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林業日本一を目指す町、 岩手県住田町 「木のショールーム」として木造庁舎を建設
2018-04-26

林業日本一を目指す町、 岩手県住田町 「木のショールーム」として木造庁舎を建設

2018-04-26

岩手県東南部に位置する林業の町、岩手県気仙郡住田町。四方を標高600~1300mの山に囲まれており、森林面積は町の総面積の90%を占めています。「森林林業日本一」を目指し、木質バイオマスなどの自然エネルギーの推進、森林環境教育の普及、環境と経済が好循環する林業の実現など、林業を中心に据えた町づくりを行っています。

2014年、その住田町の木造新庁舎を前田建設が中心となり設計・施工しました。地元木材を活用した地産地消の取り組みや、地元の職人さんや建設会社を巻き込んでのプロジェクト。住田町長多田欣一氏の声を中心に、林業日本一の町住田町を象徴するストーリーをご紹介します。

工 事 名
住田町新庁舎建設設計・施工一括業務
発 注 者
住田町長 多田欣一
設  計
株式会社中居敬一都市建築設計・前田建設工業株式会社 共同企業体
設計協力:意匠......近代建築研究所
木構造...株式会社ホルツストラ(稲山正弘 東京大学大学院教授)
監  理
株式会社中居敬一都市建築設計
第三者監修者:株式会社松田平田設計
施  工
前田建設工業株式会社・株式会社長谷川建設 共同企業体
規  模
木造、地上2階
耐力壁軸組工法、レンズ型木造トラス構造
耐力安全性の分類 耐震基準値Ⅰ類(1.5倍)
敷地面積
7,881m2
建築面積
2,419m2
延床面積
2,883m2
木構造部数量
710.7m3
杉(柱・母屋・ラチス壁・間柱 )247.7m3
唐松(梁・土台) 463.0m3
工場ユニット
レンズ型トラス梁270m3、ラチス耐力壁73m3...全体の51.8%ユニット化
工  期
2013年8月1日~2014年8月31日

住田町長の声

「森林林業日本一」の町を体現する庁舎を建てたいという強い思いのもと、前田建設に設計・施工の依頼をくださった住田町長にお話を伺いました。

住田町長の声

新庁舎建設の経緯について

築55年を超えた旧役場庁舎は地震で倒壊する危険性がありながら、構造上改修が不可能と診断されました。また東日本大震災で機能を失った周辺の役場を見た町民のみなさまから庁舎新築の声が高まり、20年ほど積み立てた庁舎建設基金をもとに、庁舎建設に踏み切りました。

新庁舎建設の経緯について

新庁舎は、分散する役場機能を集約してワンストップサービスが可能となり、木質ペレットボイラーや太陽光発電の利用により環境にも配慮し、災害発生に備えた防災拠点と沿岸部側自治体の後方支援という役割も担うよう計画しました。

新庁舎建設の経緯について

設計・施工へのご要望として

新庁舎は木をふんだんに使い、木造公共施設のモデルにしたいと考えました。町の人々が愛着を持ち、子孫に誇れる建物を後世に残すよう、できるだけ住田町の木材を使い、施工には地元の力を活用してほしいという条件を提示しました。

木造の良さは、地元の職人が定期的に塗装をしたり、内装・外装から柱や土台まで部分的に材料を取り替えたりすることで建物寿命を延ばせることです。木は植樹からおよそ60年で木材として使えるので、その森林サイクルに合わせて部材を入れ替えるなど大切に手入れをして、100年以上利用できる庁舎にしたいと考えていました。

設計・施工へのご要望として

一番のこだわりである「象徴木」は、町民から寄贈されたものです。町民みんなで磨き上げ、4本の木の向きや立てる順番まで気を配りましたから、思いのこもった交流プラザになったのではないでしょうか。

2014年11月には「全国木の町サミット」と銘打って、全国の林業の盛んな市町村の首長さんを招いたイベントを開催しました。新庁舎と特別養護老人ホーム、木造仮設住宅を3点セットにして、木造の公共施設が全国に広がり、日本全体で「山を守ろう、木を使おう」という機運が高まることを願っています。

設計・施工へのご要望として

前田JV(ジョイントベンチャー)の仕事ぶりについて

町の職人と地元の建設会社、東京の前田建設のコラボレーションには、新たな可能性を感じています。地元の大工は工場生産された大きな資材を組み立てる現場を見て、大いに刺激を受けたようです。外装・内装工事が始まり、地元の大工が本領を発揮するのも楽しみです。

