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「木」が建物になるまで~国産材の流通構造 第3回「川中」製材工場の現場より

2018-10-19
「「木」が建物になるまで~国産材の流通構造 第3回「川中」製材工場の現場より| 木で建ててみよう

山で育てられた木は、そのままでは建材として利用できません。伐り出された原木を、建物に使える木材へと加工する必要があります。原木を木材に加工するのは木材流通の「川中」である木材加工業。木を伐採し、切りそろえる木材流通の「川上」の次の工程を担います。

栃木県の事例をもとに日本の木材流通の現場を知る、シリーズ【「木」が建物になるまで~国産材の流通構造】。今回は「川中」の中でも、原木を無垢の製材へと加工する製材工場についてご紹介します。

製材とは何か

国産材

国内で使用されている製材は、そのおよそ50%が国産材で賄われており(平成27年時点で47.3%)、今回ご紹介する栃木県を始め、国産材が中心となっている地域も多く存在しています。これらの製材品が直接建築に利用されるため、この「製材段階」の良しあしが建物の品質を大きく左右すると言われています。

木材ができるまで。製材工場の工程

それでは、実際の製材工場ではどのような流れで木材の加工が行われているのでしょうか。
ここでは一般的な製材工場の工程をご紹介します。

1.原木丸太の入荷

原木市場より入荷した原木を、「径級」「長さ」「材質」の3つの項目で選別します。この時、原木の形状・年齢幅・抜け節・腐れ・アテといった特徴から、「芯持ち材用」「芯去り材用」「小割材用」「板材用」「化粧材用」「野材用」と選別し、長さによって細かく区分けしておきます。

原木丸太の入荷

2.皮剥ぎ

皮つきの原木のままでは製材しにくいので、専用の機械を使って「皮むき」を行います。皮をむいたまま原木を放置すると、傷や石などが原因で劣化したり鋸刃を傷つけてしまうため、この工程は加工の直前に行われます。

皮剥ぎ

専用の機械を使って「皮むき」

3.粗挽き

皮をむいた丸太を台車に乗せ、専用の機械で木の性質に最も適した角材に加工していきます。芯持ち材の場合は芯を中心に角取りを行い、平割の場合は杢を中心に柾目にそって木取りを心がけます。この後に修正挽きを行うため、余裕を持たせて大きめに裁断します。なお、台車に乗せる角度やどこで挽くかによっても大きく品質が左右されるため、長い経験と熟練を要する重要な工程です。


4.乾燥

粗挽きした木材に割れ止め処理を施し、乾燥機にかけていきます。木材は含水率が高く、この工程を怠ると乾燥した際に曲りや反り、割れなどといった品質の劣化が起きてしまいます。安定した製材を作るために、この工程は欠かせません。機械乾燥が終わった製品は内部応力を取り除くために、しばらく養生します。


5.寸法仕上げ加工

乾燥させた木材を大割材と小割材に区分けした後、小割材の割れや曲りなどを修正挽きし、専用の機械で均一の寸法に裁断していきます。粗挽きの段階では大きめに裁断しているため、この工程を経て実際に使用される製材品となります。大割材はそのまま製品として利用されます。また、この工程で出た端材や製品に適さないものはチップ加工に回されます。


6.性能検査

仕上げ加工後の木材が用途に合うかどうか、樹種や断面、寸法や長さを選別していきます。JAS機械等級材などのランク付けが必要なものは選別格付し、強度や含水率を測定します。

7.製品保管・管理体制

性能検査後、木材を結束しJASマークの表示を行います。なお、選別した製品は樹種、寸法、等級等に区分し所定の製品置き場に保管・管理します。


8.出荷

製材品をラッピングしたのち、出荷指示書に従い出荷作業を行います。また、チップ加工が行われたものは、業者のトラックで製紙工場やバイオマス発電所に運び出され、余すところなく活用されます。


栃木県の事例、二宮木材株式会社の取組み

今回の取材でお話を伺ったのは、栃木県に本社を置く「二宮木材株式会社」。
「商いを通して木の良さと特性を訴え、利用価値を高め、ひいては地球環境改善に寄与する」という理念のもと、国産杉の製材から加工販売を行っている製材業者です。こちらで加工された質の高い製材は、「農家の店 みのり大平店」や京都の観光名所「天台宗青蓮院門跡」の大舞台にも利用されています。二宮木材株式会社の二ノ宮さんが、製材工場の現場の声を聞かせてくださいました。


――以前は街中の方で経営されていたとお聞きしました。

二ノ宮:移転してきたんですよ。それまでは街中でやっていたんですけど、どうしてもうるさいとか木材チップが飛んでくるとか、苦情が多いんですよね。こちらに移転してきて、年々設備や機械を増やしたりして現在に至るという流れです。

――どのような木材を製材することが多いですか?

二ノ宮:栃木の木材だけでなく、茨城・福島近隣の優良な木材を中心に、ほとんど杉の製材をしています。一部埼玉もやっていますけど、杉が98-99%。ヒノキやその他の樹種が残りちょっとですね。


――なるほど、地元の木材を活かすのは大きな強みだと思います。

二ノ宮:「"あて"になる会社になろう」というコンセプトで、基本的には何でもやるようにしています。杉の野地板なんかはやっていないのですが、それ以外は何でもそろうと。注文材についても納期とか価格とかは別として、仕事自体は断らないようにしようと思いまして。「あてになる会社」を目指して、今のところ年々消費量も増やしている状態ですね。

――かなり精力的に活動されているんですね。

二ノ宮:去年で大体72000立方の原木を消費しています。今年第二工場の方でワンライン増設しているところなんですけど、それが稼働すれば年間100,000立方の消費量まで増やしていけるかなと。


――具体的にどういった製材の依頼が多いですか?

二ノ宮:注文が来るのは105ミリの柱だとか間柱とか、一般流通材のご注文が多いですね。鴨居などを役物というんですが、そういったものの比率がどんどん減っていまして。それならば一般流通材を主体にやっていこうということで、一般流通材を大量生産できるような体制を整えています。市場環境が昔とはガラッと変わっているのですが、時代に合わせて柔軟に対応していかなければと考えています。

――木で建物を建てるにあたって、二ノ宮さんからアドバイス頂けないでしょうか。

二ノ宮:木材の規格や流通量を考慮するとコスト・納入が効率的になることをご理解いただきたいです。表のように、流通量の多い3.5寸角のA材の設計歩掛価格を1とすると、B材は1.6、C材は1.09です。コストを下げようとして構造材の量をなるべく少なく設計したとしても、流通していない寸法の材は設計歩掛価格が高くなるため、結果安くならない場合があります。また、大きい断面の材は切り出すことのできる原木も限られるので、大量に発注を受けても納入が困難な場合もあります。今回取材頂いた製材の流れなどを設計者や施工者の方にも理解いただければ、きっとより良い建物となるのではと思います。

設計歩掛価格

設計歩掛価格

木を木材へと加工する重要な役割を担う、製材工場。今回は製材とは何かから、具体的な製造工程までご紹介しました。また、二宮木材株式会社への取材では木材需要の変化やそれに適応して柔軟に変化し続けている製材の現場を垣間見ることができました。製材のプロセスや業界の背景を知ることで、木造建築を見る目が少し変わるのではないでしょうか。シリーズ【「木」が建物になるまで~国産材の流通構造】、次回は「川中」の第二弾、集成材工場についてご紹介します。