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木造建築における「木材調達」は時間と地場がカギ 青森県・板柳中学校編

2021-02-02
「木造建築における「木材調達」は時間と地場がカギ 青森県・板柳中学校編| 木で建ててみよう

全国100万トンという日本一のりんご生産量を誇る青森県北津軽郡にある公立中学校「板柳中学校」。建物の老朽化に伴い、木の温もりと香り溢れる青森県材を使用した木造2階建ての新校舎が2020年1月31日に誕生しました。

今回はその施工を行うための「木材調達」に注目。調達管理の重要性、県産材を調達するための苦悩とは。大型木造建築を支える人々に、その役割とポイントなどについて深堀りしました。

「木造建築における「木材調達」は時間と地場がカギ 青森県・板柳中学校編| 木で建ててみよう

永井 敏浩(ながい としひろ)さん 写真中央
SBM建材株式会社 木構造建築部長。
1968年、千葉県出身。1989年中央工学校建築設計科卒業。
同年都内某設計事務所入社。1996年住商建材株式会社入社(現在SMB建材株式会社)。現在 木構造建築部 所属。
保有資格:一級建築士、構造設計一級建築士
直近の主な業務経歴:板柳中学校、松島離宮、豊洲ぐるり公園パークレストラン構造設計担当など。

野原 政信(のはら まさのぶ)さん 写真左
SMB建材株式会社 木構造建築部 部長代理 営業チームリーダー。
1970年、神奈川県出身。1992年 東北工業大学 土木工学科卒業。
同年 住商建材株式会社入社(現SMB建材株式会社)。現在 木構造事業本部 木構造建築部 営業チーム所属。
保有資格:2級建築施工管理技士
直近の主な業務経歴(木造躯体工事):板柳町立板柳中学校、宮城松島離宮、八戸市西白山台小学校、陸前高田市野外活動センターなど。
趣味:音楽鑑賞

北川 佳史(きたがわ よしひと)さん  写真右
1983年、千葉県出身。2006年 日本大学理工学部海洋建築工学科卒業。
同年 前田建設工業株式会社入社。現在 本店 経営革新本部 総合企画部 経営企画グループ 所属。
保有資格:一級建築士、1級建築施工管理技士、1級土木施工管理技士、コンクリート技士、鉄骨工事管理責任者、免震部建築施工管理技術者
直近の主な業務経歴: 仙台白百合女子大学キャンパス整備、仙台泉プレミアム・アウトレット、ヨークタウンあすと長町、東根市立大森小学校、釜石市立唐丹小中学校・児童館、板柳町立板柳中学校など。
趣味:ゴルフ、マラソン、読書

材料調達のキホン

―木造建築物の施工における「材料調達」の位置付け、役割についてそれぞれ教えてください。

野原:今回、図面指定のあった「青森県産材」にて集成材を製造する為、原料の青森県産丸太の調達について、どう工程期限内に集めるかを最初に考えました。その中で、スギについては県内に豊富に生えているため問題ないと判断。カラマツについて、県内にあまり生えていないことから、青森県森林組合連合会、青森県木材協同組合、三八地方森林組合、上北森林組合を通して、情報収集を行い、段取りを進めました。我々の役割は、素材調達からスタートしますが、今回のプロジェクトでは、青森県産カラマツ丸太の調達が最大のポイントでした。
丸太から集成材として、製品ができるまでの一連を「材料調達」と位置付けています。
今回、約850㎥の集成材を製品として作るために、一般的な歩留りの見方として約4倍の 丸太が必要となるため、約3,400㎥の丸太調達を計画しました。

