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今なぜ木造?戦後と建築基準法|シリーズ第1回

2021-07-30
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©SAKAMOTO IKUKO


 建築基準法の前身とも言える、市街地建築物法が大正8年(1919年)に公布されてから2021年現在では100年以上が経過し、木造に関わる様々な法改正が行われてきました。最近では2020年に木造建築物に関わる法改正が行われ近年、木造建築に注目が集まっています。


ここで単純な疑問が湧いてきませんか?


「日本って、国土の約7割が森林で、昔から木造建築っていっぱいあったよね?住宅なんて特に木造が多いし、今更どうして木造建築なの?」


 この疑問に答えるには木造建築物の歴史、建築基準法とその関連法令の改正の歴史、建築材料の進化の過程、世界情勢の変化などの様々な要素を切り離して考えることはできません。1950年の建築基準法制定から9年後の1959年に起きた「木造禁止」という一大トピックスを近代木造建築のスタートラインと位置づけ、10年刻みで木造関連のキーワードを以下の表にまとめてみました。


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 これらのキーワードを元に各年代を振り返り、「今なぜ木造建築なのか?」について一緒に考え、木造で建てることの意味、必要性をシリーズを通して皆様と共有していきたいと思います。
 では、さっそく、第1回目の今回は上表の「第一世代(~1960年代)」について見ていきたいと思います。


◆第一世代(~1960年代)
 第二次世界大戦で多くの木造建築が火災により焼失し、1945年の終戦から5年後の1950年に建築基準法は制定されました。当時は延べ床面積3,000㎡超、最高高さ13m超、軒高9m超、の木造は建築制限を受けており、木造にやさしい法律とは言い難いものでした。(参照:建築基準法再発見!第8回 「木造建築物の法改正は?」
 その後、1959年に起こった「建築防災に関する決議」における「木造禁止」は、木造建築全般の禁止を一律に求めたものではなく、同年9月の伊勢湾台風で受けた甚大な被害にかんがみ、建築物の火災、風水害の防止を目的として、特に危険の著しい地域に対する建築制限のひとつとして「木造禁止」を提起したものでしたが、議員立法が成立し全国一律の法の網がかかったことも一因となり、「木造禁止」というワードが一人歩きを始め、この頃から日本の木造離れが進むことになります。また、戦時中及び戦後は復興の為に木材がたくさん使われ、多くの木が伐採されたことで1960年代後半には建築に使用できる木材が少なくなっていたことや相次ぐ火災による法令上の防火等規制強化もこの木造離れの一因であり、これを機に輸入の自由化も相まって、海外から新しい建材が入ってくるようになり、都市部を中心に日本の公共建築物のコンクリート造、鉄筋コンクリート造化に一気に拍車が掛かっていくことになり、1970年代の「コンクリートブーム」に突入していくことになります。


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 このように、住宅以外の中高層木造の技術開発がほどんど進まなかったのがこの世代の特徴です。
しかし、時間はかかりましたが、1959年の「木造禁止」の一人歩きから約50年後の2010年には「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行されたことで、現在は国をあげての木造建築の推進が図られており、これにより最終的には地場林業が正常な姿かたちに戻ってくれればと考えています。


 「今なぜ木造建築なのか?」、今回、第一世代(~1960年代)を振り返ったことで、まずはこの問題を考える良いきっかけとなり、新たに見えてきたこともあるのではないでしょうか。
答えは1つではなく、まずは考えることで、人それぞれの答えが見つかってくるのだと思います。


次回は第二世代(1970年代)以降を一緒に振り返っていきたいと思います。



さかもといくこ
絵本作家・イラストレーター・看護師
青森県八戸市生まれ。絵本創作を中心に、イラスト、アクセサリー制作も行っている。
代表作品に、「タベールだんしゃく」シリーズ4作品(ひさかたチャイルド、チャイルド本社)がある。
弊社のサイトに込めた想いにご賛同いただき、今回のシリーズ『今なぜ木造建築なのか?』のイラストの作成にご協力いただいています。
http://ikuko.sakamoto.mobi