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豊かな森が豊かな海をつくる。山と海の関係

2018-08-31

風が吹けば桶屋が儲かる、ということわざがあります。
一見関係がないように見える物事が、実は因果関係でつながっているということを表す言葉です。

現代を生きる私たちには「桶屋」、には馴染みはありませんが、世の中が無数の因果関係でできていることはイメージできます。
誰しもが身の回りの何気ない出来事同士のつながりを、想像してみた経験があるのではないでしょうか。ほとんどの因果関係は、確かに存在しているとしても予測不可能で、後から示すことも難しいものです。それほどまでに世界は複雑だということかもしれません。

私たちが暮らす地球の生態系も、これと似たような性質を持っています。小さなつながりや因果関係の集まり。複雑で予測不可能、すべてが絡み合うように結び付いています。

今回は森と海をつなげている、生態系についてご紹介します。


森と海のつながり

魚つき林

「魚つき林」という言葉をご存知でしょうか。
昔から漁業を営む地域では沿岸部の森林を保護する習慣のある所が多く、それらの森林が魚つき林と呼ばれていたそうです。生態系という概念が生まれるはるか昔から、森と海のつながりは経験的に理解されていました。今では沿岸部の森林だけでなく、海から距離のある川の上流の森林生態系と海の生態系がつながっていることも明らかになりつつあります。
海と山は、川によってつながっているのです。


海には栄養が不足しています。物質循環のほとんどが地表で完結する陸上に比べ、海では海面から深海まで物質循環に鉛直的な広がりがあります。海の食物連鎖の起点となる植物プランクトンの活動は太陽光の届く海面付近でしか行われず、わずかな有機物はどんどん深海に沈んでしまいます。有機物が分解されてできる窒素やリンなどの栄養塩類が、植物プランクトンの光合成には不可欠ですが、光は海面だけに、栄養分は深海に偏っている状態なのです。有機物が生産されにくく、利用されづらいのが海の環境の特徴といえます。

地上はそうではありません。植物を起点にして作り出された有機物が地表に蓄積し、土壌となります。土壌中の有機物は微生物によって少しずつ分解され栄養分となり、また植物によって利用されます。その一部は川に溶け出し、海へと運ばれます。河口域や沿岸の生物の多くが、この川からの養分供給に頼って生きています。川から運ばれてきた栄養分を使って植物プランクトンが光合成をして増殖、それを動物プランクトンが食べて、それを魚が食べて・・・というサイクルが回るのです。海の中でも川からの栄養分供給が豊富な沿岸部は、特に生産性が高い、つまり生き物が多いエリアです。

林業と漁業のつながり

私たちが利用する漁業資源も、実はその多くが沿岸漁業によるものです。アジ、サバ、イワシ、タイ、スズキ、ヒラメ・・・これら私たちの食卓に並んでいる魚の多くが沿岸に棲み、川からの栄養分供給に支えられていると言えます。
大幅に減ったという研究結果があります。もちろん過剰に汚水を流すことは海洋汚染につながりますが、人の活動によって生まれた有機物も生態系の中で重要な役割を果たしているのです。


具体的に山や林業のどのような要素が、下流や海に供給される栄養分に影響するのでしょうか。

例えば天然林と人工林。天然林に多い広葉樹には落葉樹が多く、葉も分解されやすいとされています。また様々な樹種が入り乱れる天然林は、それだけ豊かな土壌を持ち多様な栄養分を川へと安定的に供給できます。同じ人工林でも間伐・植え替え・伐採など適切に管理が行われれば、木がちょうどよい密度で健康に育ち天然のダムの役割を果たすことができます。逆に管理が行われず痩せた木が増えると、木が十分に地中深くまで根を張れず、土砂崩れが起こりやすくなります。近年では多くの川の上流部で、過剰な土砂の流出を防ぐため砂防ダムが設置されています。砂防ダムは防災上なくてはならないものですが、物質循環の観点からみると、下流への有機物供給を妨げるという側面があります。砂や土が下流に流れないことで、沿岸部の砂浜や河口の干潟が減少してしまうという問題もあります。


現在日本の森林の約40%が人工林と言われています。さらに木材自給率が低下し林業の活気がなくなったことで、管理されず放置される人工林が増えています。整備されない人工林が増えることが、沿岸海域の豊かさに少なからぬ影響を与えていると言えるのではないでしょうか。私たちが木材を利用するために植えてきた人工林。土砂崩れを防ぐため、豊かな森林を維持するためだけでなく、日本の豊かな沿岸漁業資源を将来にわたって利用し続けるためにも、森林の維持管理に目を向けることが大切です。

海と山の生態系の豊かさとSDGs

国連で採択された、SDGs「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」にも、「海の豊かさを守ろう」「陸の豊かさも守ろう」という項目が入っています。SDGsは2015年9月の国連サミットで採択され、国連加盟193か国が2016年~2030年の15年間で達成するために掲げた目標です。海や山の豊かさを維持し続けることは、日本だけでなく国際的にも課題として認識されているのです。


実際に日本産木材を使ったら、日本の海が豊かになるのか。実は、最終的には誰にもわかりません。私たちは、「木で建てる」ということは、ただ木を材料に建築することではなく、それを取り巻く社会や生態系への影響の広がりを見据えた営みであると捉えています。木で建てることで私たちと生態系、環境との関係をより良いものにできると信じ、それを続けていきます。