・施工・使用における手続きの流れ

次に検査の項目を大まかにご紹介します。
建築確認検査は、建築基準法に適合しているかどうかの検査です。建築基準法には、総則規定、単体規定、集団規定があります。


建築基準法

総則規定については手続や申請について定めた規定なので、詳しくは触れません。
建物にかかわる規定が、単体規定と集団規定です。



単体規定というのが建物個々に対する規定ですね。「地震、雷、火事、健康」とよく言いますが、災害から人命を守ったり、建物が原因で健康を害したりしないための基準が定められています。
集団規定は建物周囲への影響が及ばないように基準を定めたものです。周囲の建物の採光や通風、火災の際の延焼などを考慮し基準が記されています。


確認申請では、まず書類段階で集団規定を満たしているかをチェックします。
イメージしやすいよう大きなところからいくと、まず立地をチェックします。その建物が建てられる用地なのか、規制を受けている地域ではないかなどですね。それから道路に面しているのか、建物のボリューム、建ぺい率や容積率などを確認します。次に高さや日影のチェック。最後に地域によって決められた基準に従って、建物が「どれくらい燃えにくいか」を審査します。



次に単体規定、「地震、雷、火事、健康」ですね。地震に強い構造かどうか、避雷設備があるかどうか、火事から避難するときの階段までの距離、扉の位置、建物の素材の燃えにくさなどを審査し、これらをすべて審査記録として書類に残します。
問題なければ確認済証が交付され、工事に着手することができます。



鈴木:竣工後の完了検査は7日以内に検査をする必要があります。建物が大きいと見る情報も多くなりその分手間がかかります。大型物件は施工前の確認申請を担当した者が担当する場合が多いですね。

竣工後の完了検査は現場に出向いて実施するのですが、書類審査に比べてずっと大変です。

例えば、ある地点から階段までの距離が30メートル以下という数値が基準だとして、現場では一番角からだと31m(図:赤線)、手前からだと30m(図:緑線)、測り方によっては35m(図:青線)になる場合もある。基準を満たすために、「これでどうだ、これならどうだ」というやり取りが必ず発生します。

竣工後の完了検査の測定の図

もし建て直しになったら追加で何千万円もかかるかもしれない。設計・施工側からしたら大問題です。このように建築の現場では何が正しいのか、という解釈が必要になるので、そういった細かい具体的なポイントは建築基準法を読み解いて判断していきます。

基本的には建物は建築基準法に則って建てる、というのが大原則です。ただ、そこにはどうしても解釈の違いがあるのです。



―なるほど。建築基準法だけですべてを規定するのには限界があり、解釈の幅があるからこそ建築確認検査が必要なのですね。
審査に引っ掛かるのは例えばどのようなケースなのでしょうか。



鈴木:確認申請では、書類の時点で基準を満たしていない場合は工事に着工できません。
どうしても現実的に工事の予算に制限があるので、ぎりぎり基準をクリアするなんてことも結構あります。余裕があればど真ん中のストレートが投げたいが、低めのカーブでクリアする、みたいなイメージですね。

完了検査でひっかかるケースはもっと重大です。まれに、どうしても直してもらわないと合格を出せない、完了検査済証が発行できないという場合もあります。
設計と施工で会社が別だったり、施工会社が複数いたりなど連携できていない場合に、設計通りに建てられていないという漏れが発生しやすいようです。


書類を見て話し合っている画像

―施工側からは審査基準を緩めてほしい、という声もありそうですね。



佐藤:弊社は、「うるさい、細かい」と業界で評判なんです。私は誉め言葉だと思っています。決して保身のために厳しくしているわけではなく、建築基準法の条文にもある通り、「国民の生命を守るため」という使命のため、ですね。

建築する側の目線で言えば、自分で住む家であればしっかり作ってほしいという意識だけ働くでしょうが、商売の視点から言えばできるだけ低予算で1日でも早く完成させたいですよね。合格ラインギリギリで申請しようとするのは、当然のことです。
だからこそ、厳しく確認検査をしないといけないのです。

―厳しいところが、信頼に繋がっているのですね。


佐藤:以前から病院など不特定多数の方が使う建物については、建てる側の方がきっちり検査したい、安全に作りたいという意識が強かったです。
今は世の中の流れとして、どのような建物でも「安心・安全」を重視する機運が高まっています。設計者の中でも意識改革が広がっているようですね。建築基準法に意識を向ける方も増えていて、家を建てる個人の方でも、建ぺい率や斜線制限などの建築用語をご存知だったりします。

そういった風潮もあってか、最近では確認申請前の設計段階でご相談される方も増えてきています。


書類を見て話し合っている画像

―ありがとうございます。建築確認検査の業務について、かなりイメージがついてきました。そもそもの疑問なのですが...建築基準法と設計・施工の間に立つ役割として、建築確認検査が必要な理由や背景を伺ってもよろしいでしょうか。

