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木と企業がともに生きる未来を描く。ヤマハと前田建設のCSR

2019-05-17

近年注目されているCSRやCSVといった企業活動をご存知でしょうか。CSRは「企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility)」の略語で、「利益を追求するだけでなく、企業が社会に与える影響に責任を持ち、あらゆる関係者のニーズに対して適切な行動を取るべきである」という考え方です。一方CSV(Creating Shared Value)は、CSRを発展させた概念で、「企業の強みを活かし、社会的な課題を解決することが社会と企業の持続的な発展へつながる」という経営戦略です。

前田建設では経営戦略として「CSV経営No.1」を掲げ、人類の生命活動の基盤である「地球」から、「自社や協力会社の社員」まで当社に関わる全てのステークホルダーの満足度が向上するような企業活動を目指しています。
https://www.maeda.co.jp/csr/report/pdf/2016/2016_report_1-10.pdf

今回、木で建ててみよう編集チームは、ヤマハ株式会社のCSRについて取材。ヤマハ株式会社と前田建設の両社は、事業内容は全く異なるものですが、「木を育てる」という点で共通したCSR活動を行っています。前田建設CSR・環境部の渡辺さんが、北海道とタンザニアで楽器の材料となる木を育てる活動を進めているヤマハ株式会社 楽器・音響生産本部 調達技術部の高田さんにお話を伺いました。

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高田 素樹(たかた もとき)さん
東京大学 農学部卒。2002年ヤマハ株式会社入社。入社後は木材乾燥技術・改質技術の開発に携わり、木材改質技術A.R.E.®(Acoustic Resonance Enhancement)の開発に携わった。
2011年―2017年 ヤマハグループ会社である北見木材赴任時に、道・町の行政と「ピアノの森の設置に関する協定書」締結に尽力した。

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渡辺 千尋(わたなべ ちひろ)さん
大阪樟蔭女子大学 学芸学部英米文学科卒。1996年前田建設工業株式会社入社。秘書業務を経験したのち基幹職へ。建築営業部(不動産担当)を経て、2011年よりCSR・環境部。
CSR報告書制作に関する全般の業務のほか、CSR・コンプライアンス関係の研修等に携わる。CSR女子会「CSR48」メンバー。ヤマハピアノ演奏および指導グレード5級保有。

ヤマハのCSR

「北海道でピアノの材料、アカエゾマツを育てる」

「北海道でピアノの材料、アカエゾマツを育てる」

渡辺:北海道とタンザニアで、森を育てる活動をされていると伺いました。北海道での活動について具体的に教えていただけますか。

高田:アカエゾマツという木をピアノの響板に使っていますが、その中でも振動特性の良い・音響特性の良い材料というものがあります。エゾマツは北海道の木と言われるくらい北海道を代表する木で、昔は何百年も育ってきた天然林がたくさんあったのでピアノに使ってきました。かつては北海道のアカエゾマツを切ってヤマハに送り、浜松の近郊にある工場で丸太からピアノの響板や鍵盤など基材に加工していたんです。

「北海道でピアノの材料、アカエゾマツを育てる」

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高田:ところが、木造住宅を中心に道内の資源が使われていった結果、道内の天然林の中でピアノの響板に使えるアカエゾマツがほとんど無くなってしまいました。そのため、ピアノの上級モデルにのみ、天然林を細々と使っているという状況が続きました。

そんな中、人の手をかけた人工林は北海道行政が色々試みてきた実績があると知り、我々としては人工林でも楽器に使える木があるのではないかと考えました。

北海道のアカエゾマツは60年という標準伐期だとまだ若く、切った時に反り返ったりねじれたりといった特性があるので付加価値が出せない。そうなるとアカエゾマツを施業しようという意欲が起きにくくなりますが、天然林がない以上、施業を進めていかないと価値のあるアカエゾマツの林というのは出てこない。

そんな時、北海道の行政の方から今の人工林のアカエゾマツをピアノの材料に使えないでしょうかという依頼がありました。それで行政と協力して、北海道内の人工林を視察に回り出したのが2012年です。

「北海道でピアノの材料、アカエゾマツを育てる」

渡辺:比較的最近の話なんですね。

高田:そうですね。私は2011年から北見木材株式会社というピアノの響板などを作っているヤマハの子会社に出向していたという縁もあり、一緒に回るようになりました。本当に人工林は楽器に使えないのかと色々調査しました。そして、そこに植えられている一番古い100年くらいの人工アカエゾマツ5本ほどを北海道にある試験場で、実際にピアノの響板が作れないかという実験をしたんです。そうしたら、これがダメなら他もダメでしょうという一番古い材料から作られた響板でも、アップライトピアノには使えるけれどもグランドピアノとしてはまだ早い、という結果になってしまって。