―まずは資源確認から始まるというわけですね。

野原:はい。次に、木材のコーディネーターというポジションで、調査した資源を製材から乾燥まで地元業者で対応できるか検討します。製材業者は、比較的生産量の少ない業者が多いため、時間を要する事が多く、森林組合と情報交換しながら、元請様の希望される工程に乗せられるかどうかを判断します。もし、地元で対応できないケースの場合、他ルートにて対応いたしますので問題は無いのですが、可能な限り地元産業との連携を視野に動いております。
「木材調達」は、丸太切り出し業者、製材工場乾燥工場集成材製造工場加工工場と連携し、計画しています。順番としては、承認いただいた集成材の材料寸法から、集成材製造工場へ発注、集成材断面サイズによって、必要乾燥済みラミナのサイズやボリュームが決まってきますので、それを製材・乾燥工場へ発注します。製材・乾燥工場にて、乾燥歩留まり等を考慮いただき、丸太径何φ以上、長さ4.2m物を何㎥必要か判断していただき、丸太切り出し業者へ繋ぎ、準備して行きます。

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板柳中学校の集成材・製材

―板柳中学校ではどれくらい材料調達されたのか教えてください。

野原:集成材のラミナ(製材した板)としては、約1,500㎥調達しました。ラミナ乾燥後、1枚1枚強度を計測するために、グレーディングマシーン(木材強度を計測する機械)へ通し、強度等級を区分します。
強度は足りるが、の大きいラミナは節の部分を除去し、フィンガージョイント処理を行い、集成材を製造、仕上り製品としては、約850㎥になりました。

―とは言え、結構な量を使っていますよね。

野原:一般的に在来木造住宅の場合、延床面積1㎡あたり木材使用量0.2㎥と言われています。平均的な住宅(120㎡)であれば、木材使用量は24㎥となります。板柳中学校に置き換えますと、在来木造住宅約35棟を建設するために必要な木材を使用した事になります。

「県産材」を使用するということ

―材料調達の大前提として「県産材」の使用が指定となっていますが、調達する上でのポイントを教えてください。

野原:ポイントは4つあります。
1つ目は、「設計基準強度を満足する木材(素材)があるか」ということ。
国産材として使用される樹種は、圧倒的にスギが生えている(一部カラマツ)関係から、スギとなるケースが多いです。スギは、カラマツと比較すると強度が弱いという特徴があります。一方、スギの中でも暖かい気候で育つものは、比較的強度が低く、寒い気候で育つスギは強度が高い傾向があると言われています。もちろん、木の植えている高度や計画間引き等行われているかどうかの環境にもよります。そのため、地場で採れる資材の特徴(傾向)を押さえた上で構造設計することが大切です。各地方の木材強度は、これまでの経験により、ある程度把握することは可能ですが、まずは強度傾向を判断する事から始めています。

2つ目は、今回指定された「スギ、カラマツ丸太の必要数量が確保できるか」です。
今回は適材適所の考え方にて、柱材にスギ、梁材にカラマツを使用しております。青森県に、スギとカラマツが生えているか?また、必要見込丸太数量の供給ルートを確認しました。

3つ目は、「納期は対応可能かどうか」です。ここが重要なポイントになります。
弊社が直接発注する弊社協力工場であります集成材工場については、工場の生産能力を把握しております。そのため、集成材としての製造に必要な期間は問題ないのですが、製材、乾燥、丸太調達面に気を使いました。

ここからは、工事専門業者としてのお話をさせていただきます。
元請様と正式に契約させて頂き、集成材の発注を開始できますので、早急にご契約させて頂ける様、状況をご説明しながら契約に向けて打合せさせて頂きます。弊社では、元請様と契約頂け次第即時発注できるように、事前準備を整えておくことを第一に動いています。

4つ目は、「県森林組合連合会から短期間で数多くの丸太を出材できる森林組合を紹介してもらうこと」。
日頃から行政担当者や森林組合連合会と連絡を取り、丸太の供給量などの情報を常にキャッチアップしておくことも大切だと思います。

―各業者に関しては、近場で探すこともポイントになりますか?

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野原:原則、地元で出来る事は地元で対応頂いております。大断面集成材の製造となりますと専門工場が各県に無いため、資材の運搬費等も考慮し、建設地の近隣で調達するようにしております。板柳中学校では、集成材の製作は3協力工場に依頼{遠野グルーラム(岩手県)、ティンバラム(旧秋田グルーラム:秋田県)、中東(石川県)}。これら集成材メーカーで、集成材の製造から加工まで一貫してお願いしております。

―同時期に近隣で同様の木造建築物の計画がある場合は、材料調達等は困難になりますか?

