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生物多様性/生態系の多様性 ~私たちにできること~

2023-09-19

すすきが風に揺れて、秋の虫の気持ちよさそうな声が聞こえてきます。そして空にはきれいな月が。そう、今日は中秋の名月。たてきくんは、気になっていたことをおばあちゃんに聞いてみました。



たてき

おばあちゃん、お月さまって毎日違う形になって楽しそうだよね。僕あそこに住んでみたいけどできるかなあ?

おばあちゃん

そうやなあ、月には酸素がないから難しいかなあ。それにほんまはずっとまんまるなんやで、いろんな形に見えるけど。

たてき

あ、そうなんだ、なーんだ。酸素って?

おばあちゃん

たてきもおばあちゃんもほかの人も、みんな空気吸って息してるやろ。それは人が生きるためには空気の中の酸素っていうのが必要やからやねん。でも月にはないんや。

たてき

なんで月にはそれがないの?

おばあちゃん

酸素は植物がはきだすんやけど、月にはその植物がないから酸素はできひんのや。

たてき

そっかー、植物ってなんかすごいんだね。

おばあちゃん

せやで、植物がくれる自然の恵みはほんまにすごいんやで。


たてき

これはなに?おいも?これも植物だよね。あ、てことは自然の恵みだ!

おばあちゃん

そうその通り!これはきぬかつぎっていうお料理。ほらこのお芋の皮をつるっとむくと、白くてまんまるのがでてくるやろ。たべてごらん。

たてき

うわっ!つるってきれいにむけた!なんかおつきさまみたいだね。トロっとしてておいしい!

おばあちゃん

おいしいやろ、こうやってお芋やお米なんかができたことを感謝して、きぬかつぎとかお米の粉でつくった月見団子とかをお月さまにお供えしてみんなの健康や幸せを願うんや。お月見はいろんな自然の恵みへの感謝の行事なんやで。

たてき

おばあちゃん、でも皮は食べられないよね?捨てちゃう?

おばあちゃん

いや、たてきは食べられへんけど、その皮のことが好きな生き物もおるんやで。その生き物が入ってるから皮はあの袋に入れてきてくれるか?

たてき

え!生き物が入ってる袋なの?いつもおばあちゃん、なんか入れてかき混ぜてるよね?

おばあちゃん

この中には土とか、いろんな目に見えへん微生物が入ってるねん。自然のチカラとおばあちゃんが協力してこやし、つまり肥料をつくるための袋なんや。食べ物の皮とかを入れると、それを大好きな微生物が小さく小さく砕いてくれて、何日か置いとくとこの袋の中の土が栄養たっぷりの土になるっていう魔法の袋なんやで。

たてき

微生物ってすごいんだね。目に見えないぐらい小さいのにこの皮を砕いてくれるんだね。この栄養たっぷりの土はどうするの?

おばあちゃん

こないだ畑にいったやろ?あそこにまいて、またそこで種を植えるんや。そしたらまたおいしい野菜がとれるんやで。うまいことできてるやろ。

たてき

なんかぐるぐるまわってるみたいでおもしろいね。ぼくはおいしいお芋さんを食べて、微生物さんは大好きなお芋の皮を食べて、野菜は栄養たっぷりの土と太陽の光で元気に育って、また僕はおいしい野菜が食べられる。これは、誰が何を好きかわかりやすいね。

おばあちゃん

せやな。そのぐるぐる回ってる関わり合いを生態系っていうんや。生き物の種類が多ければそのぐるぐるはいっぱいできて自然の恵みも増えるんやで。

たてき

こないだの川原みたいだね。じゃあ、おばあちゃんも僕も生態系の一部なんだね。



キャラクター紹介

たてきくん

小学校2年生の男の子。最近他県からおばあちゃんの家の近くに引っ越してきた。

おばあちゃん

生まれも育ちも大阪の還暦を迎えた、たてきくんのおばあちゃん。「しっぺ返しくんで」が口癖。


―用語解説―

生態系の多様性:
今回たてきくんが話していたぐるぐる回ってる関わり合いを「生態系」といいます。種の多様性が豊かな場所では、それぞれの関係性も複雑になりこの生態系も多様になって、それによってそこで生まれる自然の恵みも豊かになります。たてきくんとおばあちゃんが生態系の一部となっている魔法の袋は生ごみを堆肥化する入れ物で一般にコンポストとよばれるものです。ちなみにコンポスト(compost)は英語ではそのものずばり「堆肥(肥料)」をあらわします。このように私たちの生活の中の生態系には人間も関わっているものも多く見られます。逆を言うと、人間が突然その関わりをやめてしまうと生態系の循環が壊れてしまい、その場所が荒れ果ててしまいます。さらにはほかの生態系にも影響を与えてしまうこともあるので注意が必要です。

基盤サービス:
風に揺れるすすきと美しい満月を見ながらのお月見は、前回ご紹介した「文化的サービス」の一つ。四季がゆるやかに移り変わる日本では古来、このように自然と生活が結びついているものが多くありますね。そして今回、たてきくんが月に住めない理由をおばあちゃんに教えてもらったように、月には酸素がありません。地球には植物があるから酸素がつくられるのですが、この酸素のように生き物が暮らしていくために欠かせないような自然の恵みを「基盤サービス」と呼んでいます。また土の中の微生物が落ち葉や生き物の死骸を分解して豊かな土壌を作ってくれることも「基盤サービス」の一つです。目には見えないものが多いのですが、例えばこれらがなかったらと想像してみると、その重要性を改めて感じてもらえるのではないでしょうか。私たちの生活はこのような自然の恵みに支えられていることを感謝したいですね。

TNFD:
生物多様性の保護が重要視される背景として、近年の生物種の減少が大きく影響していることがあげられます。これまでのたてきくんのお話でもおわかりいただけるように、私たちの生活を続けていくために、つまり持続可能な社会を存続させるために、自然の恵みは不可欠です。そのため、企業活動において、現在すでに一般的になりつつあるTCFD(Taskforce on Climate-related Financial Disclosures/気候関連財務情報開示タスクフォース)の情報開示と同じように、企業の自然資本(生物多様性)に関する情報開示も重要視されるようになってきています。そしてその情報開示のための枠組みやそれを構築するための組織がTNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)、日本語では「自然関連財務情報開示タスクフォース」と呼ばれるものです。そして、2023年9月にはこのTNFDの最終提言が発表される予定ですので注目していきたいと思います。

今回、おばあちゃんが教えてくれた酸素や微生物による分解といった自然の力による基盤サービスは当たり前に私たちの暮す環境にあるため、普段その恵みに感謝することを忘れがちです。しかし、少し考えてみるとそれを失った時のしっぺ返しがあまりにも大きいと気づいていただけると思います。皆さんもおばあちゃんのコンポストのように「いまわたしたちにできること」について、思いをめぐらせてみて下さい。次回は、たてきくんが待ちに待った遠足のお話です。どうぞお楽しみに。


■参考URL
環境省ー生きものの進化と生物多様性 -生態系の多様性ー
環境省ー生物多様性のために私たちができること

■イラスト協力


座二郎(ざじろう)

座二郎(ざじろう)

1974年 東京都生まれ
2000年 早稲田大学理工学研究科建築学専攻修士課程修了
2000年~21年 前田建設設計部。通勤電車の中で漫画を描き始める。
2021年 独立。描く建築家。

https://zajirogh.wixsite.com/zajirogh