渡辺:100年ものの木材でもグランドピアノにはまだ早いということでしょうか。

高田:まだ早いです。人工林の施業というのは枝がいっぱい生えますが、アカエゾマツはバンバン成長して光が入らなくなってもなかなか自然に枝落ちしません。人が余計な枝を落としてあげないといけないんです。枝を落とさないと、いつまで経っても楽器に使える材料が取れない。

しかし、試験製材したことで、枝打ちをしていた部分がもう少し育てばグランドピアノに使えるという知見が得られました。枝打ちという作業の大切さは試験製材を通じて実感できましたし、今ある人工林がどのくらいで楽器に使えるようになるかも判断できるようになりました。

渡辺:具体的にはどれほどの時間が必要だと感じましたか。

高田:ピアノを取れる材料になるために必要な幅というのがあります。グランドピアノになるのはあと30年間、3センチくらい育ってくれれば使えるだろうという結論になりました。それが3年前の2015年くらい。その場では残念だけど......で終わりました。

その時は我々もがっくりきましたが、北見木材、オホーツクの管轄しているところ、そして北見木材株式会社が管轄している遠軽町(町行政)の3者で、将来数十年先にピアノの響板が取れるような森づくりをしていきましょうという協定を結ぶことになりました。それが2016年の3月です。

そこから私が 2017 年にヤマハに戻ってきて、北見木材だけではなくヤマハでもっと活動できないかと、まだ実行には至っていないのですが企画検討している段階です。

渡辺:地元の企業さんや地元で事業をやっている方とヤマハさんと地元の行政とで話を進められていくパターンがメインなんですか?

「北海道でピアノの材料、アカエゾマツを育てる」

高田:特にそこは意識しているわけではありません。ただ、地域の人々と行政、企業が一緒に協力していくというのが、一番理想的な形かなと考えています。タンザニアにおいても同じですね。

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「北海道でピアノの材料、アカエゾマツを育てる」

渡辺:ここをもっとお互い理解し合えれば進むのになど北海道で持続的なアカエゾマツの森林づくりを進めてきてご苦労なさった点はありますか。

高田:たとえば協力して今まで何をやってきたかというと、木育(もくいく)という木を育てる育樹イベントのみで、ただそれをやって終わるという状況になってしまいがちでした。お互いにどうやって盛り上げていけるのか、そこに関する知見がなかったんですね。

ただ「ヤマハ」という名前が出てくると、行政の方も「音楽」というイメージがありますし、我々も音楽の仕事をしている訳ですから、森で何かやりたい、となるとやはり音楽に結び付けたい。みんな漠然とした何かは何となくあるんですが、それを具体化出来ていないのが問題かなと捉えています。お互いの協定関係者の中で何かやるにあたって、何をやろうという「生みの苦しみ」が一番大変なところです。

渡辺:弊社でもゆかりのある長野・福井・熊本の全国三か所で、「MAEDAの森」という育樹イベントを行っています。2010年からスタートしたのでまだ8年ほどですが、我々も社員とその家族の環境意識を高めたいと考えています。しかし森を作るのはすごく時間が掛かります。ましてや、森林環境保全や地域への還元も含めた森林の価値を目に見える形で伝えることも難しい。ですので今は森林の持つCO2の吸着力向上といった環境の取り組みを重要視した参加者の意識づくりに力点を置いています。

課題としては、どこまでの範囲の方を巻き込むかということです。我々も今のところ社員と家族だけに留まってしまっていて、もっと地元の林業家の方やNPOの方とやりたいと思ってはいるものの、他の方にこの活動をどう知っていただくか、何を訴えどう巻き込んでいくかという点が難しい。そこについては苦戦していますね。

「北海道でピアノの材料、アカエゾマツを育てる」

高田:我々としても北海道の遠軽町の地域住民の方たちを巻き込んでいきたいと考えていますが、地元の人にとって山はあって当たり前。だから、そこにどうやって価値を感じてもらえるかということが重要です。

ヤマハは元々森作りの会社ではなく使う側です。森を作る方は専門の道の人たちがいます。ヤマハは森を使わせていただきますが、森を作っている方々と共に活動し、どうやって新たな価値を生み出していくか、活動を継続していくために専門の立場とは違った視点でアイデアを見出していければなと。そこが一番苦しんでいるところですね。