野原:全国で見ますと、林業県と非林業県があります。林業県の場合、物件が重なったとしても、安定供給(山から丸太の出材能力、製材能力、乾燥能力)可能なシステムができているので影響は少ないと思います。林業が盛んではない県は、納期に時間を要すると思います。
また、林業県であっても県産材より条件の厳しい市町村材を求めるケースもあり、その場合は納期面で一層の注意が必要となります。

―「地域材指定」で材料が集まらない場合は、どう調整していくのでしょうか?

野原:弊社では、原則、集まらないことが無いよう事前にリサーチしております。一般論としてですが、そのような事態が起きた場合の解決策(案)として、地域指定材が仮に市町村材だった場合、県産材もしくは国産材と収集範囲を広め、工程に影響がでないのはどこまで広げれば良いのか調査し、元請様へ相談します。元請様は、監理設計者様、施主様と協議頂き、材料について市町村産材から県産材もしくは国産材に変更可能かご検討いただく事になると思います。

北川:公共施設の場合、その地域の方々が使用する建物のため、なるべく県産材を使用したいという想いはあります。地産地消はその地域の財政を活性化する手段の一つでもありますし。ただ物理的に難しそうであれば、徐々にその範囲を拡げていきますね。

野原:施主様や森林組合から、地元産材を積極的に使用して欲しいと要望を受けることもあります。「〇〇産」なら十分に供給できると提案されることもあります。今回は、青森県ですので豊富な「スギ」の使用が求められました。肌触りも香りも良いですからね。

―「材料調達から現場納入」を円滑に行うためのコツはありますか?

野原:集成製品として現場へ納入するまでには、山から丸太を伐採、丸太をラミナに製材、ラミナの乾燥、集成材の製造・加工の工程が必要となります。各工程において、トラック単位ごとに次工程へ発送していくことがキーとなります。

―搬送する手前まで用意しておく。つまり「つくりおき」はしないのでしょうか。

北川:家電製品や車などと違い、建物によって柱や梁の大きさ、強度などが異なり、現場ごとに合ったものを用意するためにも得策ではありません。また、その現場のものを早い段階で製作しておくことは、現場に広いストックヤードがあり、多数ある資材を保管できれば可能ではあります。
ただ工場では多数の案件を抱えており、効率よく工場を稼働させるよう緻密なスケジューリングがされていますので、ある現場の意見だけが尊重されるということはありません。

野原:日本集成材工業協同組合では、特定したサイズの作り置きを行っていますが、これはあくまでも一般向け住宅材など産地材料に指定がない場合に有効です。今回は「青森県産材」という仕様がありましたので、つくりおきの活用範囲外となります。

―実際、現場に予定通りに材料を供給できなかったという事例はありますか?

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北川: 現場が当初工程から遅れ、木軸建て方(木材に関する土台、柱、梁と施工し、棟上げするまでの工程)開始日を遅らせることはあります。工場からは計画的に製作が行われるため、逆に現場での前工程が短縮され前倒しされても、工場から予定納期より早く出てくることはないです。鉄筋コンクリート造だと、現場での作業が多いため、木造や鉄骨造に比べると工程の調整はし易いです。木造も不可能というわけではないですが、無駄なコストが掛かったり、品質管理が疎かになったりと、工場への負担を考えると得策ではありません。

―「材料調達」はシーズンによって段取りに違いは出てきますか?

野原:さほど大きな違いはありません。木材の伐採時期としては、本来水分の少ない冬場がベストと言われておりますが、それ以外の時期でも伐採はしております。木材の中でも特にアオカビが入りやすいアカマツ材(青森・岩手に多く生息)は、伐採後すぐに製材して乾燥しておかないとアオカビが入る可能性が高いです。

―自然災害によって材料調達に支障をきたすことはありますか?