前田JVには、町民と一体となった新庁舎建設への協力と、開かれた現場運営に感謝しています。地元の祭りにも参加してもらい、その活躍ぶりが地元新聞の一面を飾りました

前田JV(ジョイントベンチャー)の仕事ぶりについて

地元の小学生見学会や工事進捗状況を紹介するホームページなど、新庁舎建設をきっかけにして将来の林業従事者が生まれることを期待しています。

町民をはじめ、建物に関わったすべての人たちの思いのこもった新庁舎ですから、自慢できる建物にしたいと思います。

前田JV(ジョイントベンチャー)の仕事ぶりについて

木のぬくもりと、安全を両立する技術

地域の木材を使用し、町の職人の方々や工務店、町民の皆様を巻き込んでの一大プロジェクト。住田町と前田建設の挑戦を支えた技術をご紹介します。


安全性を追求した木造庁舎全体が木のショールーム

住田町役場の新庁舎は、延床面積約2900㎡で2階建て。太い柱と梁で構成した伝統的な純木造建築のイメージを大切にしながら、先端的なデザインのレンズ型トラス梁やラチス耐力壁が印象的な建物です。建物全体が「木のショールーム」になるよう設計されています。

躯体の柱や梁には、地元産のスギ材とカラマツ材を採用し、住田町の三陸木材高次加工協同組合などで生産された構造用集成材を使用。木の構造体が建物内外に現われるため、燃え代設計による準耐火構造で耐火性能を確保し、人命を守ります。

また、耐震基準値Ⅰ類という最高クラスを実現し、災害時には防災拠点として後方支援を可能にします。

木のぬくもりと、安全を両立する技術

トラス梁に金具を付けて吊り足場に

着工は2013年8月1日。基礎工事では地盤改良材を土壌に添加することにより、掘削土の排出をせずゼロエミッションを実現。擁壁や側溝などの外構工事を先行しました。

木軸の施工は、基礎コンクリートの上に柱を建て、柱の上に長さ29.2mのレンズ型木造トラス梁を1.8m間隔で連続して架け、開放的な大空間を実現しました。

レンズ型木造トラス梁は工場で半分に分けて製造し、現場地組ヤードで一体にし、柱との接続部や吊り足場の金具を取り付け、塗装を施し、クレーンで揚重し、セットします。

東日本大震災後の復興工事のため仮設の資材も作業員も不足したので、吊り足場を考案。トラス梁の両端に足場受けの金具を取り付け、そこに足場を渡して吊り足場をつくり、屋根工事が終わり次第その金具を外します。吊り足場で仮設の資材と作業員を大幅に削減し、作業効率を上げています。

トラス梁に金具を付けて吊り足場に

日本初採用のラチス耐力壁で強度を確保

耐震安全性の分類 I 類を確保するため、さまざまな工夫をして強度を高めています。その1つが、日本で初めてラチス耐力壁を採用し、9倍の強度を確保したことです。さらに合板耐力壁に75㎜ピッチで釘を打ち、強度を14倍に。仕上げにより、合板耐力壁は石膏ボードで覆うが、意匠性を活かしたラチス耐力壁から光と風を取り入れています。

外壁からの漏水を防止するために散水試験を行い、防水性能を確認しました。トップライト、外壁や屋根の断熱ラインや通気胴縁、垂木の配置計画、気密シートの全範囲チェックを行い、結露防止対策も実施しました。

日本初採用のラチス耐力壁で強度を確保

最後に

2014年8月31日竣工引渡しが完了。複合的な機能を果たす町の総合庁舎として、そして林業の町住田町の象徴として、町民の方々に親しまれています。

林業の町住田町で、地域の木材を活用し、地域の方々と共に作り上げた木造新庁舎。今後も長い年月に渡って町民の方々に愛され、町民の方々を見守り続ける庁舎になればと願っています。

最後に

用語解説

JV(ジョイントベンチャー)

建設工事などにおいて、複数の企業で資金面や技術面の協力をして工事を請け負う形態。

耐震安全性の分類 I 類

Ⅰ~Ⅲ類まであり、Ⅰ類は主に拠点となる庁舎や病院を対象とした基準で、大地震後に建物の構造体を補修することなく使用できることを目標としている。通常の建物の約1.5倍の耐震性が求められる。