「北海道でピアノの材料、アカエゾマツを育てる」

社内での認知の広げ方、社外の巻き込み方

「知って、そして参加してほしい」

渡辺:元々MAEDAの森も2009年に当時の社長、現相談役が「環境経営No. 1と言われる建設会社をめざす」と経営方針を打ち出したのがきっかけです。それを具体化するために、会社として事業として環境活動を行うことはもちろん、日常生活から環境問題に取り組んでいかなければ新しい発想は生まれないだろうという声がありました。

「知って、そして参加してほしい」

渡辺:実際に森林保全、育樹をやってみて「森を作るのは時間が掛かるものなんだね」という意識が社員の中でも芽生えてきました。裏山や近所の雑木林は日頃何となくみていたけれど、あれですら30~35年経っているんだねということが感覚的に分かるようになりました。

実際自分で枝打ちしてみて、このくらいの太さの木なら手のこでも充分切れるということを体感します。そういったことを肌で理解することで、自分が知らなかった楽しさ、山の面白さを、理解してくれる社員が増えてきたということは弊社としても嬉しく思っています。

高田:この8年くらいの間に社内の認知は相当広まったんですね。ぜひ参考にさせてもらいたいです。

渡辺:前田建設社員の中で「MAEDAの森」を聞いたことがある人は結構いると思います。
しかし、実際に参加したことがあるかという点が問題で、全国に3か所しかないので参加者の何割かは去年も一昨年も行っている人です。また、森の広さも限られているので、毎年2回も3回も出来るという訳ではないんです。個人的にはもっと活動拠点を増やせたらという思いもありますが。

実は社内への認知という点で言うと、「MAEDAの森」を始めた目的を知っている人はそう多くなく、どう伝えていくべきかは悩んでいるところです。ヤマハさんでは、社内認知のためにどのような工夫をされているのか伺いたいです。

高田:恐らくタンザニアでの活動は社内で認知が広がっていると思います。北海道よりタンザニアの方がインパクトが強いですからね。最近は認知度がかなり上がっているのではないかと思います。

北海道での活動に関してはまだまだで、どうやって社内で認知度を高めていくか、そこは頭をひねっています。そもそも認知を広めるのは何のためかというと、知ってほしいではなく知ってもらった上で一緒に参加してほしいのが一番ですよね。まだ「知ってほしい」の段階を超えられていない。それが十分に実行できた上で、参加したいがどれくらい社内で生まれるかは未知数ですね。

調達側としては、我々は楽器という木材を使った企業だが、「使っている木材はどう生まれて、どうやって加工されて、今の状態になっているのか」というのを知ってほしいという思いがあります。活動自体の認知と参加への興味は次元が違う上、まだそこの前段階といったところです。前田の森同様、難しいなと思っています。

渡辺:タンザニアと北海道の活動にそこまでの差があるんですね。

高田:タンザニアと北海道の件は、NPOや行政と地域の人と取り組んで行っている活動という意味では共通しているところはあるのですが、大きく段階が違います。タンザニアはすでに使っていける森があり、それをどうやって地域に貢献しながら持続的に使っていくか、という段階。

「知って、そして参加してほしい」

高田:持続的なアカエゾマツの森林づくりがその段階に至るためには30年は待たないといけません。気が遠くなりますが、小さなことからコツコツと、という感じです。

渡辺:30年後はまた次の30年という話になりますね。

高田:そうなんです。30年後に循環して使える森が出来ているかどうか。場合によっては30年後に木材を切ってみたら、大きく成長し過ぎてダメということも当然ある。そうは言っても常に30年先という状況は変わりませんし、何も活動せずにそれを使ってしまったら終わりなので、そこを忘れずに継続して木を増やしていくことを目指しています。

企業としてのCSRへの姿勢

「30年先のための森づくり」

渡辺:弊社は木造建築物を建てることで木を使っているのですが、直接MAEDAの森で作っている木を使う訳ではないので、CSV経営を謳っているものの、イメージ的にどうしてもCSR色が抜けません。御社の活動を聞いていると、ピアノに使う木は実業に結びついていて、活動的にCSRなのかなと思いきや、林業を活性化させて自社の発展に繋げていくという観点ではしっかりCSVになっていますよね。

高田:ただ最低でも30年間程、継続して初めて結果がわかる活動ですので、今直ぐに今の人々と価値を共有することが難しいのが悩みですね。

渡辺:例えば北見やその周辺のピアノに使える木を使いつくしてしまう前に、別の場所で育てていく事は出来ないんですか?