野原:最近では、新型コロナウイルスの影響により森林伐採現場での人手不足が発生しており、原木生産量が落ちております。台風災害・オイルショック等、不幸にも大事が起こってしまえば、規模にもよると思いますが、一定の影響は受けると思います。

タイムカプセルとして興味喚起を図る

―「木育」という観点で、皆さんの考えをお聞かせください。

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野原:弊社では、施主様や設計事務所様へご相談し、幼稚園園児や小学校児童の方に、実際に建設中の園舎や校舎・体育館等に使用する集成材に「将来の夢」「やってみたいこと」「お願いごと」等を寄せ書きしてもらったことがあります。子供達は、木に触れ、木の香りを感じながら好きなことを書き、又、大人になって皆で集まりそれを見て童心に戻れる楽しみもあると思います。タイムカプセル的な役割含め、木に興味をいただけないかと思っております。
また個人の想いとしては、お子さんに限らずご年配の方にも木に触れていただく事は、良い事だと考えています。老健施設を検討されている方へ老健施設+幼稚園、幼稚園を検討している方へ園舎+老健施設の併設を提案しています。隣り合う施設を行き来することで、子供さんとお年寄りのコミュニケーションが図れ、相互的な助け合いや新しい楽しみ方を生んで行けると思っております。

北川:今回も板柳中学校の生徒さんや先生方、町長を始め町議会議員の方々、そして我々施工者もシナ合板に所属と名前を書いた「記名板」をつくりました。いつもは天井裏に納めていますが、今回は大階段下の倉庫に納め、見ようと思えば見ることができます。完成間近に中学校在校生を対象に見学会を実施しました。その際に引率されていた先生と「成人式にまたみんなでここに集まろう」と約束していた光景がとても印象的です。

永井:木造のメリットについて、都内で某事務所の三階建てを造ったときに設計事務所の方から聞いた話ですが、夏場だと鉄筋コンクリート造の建物だと湿気で蒸し暑いですが、木造だと涼しいという声を聞きました。空間的にも人にやさしいです。

北川:木造は温かみもありますよね。木造だと現場のピリピリした雰囲気にも温かみが出るので、心なしか職人さんも穏やかに見えました。

野原:木造で校舎新設された西白山台小学校(青森県八戸市のマンモス校)では、校長先生より不登校の生徒がゼロとお聞きしました。また、他校の校長先生から、木造校舎に建替えてから、インフルエンザにかかる生徒が減っているように思うとの話を複数お聞きした事がございます。

木造建築物の今後

―最後に木造建築物の将来についてそれぞれ意見をお聞かせください。

永井:林野庁と国交省が連携して、木材活用大型建築の市場規模を2030年時点で1兆円に拡大する目標を掲げているので、非住宅の大型建築の需要はますます増える見込みです。

野原:日本において「木」という資源の存在は大きいと言えます。国も、木材自給率(全木材使用量に対する国産材使用比率)2010年25%でしたが、2020年50%を目標に掲げました。木材利用促進法制定以来、国産材普及は高まり、現時点で目標の50%には届いていないものの、37%程度まで推移しております。国産材の使用比率が増加してきており、今後、SDGs、CSRの観点からも民間での木材活用に大いに期待しています。

北川:これまで2件の木造建築の現場に携わりましたが、いずれも教育現場でした。生徒さんや教員の方々は実際にそこで学校生活を過ごした上で、木造の建物を気に入ってくれています。木は明るく、温かみがあり、そのうえ香りも良いです。木造建築物は日本人好みなので受け入れられると思います。今後も普及していき、不登校といった社会的な問題解決にも繋がればうれしいです。

「木造建築における「木材調達」は時間と地場がカギ 青森県・板柳中学校編| 木で建ててみよう


木材調達は設計・施工現場のためのスピーディーなサポートはもちろんのこと、「地産地消」「木造建築が人々に与える恩恵」にも影響する立役者であることがわかりました。木材自給率の増加、木造建築の市場拡大...。ますます注目度の高まる「木造建築」に今後も目が離せません。