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生物多様性/遺伝子の多様性 ~私たちにできること~

2023-05-22

プロローグ

「自然の恵みに感謝せなあかんで」。たてきくんにおばあちゃんはいつも言う。そして「感謝が足らんかったらしっぺ返しが来るで」とも。
まだ小学校2年生のたてきくんにはちょっと難しいからあんまり気にしていなかった。でも、おばあちゃんとの日々はたてきくんにいろんなことを投げかけてくれることになる。




お母さんに頼まれたたてきくんとおばあちゃんは、商店街の八百屋さんにむかった。



たてき

いろんなきゅうりがあるんだね。まっすぐできれいに揃っているのや、大きさも曲がり方もいろいろなのとか。

大将

お、たてきくん、今日はおばあちゃんと買い物か?感心やなあ。そうやで、どっちかだけを置いてる店も多いけど、うちは両方置いてるんや。お客さんにもいろんな好みがあるからな。

おばあちゃん

今日のうちの好みは・・・、F1種を3本と固定種を10本かな。それちょうだい。

大将

まいど。

たてき

え?F1種って何?めっちゃ早く走るきゅうり?それに、固定種って何?

おばあちゃん

F1種はまっすぐでおんなじ大きさの方。固定種はいろんな形の方。

たてき

どーゆーこと??

謎の男

遺伝子の多様性をうまく生かしていて、種のつくり方が違うんだよ、ぼうや。

おばあちゃん

おっちゃんどなた?でも、このおっちゃんの言う通りや。

たてき

イデンシ・・・? タヨウセイって何?

おばあちゃん

遺伝子は、生き物のからだの設計図みたいなものやな。めちゃくちゃ小さいから目には見えへんけど、親から受け継いだ特徴なんかの情報が、しっかりはいってるからすごい大事なんやで。たてきの目のかたち、お母さんそっくりやろ。それは遺伝子のおかげやねん。それと多様性はいろいろあること。たてきのクラスのお友達はみんな性格も好きなモンもバラバラやろ?

大将

F1種はまっすぐで大きさが揃ってたり病気に強かったりといった特徴を引き継いだモンが多い。そのほうが扱いやすいこともあるからな。固定種は見た目はいろいろやけどその分、味や形が個性的なものが多くて楽しめるんや。どっちにしてもどうやったらおいしいものをみんなに食べてもらえるか農家の人たちが知恵を絞って、遺伝子の多様性を活かしながら、自然と協力してつくってるのがここに売ってる野菜たちなんや。せやから、野菜はまさに自然の恵みっちゅうことやな。

謎の男

時にぼうや、遺伝子が多様じゃないとどうなると思う?

たてき

みんなおんなじ味?

おばあちゃん

そうやな。いいとこついてる。おんなじ味やろうし、なんか病気が出たりしたらおんなじ病気に弱いから全滅してしまうんや。困るやろ。ほんだら、それが人間やったらどうなると思う?

たてき

え?どうなるの?

おばあちゃん

クラスのみんなおんなじ顔やし、おんなじ身長やし、おんなじ性格になってしまうやろな。

たてき

えー!こわいよー!



キャラクター紹介

たてきくん

小学校2年生の男の子。最近他県からおばあちゃんの家の近くに引っ越してきた。

おばあちゃん

生まれも育ちも大阪の還暦を迎えた、たてきくんのおばあちゃん。「しっぺ返しくんで」が口癖。

謎の男

どこからともなく現れてキーワードをつぶやく謎の男。

八百屋の大将

帽子はオリジナル。代々続く八百屋の3代目。


―用語解説―

遺伝子の多様性:
生物多様性は生物多様性基本法では「様々な生態系が存在すること並びに生物の種間及び種内に様々な差異が存在すること」と定義されています。つまり大きく分けて「遺伝子の多様性」、「種の多様性」、そして「生態系の多様性」の3つで構成されています。今回、たてきくんは「遺伝子の多様性」が失われるとなんか怖いことになってしまうことを少しだけですが感じたようです。

資源供給サービス:
生物が多様だからこそ育まれる自然の恵みの一つ。ここで登場したキュウリなどの野菜をはじめ、木で建ててみようで毎度おなじみの木材や、植物から作った布、お米などもみんな自然から供給される恵みです。ほかには、マジックテープや細い注射針のアイデアのように生物の生態から得られるヒントなども供給サービスのひとつで、生物模倣(バイオミミクリー)と呼ばれたりします。例えばこれがなくなったら・・・と思うと自然からのしっぺ返し、かなり怖いですよね。他にも自然の恵みがいろいろあるので順次、紹介していきます。

国際生物多様性の日:
生物多様性が国際的に共通認識となったのが、生物多様性条約交渉会議にて条約の本文が採択された1992年5月22日といわれており、この日を記念して5月22日は国際生物多様性の日とされています。

知らず知らずのうちに失われつつある生物多様性ですが、気候変動やカーボンニュートラルに追いつくように、最近この言葉も耳にするようになってきたのではないでしょうか。生物多様性は私たちの暮らしに、そして「木で建ててみよう」にも深く結びついているのです。この一年間、たてきくんとおばあちゃんと一緒に「自然の恵みへの感謝」を改めて考え、「しっぺ返し」について思いをめぐらせてみませんか。次回は、たてきくんとおばあちゃんが虫を探しに行くお話です。お楽しみに。


■参考URL
環境省ー生きものの進化と生物多様性 -種の多様性・遺伝子の多様性ー

■イラスト協力


座二郎(ざじろう)

座二郎(ざじろう)

1974年 東京都生まれ
2000年 早稲田大学理工学研究科建築学専攻修士課程修了
2000年~21年 前田建設設計部。通勤電車の中で漫画を描き始める。
2021年 独立。描く建築家。

https://zajirogh.wixsite.com/zajirogh