生物多様性/木で建ててみよう ~私たちにできること~
きょうはたてきくんの新しいおうちの完成祝いの日。たてきくんはうれしさでニコニコしながらおばあちゃんと一緒に新しいおうちに向かいました。 うわー!すごい!ぴかぴかのおうちだ!今日からここがぼくのおうち? せやで。ええおうちできたやろ。おじいちゃん、頑張ったんやで。中にはいってみるか? うん!はいっていいの? おっ!たてき。やっと来たな。どや、カッコええやろ。おじいちゃん、なかなかええ腕してるやろ。 うん、すごいかっこいい!おじいちゃん、すごい大工さんなんだね。ぼくこのおうちだいすき!僕のお部屋もあるの? あるで、2階に。階段上がってみ。たてきの部屋はな、冬はあったかくって、夏は涼しくって、風邪もひきにくくて、いっぱい勉強できて、ゆっくり眠れるんやで。なんと魔法の部屋なんや。 魔法のへや?なんかすごそうだね。そういえばいいにおいがする気が・・・ お、気づいたか。これはヒノキのにおいや。このにおいは気持ちがゆったりしたり、勉強したくなったりして子供部屋にはピッタリやな。 ほんとに勉強したくなるかな?ちょっと不思議だけど、いいにおいってすごい魔法なんだね。 それだけちゃうで、木は触ってもあったかかったり、歩いても疲れにくいからたてきの部屋だけじゃなくてこの家はどの部屋も住みごこち抜群やで。 こんにちは。 あ、桧山さん、ようこそお越しくださいました。おかげさまでこんな素敵な家ができて、ほんとにありがとうございました。 いえいえ、さすがいい腕してますね、おとうさんは。 あ、おじちゃん、こんにちは。 こんにちは、たてきくん。素敵なおうちができたね。今日はお祝いに来たよ。 おっちゃん、いらっしゃい。そういえば、こないだたてきにもうすぐおっちゃんにお世話になるって話したやろ? おぼえてるか? うん。おぼえてるよ。でもなんでお世話になるんだっけ? せっかくたてきのお父さんとお母さんの家を建てさせてもらうんやから、ええ木を使って建てたかったんや。それで桧山の木をつかわせてもらったんや。 ええ木ってなに? せやな、いろんな考え方があるけど、どんな人が育ててくれた木かわかったら安心して使えるやろ、それがええ木ってことかな。ほら、野菜とかもそうやろ。農家さんの顔が見えたら安心するみたいな。せやけど、どこから来たんかわからへん木は、使いたくない。違法伐採の木とかやったらなおのこと使いたくないやろ。 イホウバッサイ? こないだ遠足の時に先生と一緒に山や森には「お世話になってること」、まあ、いっつもおばあちゃんがゆうてる「自然の恵み」、がいっぱいあるって勉強したやろ。そんな自然の恵みをうみだしてる森の木を、ルールを破って伐りすぎるとか、他の人の山の木を勝手に伐るとか、法律に違反して伐ったらあかん木を伐ることを違法伐採っていうんや。これは日本だけやなくて世界中で問題になってんねん。木がなくなったらいろんなとこで生き物が生きられへんようになってしまうからな。 そっか、生き物が生きられなくなったらいろんな恵みがつくられなくなっちゃうんだよね。ってことは、おじちゃんの木は「いい木」なんだね。 せやな。桧山は山や自然のことを知り尽くしていて、丁寧に森を育てて森の生き物が困らんように木を伐ってるから安心して使えるんや。 そっか、おじちゃんは自然を案内してくれてたんだね。いろんなこと、いっぱい教えてくれてありがとう。 こんにちは。おそくなりました。 あ、先生、お忙しいのにお越しいただきありがとうございます。 あれ?先生。なんできてくれたの。 たてきくんこんにちは。私のお父さんの木を使って建ててくれたって聞いたので、見せてもらいたくてお願いしたの。 お父さん?あれ、そういえば先生の名前、ひやまって・・・、おじちゃん、せんせいのおとうさんだったの⁉ たてき、一緒におったんたのしかったなあ。またいつでも遊びにおいでよ。 そうかこのおうちに引っ越したら、おばあちゃんと一緒に住まなくなるんだね。さみしいなあ。また、遊びに行ってもいい? まあ、いつでもおいで。自然の恵みでできたこのおうち、大事にしいや。 うん!ありがとう。だいじにするね。だって感謝しなかったら怖い魔法がかかっちゃうかもしれないからね。 キャラクター紹介 小学校2年生の男の子。最近他県からおばあちゃんの家の近くに引っ越してきた。 生まれも育ちも大阪の還暦を迎えた、たてきくんのおばあちゃん。「しっぺ返しくんで」が口癖。 こちらも大阪生まれ大阪育ち、たてきくんのおじいちゃん。