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今なぜ木造?問いの答えと新たな問い|シリーズ第7回(最終回)

2023-04-19
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©SAKAMOTO IKUKO


◆第七世代(2020年代)
 シリーズ第7回となる今回は下表の第七世代(2020年代)に該当し、我々が生きるまさに現代です。これまでの世代とのつながりを振り返りながら、木造建築の今と未来を一緒に考えていきましょう。


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 我が国は、国土の約3分の2を森林が占める世界有数の森林国で、森林の蓄積量は平成24年(2012年)3月末時点で約49億m3となり、このうち人工林が約30億m3と約6割を占めています。森林全体の蓄積量はこの半世紀で約2.6倍になっており、特に人工林では約5.4倍にも達していています。2020年時点には、10齢級以上の主伐期を迎える人工林は約7割と見込まれるなど、森林資源は戦後植林の利用期を迎えています。

 上記のような利用期を迎えた木材のつかいみちとして、我々のような建設業界でまず考えられるのが、建築物への利用です。第一世代の「木造禁止決議」が嘘であったかのように約50年後の第六世代では「木促法」が施行されるなど、木造を取り巻く環境の変化により当時とは180度違った「木造推進」の環境が整い、その勢いそのままに2015年~2019年には建築基準法が改正され、木造建築の防火規制が大きく緩和されました。
(防火規制の緩和の過去記事はこちら→ 建築基準法改正を(辛口で甘めに)斬る!シリーズ
これらの改正に伴い、それを実現するための耐火性能を持った木材の開発が建設・建築業界内で競うように行われたり、驚くことに地上40m超え、10階超えの純木造中高層建築物が建設されたりするなど木造建築は新たな挑戦の段階に入っていると感じています。弊社でも鉄骨造と木造のハイブリッド構造を採り入れた国内最高階(2021年6月竣工時)の13階建ての中高層ビルを建設しました。
(弊社施工のオフィスビルの過去記事はこちら↓
  ①13階建て鉄骨造・木造ハイブリッド高層オフィスビル計画
  ②木鋼組子®を初採用 COERU SHIBUYAが竣工

 また、2018年に公表されたIPCC※による「1.5℃特別報告書」では、世界全体の平均気温の上昇を、2℃を 十分下回り、1.5℃の水準に抑えるためには、2050年までにCO2排出量を正味ゼロとすることが必要とされました。この報告書を受け、世界各国で2050年までのカーボンニュートラルを目標として掲げる動きが広がり、我が国では2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」(2050 年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする)を宣言しました。2060年、2070年を目標とする国々もありますが、日本を含む144か国は2050年という一番短い期間を選択しており、問題意識の高さが伺えます。
 その後、2021年6月に開催された「主要7ヶ国首脳会議(G7サミット)」、および11月に開催された「第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)」では、グラスゴー気候合意にて「1.5℃に抑える目標」が明記され、地球温暖化防止に向けた世界的な取り組みは今後も着実に進んで行くものと思われます。


 「今から50年後に木造建築が果たす役割は、どう変化しているでしょうか?」

 さて、皆さん、「今なぜ木造建築なのか?」についてシリーズ全7回を通して、各世代のキーワードを元に振り返ってきましたが、答えは見つかったでしょうか?その人の置かれている環境によって「地球温暖化対策としてCO2を固定するための木造建築」、「利用期を迎えている戦後植林樹木の消費策としての木造建築」、「投資側面としての木造建築」、「ストレス社会にウェルネスな環境を提供する木造建築」など様々だと思いますが、どれも正解だと思います。おそらく答えは一つではなく、世界的、又は個人的など、大小さまざまな問題解決策の一つとして木造建築が存在し、今の時代に必要とされたのだと思います。木造建築は一過性のブームとされた時代もありましたが、今日では我々の暮らしに違和感なく馴染み、今後ますます、社会に必要とされていくことでしょう。
 最後に皆さんにもう1つの問いを投げかけて、本シリーズを完結したいと思います。

 「今から50年後に木造建築が果たす役割は、どう変化しているでしょうか?」

シリーズ全7回をお読みいただき、誠にありがとうございました。


※:IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)
 日本語では「気候変動に関する政府間パネル」と呼ばれます。1988年に世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)によって設立された政府間組織で、2022年3月時点における参加国と地域は195に及びます。


■イラスト協力
さかもといくこ

絵本作家・イラストレーター・看護師
青森県八戸市生まれ。絵本創作を中心に、イラスト、アクセサリー制作も行っている。
代表作品に、「タベールだんしゃく」シリーズ4作品(ひさかたチャイルド、チャイルド本社)がある。
弊社のサイトに込めた想いにご賛同いただき、今回のシリーズ『今なぜ木造建築なのか?』のイラストの作成にご協力いただいています。
http://ikuko.sakamoto.mobi