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今なぜ木造?木促法と中高層建築物への挑戦|シリーズ第6回

2022-11-18
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©SAKAMOTO IKUKO


◆第六世代(2010年代)
 シリーズ第6回となる今回は前回の第五世代(2000年代)に引き続き、下表の第六世代(2010年代)について振り返っていきたいと思います。


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 第六世代(2010年代)の木造に係る大きなトピックスと言えば、やはり2010年制定の「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」ではないでしょうか?通称「木促法」と言われ、国が基本方針を定め、国や地方自治体は自ら整備する低層の公共建築物を原則としてすべて木造にすることを目指した法律です。では、実際に木促法が制定されてからどれだけ木造化が進んだのかと言いますと、林野庁によると公共建築物の床面積ベースの木造率は、法制定時の8.3%から令和2年度には、13.9%に、特に低層公共建築では、17.9%から29.7%に上昇しました。このように、公共建築物では一定の成果を出す一方で、民間建築物については、木造率の高い低層の住宅以外にも木材の利用の動きが広がりつつあるものの、非住宅分野や中高層建築物の木造率は低位にとどまっていました。こうしたことを背景として、第204回通常国会において「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律の一部を改正する法律」が成立し、令和3年10月1日に施行されました。これにより、法律名が「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」に変わるとともに法の対象が低層公共建築物から建築物一般に拡大しました。とても1回では覚えきれない長さの法律名のため、通称「改正木促法」なんて呼ばれています。

 改正木促法では、農林水産省に木材利用促進本部も設置され、この本部の下、政府一体となり、地方公共団体や関係団体等と連携して取り組みを進めようとするなど、国を挙げて木造建築を推進していこうという決意が感じられます。実際にこれに応えるかのように民間の木造建築を街中で見かける機会も増え、木造建築がより身近に感じられるようになってきたのではないかと思います。
(弊社のこれまでの木造施工実績はこちら → 前田建設の木で建ててみた建築作品集


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 一方、建築材料の分野に目を向けると、この年代を代表する木質系材料といえばCLTが挙げられると思います。CLTとはCross Laminated Timberの略称で、ひき板(ラミナ)を並べた後、繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料で、直交集成板と呼ばれます。厚みのある大きな板であり、建築の構造材の他、土木用材、家具などにも使用されています。古くは1995年頃からオーストリアを中心として発展し、現在では、イギリスやスイス、イタリアなどヨーロッパ各国でも様々な建築物に利用されています。また、カナダやアメリカ、オーストラリアでもCLTを使った高層建築が建てられるなど、CLTの利用は近年になり各国で急速な伸びを見せています。特に、木材特有の断熱性と壁式構造の特性を活かして戸建て住宅の他、中層建築物の共同住宅、高齢者福祉施設の居住部分、ホテルの客室などにも用いられています。日本では2013年に製造規格となるJAS(日本農林規格)が制定され、2016年にCLT関連の建築基準法告示が複数、公布・施行されたことにより、CLTの一般利用がスタートしました。
(集成材、LVL、CLTなどの過去記事はこちら → 木の特性を建築に活かすには。主要な木材の種類と特徴まとめ

 また、2000年に改正建築基準法が施行され、性能規定化がなされたことを受け、企業や機関等により1時間耐火構造の木質構造部材の開発が進みましたが、1時間耐火の木造の場合、建築基準法上では4階建てまでしか建てることができません。そこで、2013年に国内で初の2時間耐火の木質構造部材が開発され、従来の限界を遥かに超えて最大14階建ての「木造中層ビル」の建築が可能となりました。弊社では鉄骨造と木造のハイブリッド構造を採り入れた国内最高階(2021年6月竣工時)の13階建ての中高層ビルを建設しました。このように2010年代ごろから木造の中高層建築物への挑戦が始まっていきます。
(性能規定についての過去記事はこちら → 第6回「仕様規定と性能規定って何?」| 建築基準法再発見!
(弊社施工のオフィスビルの過去記事はこちら↓
  ①13階建て鉄骨造・木造ハイブリッド高層オフィスビル計画
  ②木鋼組子®を初採用 COERU SHIBUYAが竣工

8c59abd16dd04934ca5ee86286c6c1622619a50b-thumb-800x449-583.png  前回記事でもご紹介したSDGsですが、これは2015年の国連サミットで加盟国の全会一致で決まった、2030年までに持続可能でより良い世界を目指すための開発目標です。ではSDGsと木造建築には具体的にどんな関係性があるのでしょうか?例えば林野庁は「中高層建築の木造化・木質化」は以下の目標と関連しているとしています。

 ■「中高層建築の木造化・木質化」と関連するSDGsの目標の例
  ①SDGs7. エネルギーをみんなに。そしてクリーンに
  ②SDGs9. 産業と技術革新の基盤をつくろう
  ③SDGs13. 気候変動に具体的な対策を

①と③は具体的には「木材は製造時のCO2排出量が少なく、木材自体が炭素を蓄えるため、木造建築は地球温暖化防止に役立つ」ということです。また、②は「耐火部材やCLT等の技術開発」が該当します。

 時を同じくして2015年にパリで開催された温室効果ガス削減に関する国際的取り決めを話し合う「国連気候変動枠組条約締約国会議(通称COP)」で採択されたパリ協定は2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組みで「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」とされました。これは2021年COP26のグラスゴー気候合意で挙げられた注目すべき内容で上記の①、③にも関係する内容であり、もはや木造建築と地球温暖化問題を切り離して考えることはできないほど密接な関係となっていきます。

ついに次回でシリーズ最終回となります。最終回に臨む前に復習も兼ねて是非以下の本シリーズ過去記事もご覧ください。次回は第七世代(2020年代)を見ていきたいと思います。


■イラスト協力
さかもといくこ

絵本作家・イラストレーター・看護師
青森県八戸市生まれ。絵本創作を中心に、イラスト、アクセサリー制作も行っている。
代表作品に、「タベールだんしゃく」シリーズ4作品(ひさかたチャイルド、チャイルド本社)がある。
弊社のサイトに込めた想いにご賛同いただき、今回のシリーズ『今なぜ木造建築なのか?』のイラストの作成にご協力いただいています。
http://ikuko.sakamoto.mobi