new

「木」が建物になるまで~国産材の流通構造 第2回「川上」木材の素材生産業の現場より

2018-09-14
「木」が建物になるまで~国産材の流通構造第2回 「川上」木材の素材生産業の現場より | 木で建ててみよう

「林業」と聞いて、真っ先に頭に思い浮かぶのが木をチェーンソーで伐採している光景。しかしながら多くの方は、森に生えている木や、伐採され加工された後の木材を見たことはあっても、木がどのような過程を経て「木材」になるのかは想像がつかないのではないでしょうか。

また視点を変えてみると、木材流通の中で外国産材との競争や人材不足のあおりを最も受けているのがこの「素材生産業」の現場です。日本の林業や木材の流通を理解する上で、素材生産業を知ることは欠かすことができないテーマと言えます。

栃木県の事例をもとに日本の木材流通の現場を知る、シリーズ【「木」が建物になるまで~国産材の流通構造】。今回はその素材生産業を中心とした国産材流通の「川上」にスポットを当ててご紹介いたします。

林業の現状と素材生産業の役割

昭和30年代、戦後急増した木材需要を満たすために政府が推し進めた「拡大造林政策」により、天然林が次々に伐採され経済価値の高いスギやヒノキへの植え替えが進みました。
さらに増え続ける木材需要に応えるべく昭和39年に安価な木材輸入が全面自由化されます。安価で安定供給が可能な輸入木材は瞬く間に市場に受け入れられましたが、せっかく増産を図っていた国産材が押される形勢に。国内の林業は徐々に衰退し始め、当時9割以上あった木材の自給率も、今では2割程度まで落ち込んでいます。

平成8年になって拡大造林政策が撤廃された頃には、多くの人工林が使用されることなく残されることになりました。現在まで、国内に多くの利用可能な森林があるにも関わらず、木材の供給は輸入に頼っているという状況が続いています。


国産材が競争力を失ったことで卸価格も低下。間伐を中心とした保育作業や伐採、搬出などの費用も回収することが難しく、林業は衰退を続けています。林業経営者の意欲は低下し、林業従事者の高齢化も進行。若い労働人口の都市部への流出もあり、人材不足に拍車がかかっています。

これらの人材不足の影響を最も受けているのが「素材生産業」です。素材生産は木材流通における「川上」とも呼ばれ、森林から丸太を生産、木を木材に加工し利用するための一番初めの工程を担います。「林業」の中でも森林の伐採以降、丸太への加工、原木市場への卸売りまでを行うのが素材生産業の役割です。

木が木材になるまで

「素材生産業」の作業を、順を追ってご紹介します。
森林が木材になるまでには、以下のような工程があります。

1.伐採

木材に使用する木を伐採するだけでなく、混みあった森林から曲がったり、成長が劣っている木も切り倒します。これは「間引き」(※間伐(かんばつ))と呼ばれる作業で、森林の中を明るく保ち、残された木をまっすぐ強い樹木に育てることにも繋がります。


2.作業道開設

既存の林道や作業道に加え、高性能な林業機械が通ることができる幅の広い作業道を敷設することで、作業効率も向上します。


3.造材

作業道沿いに集めた木材の枝を落とし(枝払い)、必要な長さに切りそろえ(玉切り)、積み上げます。この作業は、プロセッサと呼ばれる林業機械を用いて行います。


4.搬出

造材を行った加工済みの丸太を集め、運搬用トラックの入る集積場まで運び出します。
丸太を掴んで積み上げる機械はグラップル、丸太を載せて運ぶ機械はフォワーダと呼ばれます。


5.運搬

搬出した丸太をトラックに積んで、各出荷先まで運搬します。


6.出荷先

建築材として高価で販売できるものは製材所に直送、または木材市場で競りにかけます。建築材として販売できないものは、大型合板工場やチップセンター、木質バイオマス発電所などで販売します。


栃木県の事例、たかはら森林組合の取組み

今回の取材で実際にお話を伺ったのは、栃木県の「たかはら森林組合」。森林組合は地区内の森林所有者が組合員となって組織され、共同で木材の製造・販売・流通など森林経営を行っている事業体です。
たかはら森林組合は、造林から素材生産、森林管理や調査、林業作業道の整備など林業に関わる事業を多角的に展開し森林経営を行っています。実際にたかはら森林組合が経営を行っている山の中で、たかはら森林組合の村山さんにインタビューしました。


――今はどういった作業をされているのでしょうか。

村山:300ヘクタールの山の間伐をやっています。進行しているのが約10ヘクタールで、今は年間8名の作業員が間伐、植え付け、仕上げを行っている状況です。切り出した樹木は出来るだけ早めに丸太に加工して、製材所に持っていくようにしていますね。

――1年間を通してどのようなスケジュールで働かれているのでしょうか?