佐藤:建築法規の歴史を振り返ると、戦前は「市街地建築物法」という法律があり、建物を建てることそのものが許可制でした。

第二次世界大戦後、GHQの指導によって許可制から確認制に変わり、併せて建築士という資格と建築確認という制度ができました。自由に建物を建てられるようになった代わりに、建築士という資格によって技術と知識を担保し、それに加えて確認という検査段階を役所が実施することで二重の安全策を取ったということですね。


高層ビル群

建築基準法違反の事件や事故が発生すると、そのたびに制度も厳しくなる傾向があります。例えば、今は確認制度以外に構造計算適合性判定制度もあり、さらにダブルチェックになった形です。
また設計段階でも、一定の規模以上の建築の場合は「構造設計一級建築士」という資格が必要になっています。



―許可制から確認制になったことで、建築のハードルは下がったけれど、事故や不祥事などがあると基準が厳しくなることもある、という訳ですね。
最近の傾向では、建築確認申請のお仕事は増えているのでしょうか。

佐藤:最近は、住宅の性能評価のお仕事が多いですね。耐震性や断熱性などの観点で、建築基準法の最低限の基準はクリアしたうえで、さらに性能の高い住宅・建築物であることを評価するものです。

「長期優良住宅」といって長く使える住宅に対する認定というものもあります。住宅販売時にはお客様にメリットとして押し出せますし、税金が安くなるなどの優遇がある場合もあります。

このように、最近は付加価値的な認可を取るための仕事が増えてきています。


―建築確認検査についてのパートの最後に...改めて、建築確認検査を一言でいうと何でしょう。

佐藤:一言でいうのはなかなか難しいですね...。
基準法の第一条に、「この法律の目的は国民の生命、健康及び財産を守ることである」と定められているんです。私は、建築確認検査についても、この目的を達成するためにあると捉えています。
ちょうど、新入社員への研修でも毎年伝えているのですが、「食うためではなく、国民の生命を守る仕事をやっている。自信を持ってやっていこう」と。

そうでも考えないと、お客様に厳しいことを言わなければならないなど、大変な面もある仕事ですからね。


インタビューの画像

建築確認検査機関が見る建築基準法

―お二人は建築確認検査の専門家として日々建築基準法と向き合われていると思います。「建築基準法再発見」シリーズのテーマでもある、建築基準法の難しさや面白さ、魅力について教えていただきたいです。


佐藤:大好きです。好きで好きでしょうがない。勉強すればするほど、面白くなってきます。

建築基準法は第一条に、「最低の基準を定める」と書いてあります。数多くの法律の中で最低を定めているのは建築基準法だけ。

法律を守らなければならないのは、国民の義務ですよね。それを最低の基準で定めている。ぎりぎりを探っているところが、面白く感じませんか。


インタビューの画像

―最低の基準を定めているからこそ、多様な建物が生まれるという訳ですね。


佐藤:仰る通りです。例えばパリの街並み。高さ、素材、形状など細かく法律で定められた通りの建物が並んでいます。これは最低の基準ではなく、画一的な基準を定めているからこそのものです。
日本ではそこに一定の自由を認めているんですね。国民の生命を守るという目的はありつつも、最低の基準を定めている。そこが興味深いところです。


―最低の基準だからこそ、そこをクリアしているかチェックするために建築確認検査も必要だということですね!

佐藤:まさにそうです。

例えば、建築基準法には雨漏りしてはいけないという項目はありません。雨漏りをチェックする評価基準は、建築基準法とは別に存在しますが、雨漏りをする建築は建築基準法違反にならないのです。


鈴木:建築基準法に定められている条件や制約を満たすために、構造をどういうデザインにするかを考えるのが面白いですね。機能をデザインする、という観点です。

安全基準を満たすためにどんな工夫をするのか。街中を歩いていても、建築基準法の視点から見てうまくやっているな、という設計は注目してしまいますね。


―最低の基準にしているからこそ、解釈の幅があって面白いのかもしれません。


佐藤:ただ、刑法などと比べると改正が多いです。
改正、改正、改正、3~5年おきに改正です。逆に言うと、飽きがこないですね笑


建築基準法再発見!第7回 「2019年施行!建築基準法が改正されるのは何故?」


https://kidetatetemiyou.com/shiru/article38.html

―事件・事故に加えて、技術革新などをきっかけにして改正されていくのですよね?
基準法が改正された後に、基準に適合しなくなった建物はどうなるのでしょうか。


佐藤:一回建てた建築物には既得権がありますので、次の増改築まではそのまま使えます。例えば消防法などは、改正があった内容に対して何年以内に対応するように、と決まっており遡及対応が求められます。
その点建築基準法では改正された場合に既存の建物が対応を求められるということはありません。