高田:アカエゾマツが手に入る北海道は14振興局に分かれていて、北海道内にあるアカエゾマツの1/4近くはここのオホーツクエリアにあります。

「30年先のための森づくり」

30年後まで待てば良いのはオホーツクエリアくらいで、他のエリアでも35年程度の施業された森林はありましたが、それでも最低70年以上は待たないといけないです。

渡辺:30年というと長いと感じますが、この中で一番短いスパンで形になるということなんですね。

高田:まだ人の想像に耐えうる年数のところはここしかありません。もし70年後でないと使えない森林しかありませんというなら、我々もひょっとしたらこの計画を進めていなかったかもしれません。30年先なら自分たちが生きているうちに結果が想像できる。結果といっても入口に過ぎないですけど、それでも自分の人生の中で理想の完成形を把握できることが一番よかったなと思います。まずはここから始めて将来的には道内全域に広げていきたいです。

渡辺:ここをモデルケースとして、他のアカエゾマツがあるところに広げていくということですね。

高田:まずは森づくりだけではなく、森づくりを継続するために何をやるか、というモデルケース作りを考えています。

渡辺:そこの継続が上手くいって、30年後に出されるピアノの背景を考えるとわくわくしますね。

「30年先のための森づくり」

渡辺:調達側からすると、いい木が最近手に入らないということがはっきり分かるんだと思います。そこから遠く離れた人であればあるほど、そうなの?そんなに木が手に入らないの?と意識が離れていくのかなと。

高田:そうなんです。だから、最初に考えなければならないのは、山がそこにあるだけで使える木が沢山あるじゃないかと考える人が多いということです。実際のところ、楽器に使える木材というのはかなり限られています。

楽器に使うとなると、品質的に色々と厳しい条件があり、森があったとしてもそれが楽器に使える森かというと別なので、単なる山ではなく、楽器に使える山づくりをするということをアピールしていきたいです。

山があるにしろ無いにしろ認知さえ広まってしまえば、山が無い地域や離れた地域の方に価値のある山を見つけ出す可能性もあります。ただの山だと「そこにあるじゃん」で終わってしまうので、楽器に必要な山はどういう山なのかというところまで知ってもらわないといけません。アカエゾマツだって普通に生えてはいるが、それだけでは楽器にならない。それこそ100年経ってもならない可能性が高いです。

「30年先のための森づくり」

高田:アカエゾマツはなかなか枝が落ちないので、人の手で落としてやればそこから楽器材としての成長が始まる。落とさなかったら枝が自然に落ちるまで材料には使えません。知らない人にとってはただの山でしかないわけで、その価値をいかにアピールしていくかが本当に難しい。

渡辺:御社にはいろいろな業務に携わっている方がいると思います。社内で30年先のことを今やるのかが理解できないとか、今やる必要があるのか、他に方法はないのか、極端な話、木じゃなくてもいいじゃないかなどの反対の意見は寄せられたことはないのでしょうか。

高田:あまり反対意見は聞いたことがありません。活動自体、まだまだ社内の認知度が低いのかなとは思っています。

もともとCSR活動としてインドネシアでの植林活動や、地元浜松だと松くい虫被害の深刻な遠州灘海岸林に抵抗性クロマツや広葉樹を植えるということを、ヤマハ発動機さんとヤマハの社員や家族などが参加して150人程で2007年から続けています。これらは楽器に使う木を植えるのではなく、地域の生態系に適した樹種を植え、森林再生に貢献する活動です。一方で、楽器に使う木については、まだ自分たちで植えているのはごくごく一部なので、今後注力していきたいと思います。

持続的なアカエゾマツの森林づくりというのは他のCSR活動とは少し違っていて、より具体的にアカエゾマツの30年後、50年後を見据えてやっていきましょうという方向性。協定を結んだ時もヤマハ株式会社というよりも北見木材株式会社とその地域でやっていた活動でしたから、そこにヤマハが入ってどんなサポートができるのかを考えています。

「30年先のための森づくり」

高田:ヤマハ株式会社がやっていますというよりは自然と繋がっていくような活動ができるようにお手伝いして、地元の方々が地域の活性化をしていければいいなと思っています。ヤマハのピアノをアーティストが世界で使って、それが世界中の方々の感動を生む。その素材を作っているのが自分たちなんだと思えるような活動にするためにはどうすればいいかということを考えながら現在プロジェクトを進めています。

結局ヤマハの為だと考えてしまうと地域にとっては押し付けにしかならないし、単発的に利益も出さずに終わってしまうと誰のためにもならない活動になってしまう。そうではなくて自分たちでこういうことをやりたいと、意欲を持って継続的に活動していくのが最終的な理想であって、その結果が我々にも還元されれば、みんながwin-winになれます。そんなモデルケースを示すことができれば一番幸せかなと考えています。