村山:ナラなどの植え付けもやっているので、4月から5月末までは苗木の植え付け期間になります。それからは6月から8月にかけて苗木の周りに生える草の刈り払い、9、10月あたりから3月までは伐採を行っていますね。そしたら来年の4月には植林......といったサイクルが基本です。

木を育てる、といった話になると60年~70年が1サイクルになってきます。先ほども触れたように、まずは植え付けして、苗木が小さいうちは草刈り。5~7年経つとそれなりの大きさまで成長してきますので、今度は蔓が絡んだとかダニが湧いただとか......、そういった木を間引く必要が出てくるんですね。20~30年経つと結構な大きさになってくるので間伐を行います。この時に切った木材は廃棄になることが多く、20年のものだとほとんどが切り捨てられますね。

――せっかく育ったのに捨ててしまうのですか。

村山:昔だったら「間伐」した細い木も使い途があって基本的に切り捨てしなかったんです。そして、本当は成長の旺盛なうちに、50~60年経ったら全部切って更新していった方がいい。しかし現状は55年だとか60年だとかいったものをまだ間伐して一部は利用していますが、一部は切り捨てしているんです。需要が滞っているせいでバッサバッサと切っていくわけにもいきませんし、それが原因で70年~80年目まで見送り、なんてことが起こってしまっているんですね。


――悪い方向から脱却しにくいわけですね。

村山:それを打破するために皆伐していこう、という流れがここ2、3年で出来つつあります。ちょうどバイオマス発電の制度も出てきましたし、皆伐した森林を全部使いましょうという方向に段々向かってきているんですね。そうなれば木材の扱い方も多様化しますし、山の切り方も変わり始めるので、上手くいけば10年くらいで日本の林業は持ち直せるんじゃないかと思います。政府がそれに興味関心を持ってくれれば......ですけどね。

――山を所有している方々の意識も変わってきているんですか?

村山:そこが問題ですね。本当は全部皆伐していくのが一番なんですけど、皆伐して植林までするとすさまじい経費が掛かってしまいます。経費が掛かるのは誰だって嫌ですから、例えば50年の木がたくさん生えている山だと、ここから10年放っておいても問題ないだろう、ということになって間伐しない。現時点ではそういう所有者が多いですね。ただ栃木県に関しては、最近植え付け助成金が高くなっているので、それに伴ってある程度話ができるようになってきました。

――素材生産業は人手不足が続いていますよね。どのような対策をされていますか?

村山:私たちの方で全部経理をして、共販所で売れた石数や立方数に対して支払いをしています。ただし1日~31日までの固定給でいくらっていうのも払っています。残りを生産手当として当てていますね。例えば50万の売り上げがあった場合は30万をまず日給にして、残りの20万を生産手当として払っているわけです。こういう間伐ですと大体1石いくらですよ、という計算にしておくと所有者に説明が付きやすいじゃないですか。私たちの現場管理もすごく楽になりますし、成果を出したら出した分だけ給料が上がるので、作業員のやる気にも繋がります。経理は難しくなりますけど、それを補って余りあるメリットがあるわけです。


――なるほど。実際にはどのような感じで作業している方が多いのですか?

村山:頑張って生産性を上げれば生産手当が増えますから、朝早く出てくる人が多いですね。植栽とか植え付けもするから、刈り払いは朝の5:30から始めて、大体午前中の10:00とかにはもう帰ったり。日中はどうしても暑いので生産性が上がらないじゃないですか。だったら朝の4時5時から始めて10時くらいに帰った方が楽だし、効率も能率もいいんです。必ずしも朝8時から夕方16時とか17時まで作業する必要はないわけで。

――確かに。その方がプライベートの時間も増えますし、モチベーションも上がりそうですね。

村山:植栽なんかも1日300~400本を目安にラインで植えるような感じ。それを1本いくらで植えてもらっています。やればやるだけ自分のものになる。ただ植え方が悪いと枯れてしまうので、それだけは私たちの方でしっかりと管理します。常用いくらでやっていたこともありましたが、どうしても作業が進まなかったり調子が悪かったりすると生産性が低くなるうえ、所有者にもそれだけ負担がかかってしまう。石いくらで作業してもらえば、効率がいい時も悪い時もそれで納得感を持って仕事ができます。


林業の衰退の影響を最も受けた「素材生産業」。現場の方々のお話を伺うと、様々な工夫や時代に即した革新的な取り組みが行われていました。課題はたくさんありますが、まずは山と木、木材利用の現在の姿を知り、全体像を理解することが、日本の木造建築の未来を、ひいては林業全体を支えていくことに繋がるのではないのでしょうか。

用語解説

プロセッサ

木材の枝払い、切り揃え、集積という一連の作業を行う林業機械。

グラップル

木材を掴み、荷積みを行う林業機械。

フォワーダ 

切りそろえた木材を荷台に積んで運ぶ、積載式集材車両。

皆伐

一定の区画にある樹木をすべて伐採すること。

立法数

材木の材積を1㎥単位で表したもの。

石数

材木の材積を「石」という体積を表す単位で表したもの。1㎥はおおよそ3.6石にあたる。