うさぎのイラスト

木で建ててみようと基準法再発見シリーズについて

―「木で建ててみよう」は木造が大きなテーマになっているサイトなので、木造と建築基準法の関係についても伺いたいです。木造建築というのは、建築基準法の観点から見るといかがでしょうか。面白い点、大変なところなど伺えればと思います。


佐藤:審査だけで考えると大変ですね。全部、審査が楽な鉄骨にしてほしいくらいです(笑)

私は、木造には思い入れがあるんです。長野県庁で働いていた際に、初任地が木曽でした。木曽といえばヒノキです。ヒノキ造りの建築物の確認検査を沢山経験しました。その間木造の建物に多く触れて、本物の材料をいっぱい見ることができました。
最後に担当したのが大断面の集成材を使った直径100mの木造ドーム。通常の法律では実現できない木造建築物ですが、とても印象に残っています。
木造はいいですね。やさしさが感じられます。


木造の特大講義室

―木造には他の素材のような、無機質さがないですよね。


佐藤:木で建ててみようの企画も、「木」だからこそ引き受けたところがあります。

やはり日本は木。今、外材ばかり使われ、日本の山が荒れてきています。最近は木で新しい建材を作ろうという流れも多いですよね。その辺りは基準法も絡んでくるので、どういう風に解釈していくのかな、など考えを巡らせています。

木造に対する逆風としては、昔の建築基準法の条文が木造を悪者にしすぎていたという経緯もあります。関東大震災で10万人がなくなり、木造住宅が多かったために死者の9割が焼死でした。ここから単純に、木造の住宅が悪いんだという風潮になったのでしょうね。建築基準法は木には厳しい、というのにはこういった背景があります。



建築基準法再発見!第1回 「耐火性能が気になる木造建築。耐火構造と準耐火構造、どっちが火に強い?」


https://kidetatetemiyou.com/shiru/article14.html



それが最近の改正で良くなってきています。やっと木造が日の目を見てきたと言えるのではないでしょうか。国交省も実験を繰り返すなどしていろんな知見が増えてきて木造に対する規制が緩和されてきています。
構造材にも、外壁や内装にも、使える範囲が広がってきていますね。



建築基準法再発見!第8回 「木造建築物の法改正は?」


https://kidetatetemiyou.com/shiru/article41.html



―基準法再発見シリーズ、毎回楽しく読ませていただいております。ネタは、どのようにして考えられているのですか?


佐藤:鈴木さんと話しながらアイデアを出しています。会社で建築士の方向けにセミナーや勉強会を実施していまして、その中で受講者の方から出た質問の中から木に結び付けられるものをピックアップすることもあります。

最初に寄稿のお話をいただいた時は、「これは"うん"と言わなきゃな」と。
私たちの立場は、建築基準法について素人目線でもプロの目線でも紹介できる。建築基準法をもっと身近に、わかりやすく伝えられたらなと思ってお受けしました。

私は大学で建築法規の講座ももっています。建築学科とはいえ大学三年生のほぼ素人、最初はどう教えようかと戸惑いました。授業についてこられない、途中で寝てしまう...まずは90分間寝かせない、惹きつける授業づくりを考えました。

その経験が伝え方の勉強になって、木で建ててみようの記事にも生きていますね。


動物のイラスト

―建築基準法×木造という観点で、後の展望も聞かせていただきたいです。


佐藤:公共建築物も、民間の物も木造物件が増えてきています。企業イメージのために社屋を木造で、という話も多いですね。社会に木造が広がれば広がるほど、それが新しいスタンダードになっていくはずですし、楽しみですね。
最近では、街中で木造ビルを建てるケースも見かけますし、一律規制されていた時代に比べてずいぶん変わってきています。

あとは、技術と法律のバランスが大切だと思います。技術開発とともに、それに応じて法律も進化していく必要がありますからね。
例えば、建築基準法27条に特殊建築物の耐火規制がかかれているのですが、今国土交通省が実験を重ねた上で緩和が進んでいます。学校、幼稚園、病院など今まで建てられなかった種類の建物が建てられるようになってきそうです。今後は防火地域や準防火地域の規制なども緩くなる見込みです。

事例が増えれば、それを追って新たな事例ができ、木造が広がっていくでしょう。実験、検証をして法律になる、それの繰り返し。時間はかかります。

今回の建築基準法改正も、木造推進・木材利用拡大を大きな目的の一つとしています。確実に木造は造りやすくなってきていると思います。


インタビューの画像

今回も、非常に内容の濃いインタビューとなりました。専門的で深いながらも、初心者でも楽しめるエピソードの数々に、さすが「建築基準法再発見シリーズ」を書かれている方々...と感じ入る場面ばかりでした。

「建築基準法再発見シリーズ」は先日公開の第10回で終了となりますが、確認サービス佐藤さんによると「次回シリーズを検討中!」ということですので、皆様楽しみにお待ちくださいませ!