大工歴50年の大ベテランの腕のいい大工さん。 たてきくんによく似た優しいお母さん。おばあちゃんとおじいちゃんの娘さん。 たてきくんの担任の先生。実は、おじいちゃんのお友達の桧山さんの娘さん。 おじいちゃんの幼馴染で、ヒノキを育てる林業家。いつもたてきくんに自然について気づきを与えてくれる。 ―用語解説― ■木と人のかかわり ■違法伐採とクリーンウッド法 たてきくんの目を通して、日ごろ当たり前だと思っていることが、いかにありがたいことなのか、そしてそれをおろそかにすると、どんな取り返しのつかないことを引き起こしてしまうのか、考えていただくきっかけになったでしょうか。残念なことに、現在、その取り返しがつかないことが起こり始めているという情報に触れることが多くなってきています。 ■イラスト協力 座二郎(ざじろう)
木をあしらった空間を心地よいと感じる方は多いのではないでしょうか。近年、木と人のかかわりに関する様々な研究がなされており、木には人に快適を与えてくれるチカラがあることが科学的にも分かり始めています。
まずは木を触ると温かいと感じることについて考えてみましょう。人が何かを触って温かい、冷たいと感じるのは、自分の手からその物質への熱の移動量と関係があります。材料の温度が同じでも、その材料の熱の伝えやすさによって触った時の温度が違って感じられます。この材料の熱の伝えやすさは熱伝導率として数値で表され、木はその数値がほかの建材よりも小さいことが特徴です。例えば、鋼材は45、コンクリートは0.78、杉の木は0.09となっています。そしてこの数値が大きいほど急激に熱い・冷たいを感じるのです。つまりこの数値が小さい木は、熱の移動が緩やかなので触った時に冷たすぎず、熱すぎず温かいと感じやすいのでしょう。また、木を使った空間は人を緊張状態から解放してくれる力があります。これは、木が放つ香りを嗅ぐことで、副交感神経の活動が活発になり、リラックス状態になる効果があるからです。ほかにも、最近の研究では木材を触ることも脳活動を鎮静化させリラックス効果がもたらされることもわかってきました。
木があしらわれた空間は何となく居心地がいいと感じている方も多いと思いますが、実は最近の研究によって科学的な裏付けもされ始めています。ご興味のある方は是非、下記の資料もご覧になってみてください。
おばあちゃんが話してくれたように、ルールを逸脱した伐採は、生物多様性を破壊し、経済的な不安定をもたらします。さらにそのような伐採によるアマゾンや東南アジアなどの熱帯雨林の喪失は、気候をも変えてしまう恐れがあると言われています。話が大きすぎてぴんと来ないかもしれませんが、収穫直前の果物や野菜が、残念ながら朝起きると忽然と畑から消えているというニュースを耳にすることがありますよね。それとよく似た状況です。それを防止し、ちゃんと木を育て出荷している山から木材を購入することを促進するために、多くの国で様々な法律が設けられています。日本では、2017年に違法伐採を撲滅することを目的にクリーンウッド法(正式名称:合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律)が施行され、2025年4月にはこの法律をさらに強化する改正がなされる予定なので、今後もその動向に注目していきたいと思います。
たてきくんのお話でご紹介したのはほんの一部の情報ですが、これをきっかけに自然の恵みについて興味を持って知ることが、「think global, act local.」 の第一歩になります。知ることは考えることにつながり、考えることは行動を起こすことにつながります。
「カーボンニュートラルを目指す」や「地球温暖化を防止する」といわれると話の規模が大きすぎて、自分たちでできることが何なのかぴんと来ないかもしれませんが、まずは身近な自然とその恵みを知ることから始めてみませんか。そうすればきっと、「私たちにできること」が見えてくると思います。たてきくんが中学2年生になる頃には、2030年、30by30やSDGsの目標年となります。その時を目指して、そしてその先も今と変わらず自然の恵みに感謝できる世の中であるようにまずは、知ることから始めましょう。
もうすぐ建木(たてき)くんも3年生です。一年間、お読みいただきありがとうございました。
2000年 早稲田大学理工学研究科建築学専攻修士課程修了
2000年~21年 前田建設設計部。通勤電車の中で漫画を描き始める。
2021年 独立。描く建築家。