new

「木」が建物になるまで~国産材の流通構造 第1回 木材業界の全体像。木材流通の川上・川中・川下って何?

2018-07-23

国産材を使った木造建築物の普及に向けて

国産材活用の機運

2010年、「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行されました。

日本各地で人工林が利用可能な時期を迎える中、輸入木との競争や林業の後継者不足等の影響により森林の手入れが十分に行われず、森林資源を活用しきれていない現実があると言えます。この法律は公共建築物を中心に国産材を使った木造化を推し進めることで、森林が適切に管理されることを促し、林業を始め木造を取り巻く業界が活性化することを狙いとしています。

国産材の利用を促す機運が高まっている一方で、日本の木造建築業界を俯瞰したときに誰がどうやってそれを実現するのかについて具体的に想像するのは、多くの人にとって難しいのではないでしょうか。


栃木県を舞台に、木材の川上・川中・川下を知る

この度、木で建ててみよう編集チームは、宇都宮大学地域デザイン科学部の学生と合同で栃木県へ視察に行きました。

木材が山から伐り出され、建物になるまでの過程を一般的に川上、川中、川下と表現します。今回の視察では川上(林業・素材生産業)、川中(製材・集成材工場)、川下(プレカット工場)のすべての工程を見学。国産材の流通経路の全体像を見渡しながら、先進的な取り組みを行っている栃木県の事例を知ることができました。


【「木」が建物になるまで~国産材の流通構造】と題し、視察の様子をシリーズにまとめていきます。関東甲信越随一の林業県である栃木県の事例をベースに、木材流通の全体像を学びながら国産木材の活用について考えます。

第1回となる今回は栃木県を舞台にして流通の各行程を見ていく前段として、木材流通の川上・川中・川下についての概要と、その中でのシリーズでご紹介する各事業者の立ち位置についてご紹介していきます。

木材の川上:素材生産業、原木市場

まず木材流通の出発点、川上にあたるのが、素材生産業と原木市場です。「流通」の川上ということで、林業経営に伴った木を伐り出す素材生産業を起点と考えます。

林業家の育てた木を伐り出し、用途に合った規格(太さ・長さ)の丸太を生産するのが素材生産業。その原木丸太が出荷され、買い手である製材所などの間で競りにかけられるのが原木市場です。

●木材の川上:素材生産業から原木市場へ

栃木県の「川上」

今回の取材で訪れたのは、栃木県内3市2町で素材生産業を営むたかはら森林組合。素材生産業は森林組合が行う場合と林業事業体が行う場合があり、栃木県ではその生産比率は約4:6となっています。

栃木県は関東甲信越では第1位、全国でも11位の素材生産量を誇っており、県内の全素材供給量のうち県産材率は68%、国産材率98%と輸入木材に頼っていないことが大きな特徴です。

たかはら森林組合
http://www.takahara-shinrin.or.jp/

木材の川中:製材工場

●木材の川中:製材工場とは

原木市場から原木丸太を仕入れ、皮をむいて裁断し角材や板などの製材品を作るのが製材工場です。製材品の用途は建築用材だけではなく家具用材、建具用材、梱包用材、土木用材など実に様々。山から伐り出された丸太が、ここで初めて利用しやすい形の製品となります。また製材された木材を乾燥させ、狂いや割れの発生を防ぐことも製材工場の役割です。

●木材の川中:製材工場とは

栃木県の「川中」

取材では、二宮木材(製材工場)と栃木県集成材組合(集成材工場)にお話を伺いました。栃木県の原木丸太は優良材として市場評価が高く、無垢材の生産拠点としての製材工場を主体に発展してきました。栃木県はKD材と呼ばれる乾燥された高品質な建築用材の供給能力が高いのが特徴で、全製品に占める人工乾燥材率は全国1位の76%となっています。

集成材工場に関しては、数は少ないながら製材工場と連携したビジネスモデルを構築し、大規模建築物向けの大断面構造材や住宅用の中小断面材などのマーケット需要を見据えた取り組みを行っています。

二宮木材
http://nwood.sakura.ne.jp/


栃木県集成材協同組合
http://www.tochisyu.or.jp/


木材の川下:製品市場・木材販売業、プレカット工場

製材工場や集成材工場で加工された木材製品は、製品市場で木材卸売業者に売りに出され、卸売業者からさらに小売業者や工務店などに卸売りされます。また近年では、プレカット工場が製材工場から製材を直接仕入れ、加工した上で工務店に販売するルートもあります。プレカットとは、建築に用いられる木材を工場であらかじめ加工する工法で、プレカットにより建築現場での組み立て前の加工の手間が大幅に省けます。

●木材の川下:製品市場・木材販売業、プレカット工場

栃木県の「川下」

今回の取材では、プレカット加工業者のテクノウッドワークス株式会社を訪れました。
栃木県には多様な国産材を扱う多くの製品市場(及び市売問屋)があり、流通の中で市売問屋の存在感が大きくなっています。そのため製材工場からプレカット工場に直接製材が販売されるケースは少なく、問屋とプレカット工場が競合するのではなく連携しながら需要に応じた製品をつくる取り組みを行っているのが特徴だそうです

テクノウッドワークス株式会社
http://technowoodworks.com/


栃木県の「川下」

おわりに

駆け足ではありますが、木が伐られてから建物になるまでの流れをご紹介しました。一口に木材流通と言っても、多くの事業者が関わり合い複雑な流通構造になっているのがわかります。国産材活用に向け、最適な木材流通の形とは何なのか。シリーズを通して考えていきたいと思います。

用語解説

KD材

Kiln Dry材の略で、人工的に乾燥させ含水率を下げた木材の呼称。天然乾燥材は「AD(=Air Dry)材」、天然乾燥過程がまだ十分でない木材は「グリーン材」に分類される。