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東京藝術大学 国際交流棟 Hisao & Hiroko TAKIPLAZA

2023-10-31

上野の山、上野公園にある東京藝術大学の音楽学部キャンパス内にこの国際交流棟は建てられました。以前からあった鉄筋コンクリートの大学会館の一部を解体し、そこに接続する形で木と鉄骨のハイブリッド構造の建物を作り、2022年11月竣工しました。

工事概要

国際交流棟は留学生と学生、教職員等が共に学び、共に交流できる国際交流の拠点となる施設です。パブリックアート『共に藝える』をテーマに、アートに満ちた藝大らしい建物として作られました。

名称
東京藝術大学 国際交流棟
所在地
東京都台東区上野公園12-8
発注者
国立大学法人 東京芸術大学
基本設計
東京藝術大学キャンパスグランドデザイン推進室、施設課
隈研吾建築都市設計事務所
実施設計監理
東京藝術大学キャンパスグランドデザイン推進室、施設課
前田建設工業株式会社 一級建築士事務所
デザイン監修
隈研吾建築都市設計事務所
施工
前田建設工業株式会社 東京建築支店
建物用途
大学
竣工年月
2022年11月
建築面積
373.24㎡
延床面積
1,483.54㎡
構造/階数
鉄骨造・木造/地上5階

混構造を採用

この建物は木と鉄骨のハイブリッド構造という珍しい構造で建てられいてます。
木造化により、コンクリート打設や鉄骨ボルト締めなどの大きな音の出る作業をなるべく減らし、音楽学部内での騒音発生を少しでも減らすことと軽量化で重機の小型化・搬入車両の軽減を図り、構内の学生・教職員の安全を向上させることを目的にしていました。ただ、建物用途として大きな空間が必要な個所もあり、これらの要望を無理なく共存させるために木と鉄骨のハイブリッド構造を採用したのです。
3階床まではすべて鉄骨造、3,4階は平面的に半分木造・半分鉄骨造、5階は全て木造となっています。この断面構成を次の図のようになっています。

芸術あふれる建物

外観には2つの特徴があり、1つメッシュパネル状の下地ごと交換できるようになっている「変化し続けるアート」です。歳月に伴い更新されていく予定で今後が非常に楽しみです。
もう1つがその奥に見える30㎝角の木集成材の構造ブレース(筋交い)です。この建物は木造部を石膏ボードで覆うことにより耐火建築物を成り立たせています。なので、ほとんどの構造木材は見えませんが、ブレースは法的に耐火被覆が不要なため、このようにデザイン的に見せることが可能になりました。

この建物にはファサード以外にも各所にアートが取り入れられてます。
1~2階の階段壁面には留学生交流パブリックアートの陶板レリーフ。一人が1枚ずつ作成し、2年かけて壁面が埋まる予定です。
4階茶室には地産地消パブリックアートとして、東京藝術大学取手校地の紙すき工房で自生している竹や藁で漉かれた和紙、木組のとても自由な欄間、上野校地で倒木したヒマラヤ杉で作られた床板など東京芸術大学関係者みなさまによるアートを随所に見ることができます。

使用している木材について

このプロジェクトが始まってすぐ、世の中でウッドショックという世界中で木材が不足する事態が起きました。そのためメインの樹種としてレッドウッド(欧州赤松)などの外材(輸入材)を急遽一部を国産カラマツに切り替えなければならないなどの影響がありましたが、木構造業者殿の素早い準備で事なきを得ました。その節はほんとうにありがとうございました。

柱梁ブレースなどの木構造材以外にNLTという木構造材が床に使われてます。これはSPFと呼ばれる比較的安価な北米産の2×6材を縦に並べて横から釘やビスで固定し、厚さ140㎜の厚い板状にしたものです。NLTは北米では一般的に使われてますが、日本で中高層建物の床に採用されたのは本建物が初めてです。

(NLT写真)

また、フラン樹脂加工した木材を外装に使用してます。写真の庇・サッシルーバー・ウッドデッキの木材は通常腐朽しやすいスギ・ヒノキ材ですが、フラン樹脂加工により耐久性を大きく向上することを図っており、今後の経年品質保持に期待が出来ます。

施工のポイント

狭小地での施工だったので、建て方は奥の方から手前に建て逃げしていく施工を行いました。すると木と鉄骨のハイブリッド構造のため、建てる柱などの部材が2,3日おきに鉄骨と木とで入れ替わってしまいます。木構造工事の鳶さんが木も鉄もNLTも全部の建て方を行ってくれたことでスムーズな施工ができたと思います。
また、鉄骨造と木造では精度管理の方法の基本が違うことも検討が必要でした。鉄骨造はボルトクリアランスなどを利用した部材間での調整を基本として、所定の誤差内に納めます。それに対して木造は柱梁間などが隙間なく緊結されるため、部材間で調整するという考えはありません。ですので鉄骨造と木造が上下にまた平面に取り合うところは極力誤差が出ないように調整しました。

まとめ

このように、一部木造化することによってCO2排出量を約380t削減しています。これはすべて鉄骨造にした場合の28%に相当します。また木造化による構造体の軽量化やコンクリート打設量を減らすことで、工事車両の台数を約20%削減し、輸送によるCO2排出量削減にも貢献しています。

最後に、東京藝術大学関係者のみなさま、各工房などアート関係のみなさま、隈研吾建築都市設計事務所のみなさま、そして協力業者のみなさま、2年以上の長きにわたり本当に多くの方々の力でこのプロジェクトは完成することが出来ました。
木造が大規模化していく上で混構造は欠かせなくなると思われます。まだ事例が少ない中で、なるべく一般的な納まりで作ろうとしたこの建物が少しでも先例として役に立てばと願います。

2022年5月 木造部建方完了
2022年12月 竣工した建物と記念撮影 隈研吾氏、協力会社関係者、前田建設職員と共に