渡辺:たとえば、音楽に対する意識が学校教育の中でしっかりと根付いていけば、その子どもたちが大人になった時に楽器に関わる人もおそらく増えてくる。そうすると、ピアノの響板に使われるアカエゾマツを育てているらしいけれど何かあるのかな?と気づく人も増えてきますよね。まさにターゲットを小学生の子どもたちにして、その子たちが大人になった時に「子どもの頃一回森に行ったよね、あれが世界的に有名なピアニストが弾くピアノになったらしいよ。」という話になるとすごく夢が広がるなと思います。

高田:まさにそれが木育で、やっていきたい活動の一つです。木育は山を通して人が育っていくという、我々ならではの取り組み。そこを絡めてやっていければ、新しい価値を作っていけるのかなと思っています。

渡辺:CSRやCSV経営は視点をどこに置くかが重要と言われていて、CSRは地域なり、企業なり、NPOなりいろいろな視点を持つことで成り立っているなと思うことがよくあります。

CSVの視点を考えるときには特に自社を起点とした一方的な目線ではなく、課題を抱えているところに目線を合わせることが大切だと思います。発注者がどんな課題を抱えているのか、地域の方々がどういう課題を抱えていて、何が起こりうるのか。そういったことの想像力を働かせてみなさいということですね。

「30年先のための森づくり」

渡辺:先ほどのお話を聞いて、持続的なアカエゾマツの森林づくり自体が地域の困っていることや地域の山が抱えている問題が何なのかに着眼点を置いていて、御社の課題や利益は後回しという考え方は、まさにCSVだなと感じました。音楽教育の会社であるからかもしれませんが、そういう感性が鋭い方が多いんでしょうね。

活動の今後、未来への展望

「人だけではなく環境も含めてみんながwin-winになること」

渡辺:出来るならこういうことをしてみたい、最終的に何を目指していきたいなど、目標についてお聞かせ願えますか。

高田:出来ることなら科学技術を使って、10分の1くらいのスピードで木材を育てられたらいいですね。もしそうなれば結果も共有できますし、結果が見えるということは継続にも繋がりますから。これは技術的な話なんですが、天然林のアカエゾマツを使おうとすると育つのに250~300年はかかるんですよ。天然のアカエゾマツの枝というのは100年くらいたってようやく落ちだす。そこからピアノが取れるようなものが育つには、さらに150~200年はかかる。つまり、昔我々が楽器作りに使ってきた天然のアカエゾマツは300年くらいのものなんです。

「人だけではなく環境も含めてみんながwin-winになること」

高田:ですが30年の時点で枝打ちをやってあげれば、それだけで70年短縮できる。これはすごく重要なことで、長く継続していくことによって、将来的には70年短縮した木材を取れるような状況というのが自然に出来てくる。杉の人工林に使われている技法をもう少し簡素化して、300年後にも残っているという循環を作ることが理想です。ただ、人工林業はせっかく手を掛けて育てたのに、失敗したらなにも残らないことが一番のリスクですね。

渡辺:でも今動かないことには、その不安な未来が確実なものにもならないですよね。

高田:不安でも今やらないともっとひどい状況にしかならない。でも手を掛けても結果上手くいかないということもあるので、やること自体が大事なんだという認識を広めていく必要があります。木材というのは人間と寿命のサイクルが違い、どうしても3代はかかるので本当に難しいですね。

渡辺:それが楽器になると考えたら100年、200年と残っていくので、ロマンを感じますね。変化のスピードが早い今の時代だからこそ余計に感慨深いものがあります。

「人だけではなく環境も含めてみんながwin-winになること」

高田:元々北海道の木はピアノに使われることが多いんです。昔は東北や九州にも使える木がありましたが今はなくなってしまった。だからこそ一度北海道でモデルケースを立ち上げて、色々なところに広めていければ、会社の活動としてはどんどん盛り上がっていくのかなとは思っています。

渡辺:最後に、御社のCSR・CSVの中で一番大事にされている信条や思いを聞かせていただけますか。

高田:私の個人的な考えですが、人だけではなく環境も含めてみんながwin-winになること。結局過去に豊富な天然の木材をどんどん使う一方で植えてこなかったのは、使う側がwinになって、環境側がwinじゃなかった。そういう行動はいずれはどこかで破綻してしまうので、目指すところはいかに持続的に発展していけるかだと思っています。

今回お話を伺うことで、CSRやCSVが持つ新たな可能性について、改めて考えることができました。事業推進の目的を利益の追求のみに置かず、ステークホルダーとのつながりを意識して環境の保全や地域の活性化にも繋げるCSRやCSV。木に深く関わる企業として、木と人、木と企業の関係をより良いものにしていくため、CSR/CSVの在り方を模索し続けていくことが必要だと感じたインタビューでした。